「いえ、大だい丈じょう夫ぶです。ただ――」
「ハリー おまえさん、こんなとこで何しちょるんか」
ハリーは心が躍おどった。老婆は跳び上がった。山積みの生爪が、老婆の足元にバラバラと滝のように落ちた。ホグワーツの森もり番ばん、ハグリッドの巨大な姿に向かって、老婆は悪あく態たいをついた。ハグリッドが、ごわごわした巨大な髭ひげの中から、コガネムシのような真っ黒な目を輝かがやかせて、二人のほうに大おお股またで近づいてきた。
「ハグリッド」ハリーはほっと気が抜けて声が嗄かすれた。
「僕ぼく、迷まい子ごになって……煙えん突とつ飛ひ行こう粉ごなが……」
ハグリッドはハリーの襟えり首くびをつかんで、老ろう魔ま女じょから引き離はなした。弾はずみで盆ぼんが魔女の手から吹ふっ飛んだ。魔女の甲かん高だかい悲ひ鳴めいが、二人のあとを追いかけて、くねくねした横よこ丁ちょうを通り、明るい陽ひの光の中に出るまでついてきた。遠くにハリーの見知った、純じゅん白ぱくの大だい理り石せきの建物が見えた。グリンゴッツ銀行だ。ハグリッドは、ハリーを一いっ足そく飛びにダイアゴン横丁に連れてきてくれたのだ。
「ひどい格かっ好こうをしちょるもんだ」
ハグリッドはぶっきらぼうにそう言うと、ハリーの煤すすを払はらった。あまりの力で払うので、ハリーはすんでのところで、薬くすり問どん屋やの前にあるドラゴンの糞ふんの樽たるの中に突っ込こむところだった。
「夜の闇ノクターン横よこ丁ちょうなんぞ、どうしてまたうろうろしとったか。――ハリーよ、あそこは危ねえとこだ――おまえさんがいるところを、誰かに見られたくねえもんだ――」
「僕もそうだろうって思った」
ハリーはハグリッドがまた煤払いをしようとしたので、ひょいとかわしながら言った。
「言っただろ、迷子になったって――ハグリッドはいったい何してたの」
「『肉にく食しょくナメクジの駆く除じょ剤ざい』を探しとった」ハグリッドは唸うなった。「やつら、学校のキャベツを食い荒らしとる。おまえさん、一人じゃなかろ」
「僕、ウィーズリーさんのとこに泊とまってるんだけど、はぐれちゃった。探さなくちゃ」
二人は一いっ緒しょに歩きはじめた。