「みなさん」
ロックハートは声を張はり上げ、手でご静せい粛しゅくにという合あい図ずをした。
「なんと記念すべき瞬しゅん間かんでしょう 私わたくしがここしばらく伏ふせていたことを発表するのに、これほどふさわしい瞬間はまたとありますまい」
「ハリー君が、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店に本日足を踏ふみ入れた時、この若者は私の自伝を買うことだけを欲ほっしていたわけであります。――それをいま、喜んで彼にプレゼントいたします。無料で――」人垣がまた拍手した。「――この彼が思いもつかなかったことではありますが――」
ロックハートの演えん説ぜつは続いた。ハリーの肩を揺ゆすったのでメガネが鼻の下までずり落ちてしまった。
「まもなく彼は、私わたくしの本『私わたしはマジックだ』ばかりでなく、もっともっとよいものをもらえるでしょう。彼もそのクラスメートも、実は、『私わたしはマジックだ』の実物を手にすることになるのです。みなさん、ここに、大いなる喜びと、誇ほこりを持って発表いたします。この九月から、私わたくしはホグワーツ魔ま法ほう魔ま術じゅつ学がっ校こうにて、『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』の担当教きょう授じゅ職しょくをお引き受けすることになりました」
人ひと垣がきがワーッと沸わき、拍はく手しゅし、ハリーはギルデロイ・ロックハートの全ぜん著ちょ書しょをプレゼントされていた。重みでよろけながら、ハリーはなんとかスポットライトの当たる場所から抜け出し、部屋の隅すみに逃のがれた。そこにはジニーが、買ってもらったばかりの大おお鍋なべのそばに立っていた。
「これ、あげる」
ハリーはジニーに向かってそうつぶやくと、本の山をジニーの鍋の中に入れた。
「僕のは自分で買うから――」
「いい気持だったろうねぇ、ポッター」
ハリーには誰の声かすぐわかった。身を起こすと、いつもの薄うすら笑いを浮うかべているドラコ・マルフォイと真正面から顔が合った。