病びょう棟とうに着いて扉とびらを押し開くと、ネビルが扉近くのベッドに横になっているのが目に入った。眠っているのだろう。ロン、ハーマイオニー、ルーナ、トンクス、ルーピンが、病棟のいちばん奥にあるもう一つのベッドを囲んでいた。扉が開く音で、みんないっせいに顔を上げた。ハーマイオニーが駆かけ寄って、ハリーを抱きしめた。ルーピンも心配そうな顔で近寄ってきた。
「ハリー、大丈夫か?」
「僕は大丈夫……ビルはどうですか?」
誰だれも答えなかった。ハーマイオニーの背中越しにベッドを見ると、ビルが寝ているはずの枕まくらの上に、見知らぬ顔があった。ひどく切り裂さかれて不気味な顔だった。マダム・ポンフリーが、きつい臭においのする緑色の軟膏なんこうを傷口に塗ぬりつけていた。マルフォイのセクタムセンプラの傷を、スネイプが杖つえでやすやすと治したことを、ハリーは思い出した。
「呪文か何かで、傷を治せないんですか?」ハリーが校医に聞いた。
「この傷にはどんな呪文も効ききません」マダム・ポンフリーが言った。
「知っている呪文は全部試してみましたが、狼おおかみ人にん間げんの噛かみ傷には治ち療りょう法ほうがありません」
「だけど、満月のときに噛まれたわけじゃない」
ロンが、見つめる念力ねんりきでなんとか治そうとしているかのように、兄の顔をじっと見ながら言った。
「グレイバックは変身してなかった。だから、ビルは絶対にほ――本物の――?」
ロンが戸惑とまどいがちにルーピンを見た。
「ああ、ビルは本物の狼人間にはならないと思うよ」ルーピンが言った。
「しかし、まったく汚染おせんされないということではない。呪のろいのかかった傷なんだ。完全には治らないだろう。そして――そしてビルはこれから、何らかの、狼的な特とく徴ちょうを持つことになるだろう」
「でも、ダンブルドアなら、何かうまいやり方を知ってるかもしれない」ロンが言った。
「ダンブルドアはどこだい? ビルはダンブルドアの命令で、あの狂ったやつらと戦ったんだ。ダンブルドアはビルに借りがある。ビルをこんな状じょう態たいで放ってはおけないはずだ――」
「ロン――ダンブルドアは死んだわ」ジニーが言った。