ハリーはヘドウィグの籠かごがトランクの上に、しっかりくくりつけられていることを確たしかめ、カートの方向を変えて柵のほうに向けた。ハリーは自信たっぷりだった。煙えん突とつ飛ひ行こう粉ごなを使うときの気持の悪さに比べればなんでもない。二人はカートの取っ手の下に屈かがみ込こみ、柵をめがけて歩いた。スピードが上がった。一メートル前からは駆かけだした。そして―――、
ガッツーン。
二つのカートが柵にぶつかり、後ろに跳はね返った。ロンのトランクが大きな音を立てて転ころがり落ちた。ハリーはもんどり打って転がり、ヘドウィグの籠がピカピカの床の上で跳ねた。ヘドウィグは転がりながら怒ってギャーギャー鳴いた。周まわりの人はじろじろ見たし、近くにいた駅えき員いんは「君たち、一いっ体たい全ぜん体たい何をやってるんだね」と叫さけんだ。
「カートが言うことを聞かなくて」
脇わき腹ばらを押さえて立ち上がり、ハリーがあえぎながら答えた。ロンはヘドウィグを拾ひろい上げに走っていった。ヘドウィグがあんまり大おお騒さわぎするので、周りの人ひと垣がきから動どう物ぶつ虐ぎゃく待たいだと、ブツブツ文もん句くを言う声が聞こえてきたのだ。
「なんで通れなかったんだろう」ハリーがひそひそ声でロンに聞いた。
「さあ――」
ロンがあたりをキョロキョロ見回すと、物もの見み高だかい見物客がまだ十数人いた。
「僕たち汽き車しゃに遅おくれる。どうして入口が閉じちゃったのかわからないよ」ロンが囁ささやいた。
ハリーは頭上の大時計を見上げて鳩みず尾おちが痛くなった。十秒前……九秒前……。
ハリーは慎しん重ちょうにカートを前進させ、柵さくにくっつけ、全力で押してみた。鉄てっ柵さくは相あい変かわらず固かたかった。