「ベッドは空からっぽ メモも置いてない 車は消えてる。……事じ故こでも起こしたかもしれない……心配で心配で気が狂いそうだった。……わかってるの……こんなことは初めてだわ。……お父とうさまがお帰りになったら覚かく悟ごなさい。ビルやチャーリーやパーシーは、こんな苦労はかけなかったのに……」
「完かん璧ぺき・パーフェクト・パーシー」フレッドがつぶやいた。
「パーシーの爪つめのあかでも煎せんじて飲みなさい」ウィーズリー夫人はフレッドの胸むねに指を突きつけて怒ど鳴なった。「あなたたち死んだかもしれないのよ。姿を見られたかもしれないのよ。お父さまが仕事を失うことになったかもしれないのよ――」
この調子がまるで何時間も続いたかのようだった。ウィーズリー夫人は声が嗄かれるまで怒鳴り続け、それからハリーのほうに向き直った。ハリーはたじたじと、後ずさりした。
「まあ、ハリー、よく来てくださったわねえ。家へ入って、朝食をどうぞ」
ウィーズリー夫人はそう言うと、くるりと向きを変えて家のほうに歩きだした。ハリーはどうしようかとロンをちらりと見たが、ロンが大だい丈じょう夫ぶというように頷うなずいたので、あとについていった。
台所は小さく、かなり狭せま苦くるしかった。しっかり洗い込こまれた木のテーブルと椅い子すが、真ん中に置かれている。ハリーは椅子の端はしっこに腰こし掛かけて周まわりを見み渡わたした。ハリーは魔法使いの家にこれまで一度も入ったことがなかった。
ハリーの反対側の壁かべに掛かかっている時計には針が一本しかなく、数字が一つも書かれていない。その代わり、「お茶を入れる時間」「鶏にわとりに餌えさをやる時間」「遅ち刻こくよ」などと書き込まれていた。暖だん炉ろの上には本が三段重ねに積まれている。「自じ家か製せい魔ま法ほうチーズのつくり方かた」「お菓か子しをつくる楽しい呪じゅ文もん」「一分間でご馳ち走そうを――まさに魔法だ」などの本がある。流しの脇わきに置かれた古ぼけたラジオから、放送が聞こえてきた。ハリーの耳が確かなら、こう言っている。「次は『魔女の時間』です。人気歌手の魔女セレスティナ・ワーベックをお迎むかえしてお送りします」