このマントラのような呪じゅ文もんは、ハリーが眠りに入ったときに、頭の中で脈みゃく打うちはじめるらしい。カップやロケットや謎なぞの品々がびっしりと夢に現れ、しかもどうしても近づけない。ダンブルドアが縄なわ梯子ばしごを出して助けようとするが、ハリーが梯子を登りはじめたとたんに梯子は何匹もの蛇に変わってしまう……。
ダンブルドアが亡くなった次の朝、ハリーは、ロケットの中のメモをハーマイオニーに見せていた。ハーマイオニーも、そのときは、これまで読んだ本に出てきた、あまり有名でない魔法使いの中に、その頭文字に当てはまる人物を思いつかなかった。しかしそれ以来、ハーマイオニーは、何も宿題がない生徒にしてはやや必要以上に足しげく、図書室に通っていたのだ。
「違うの」ハーマイオニーは悲しそうに答えた。
「努力してるのよ、ハリー。でも、何も見つからない……同じ頭文字で、そこそこ名前の知られている魔法使いは二人いるわ――ロザリンド・アンチゴーネ・バングズ……『斧振おのふり男』ルパート・ブルックスタントン……でも、この二人はまったく当てはまらないみたい。あのメモから考えると、分ぶん霊れい箱ばこを盗んだ人物はヴォルデモートを知っていたらしいけど、バングズも『斧振り男』もヴォルデモートとはまったく関係がないの……そうじゃなくて、実は、あのね……スネイプのことなの」
ハーマイオニーは、その名前を口にすることさえ過敏かびんになっているようだった。
「あいつがどうしたって?」ハリーはまた椅い子すに沈み込んで、重苦しく聞いた。
「ええ、ただね、『半はん純じゅん血けつのプリンス』について、ある意味では私が正しかったの」
ハーマイオニーは遠えん慮りょがちに言った。
「ハーマイオニー、蒸むし返す必要があるのかい? 僕がいま、どんな思いをしているかわかってるのか?」
「ううん――違うわ――ハリー、そういう意味じゃないの!」
あたりを見回して、誰だれにも聞かれていないかどうかを確かめながら、ハーマイオニーが慌あわてて言った。
「あの本が、一度はアイリーン・プリンスの本だったっていう私の考えが、正しかったっていうだけ。あのね……アイリーンはスネイプの母親だったの!」
「あんまり美人じゃないと思ってたよ」ロンが言ったが、ハーマイオニーは無視した。
「ほかの古い『予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん』を調べていたら、アイリーン・プリンスがトビアス・スネイプっていう人と結婚したという、小さなお知らせが載のっていたの。それからしばらくして、またお知らせ広告があって、アイリーンが出産したって――」
「――殺人者をだろ」ハリーが吐はき捨てるように言った。
「ええ……そうね」ハーマイオニーが言った。
「だから……私がある意味では正しかったわけ。スネイプは『半分プリンス』であることを誇ほこりにしていたに違いないわ。わかる? 『予言者新聞』によれば、トビアス・スネイプはマグルだったわ」
「ああ、それでぴったり当てはまる」ハリーが言った。
「スネイプは、ルシウス・マルフォイとか、ああいう連中に認められようとして、純血の血ち筋すじだけを誇こ張ちょうしたんだろう……ヴォルデモートと同じだ。純血の母親、マグルの父親……純血の血統けっとうが半分しかないのを恥はじて、『闇やみの魔ま術じゅつ』を使って自分を恐れさせようとしたり、自分で仰ぎょう々ぎょうしい新しい名前をつけたり――ヴォルデモート『卿きょう』――半純血の『プリンス』――ダンブルドアはどうしてそれに気づかなかったんだろう――?」