ハリーは言葉を途と切ぎらせ、窓の外に目をやった。ダンブルドアがスネイプに対して、許しがたいほどの信頼しんらいを置いていたということが、どうしても頭から振り払えない……しかし、ハリー自身が同じような思い込みをしていたことを、ハーマイオニーがいま、期せずして思い出させてくれた……走り書きの呪じゅ文もんがだんだん悪意のこもったものになってきていたのに、ハリーは、あんなに自分を助けてくれた、あれほど賢かしこい男の子が悪人のはずはないと、頑かたくなにそう考えていた。
自分を助けてくれた……いまになってみれば、それは耐たえ難がたい思いだった……。
「あの本を使っていたのに、スネイプがどうして君を突き出さなかったのか、わかんないなあ」ロンが言った。
「君がどこからいろいろ引っぱり出してくるのか、わかってたはずなのに」
「あいつはわかってたさ」ハリーは苦にがい思いで言った。
「僕がセクタムセンプラを使ったとき、あいつにはわかっていたんだ。『開かい心しん術じゅつ』を使う必要なんかなかった……それより前から知っていたかもしれない。スラグホーンが、魔ま法ほう薬やく学がくで僕がどんなに優秀かを吹ふい聴ちょうしていたから……自分の使った古い教科書を、棚たなの奥に置きっぱなしになんか、しておくべきじゃなかったんだ。そうだろう?」
「だけど、どうして君を突き出さなかったんだろう?」
「あの本との関係を、知られたくなかったんじゃないかしら」ハーマイオニーが言った。
「ダンブルドアがそれを知ったら、不快に思われたでしょうから。それに、スネイプが自分の物じゃないってしらを切っても、スラグホーンはすぐに筆跡ひっせきを見破ったでしょうね。とにかく、あの本は、スネイプの昔の教室に置き去りになっていたものだし、ダンブルドアは、スネイプの母親が『プリンス』という名前だったことを知っていたはずよ」
「あの本を、ダンブルドアに見せるべきだった」ハリーが言った。
「ヴォルデモートは、学生のときでさえ邪悪じゃあくだったと、ダンブルドアがずっと僕に教えてくれていたのに。そして僕は、スネイプも同じだったという証しょう拠こを手にしていたのに――」
「『邪悪』という言葉は強すぎるわ」ハーマイオニーが静かに言った。
「あの本が危険だって、さんざん言ったのは君だぜ!」
「私が言いたいのはね、ハリー、あなたが自分を責せめすぎているということなの。『プリンス』がひねくれたユーモアのセンスの持ち主だとは思ったけど、殺人者になりうるなんて、まったく思わなかったわ……」
「誰だれも想像できなかったよ。スネイプが、ほら……あんなことをさ」ロンが言った。