車がグラグラッといやな揺ゆれ方をした。ハリーが窓の外をチラッと見ると、一、二キロ下に黒々と鏡かがみのように滑なめらかな湖こ面めんが見えた。ロンは指の節ふしが白くなるほどギュッとハンドルを握りしめていた。車がまたグラッと揺れた。
「がんばれったら」ロンが歯を食いしばった。
湖の上に来た……城は目の前だ……ロンが足を踏ふん張ばった。
ガタン、ブスブスッと大きな音をたてて、エンジンが完全に死んだ。
「ウ、ヮ」しんとした中で、ロンの声だけが聞こえた。
車が鼻から突っ込こんだ。スピードを上げながら落ちていく。城の固かたい壁かべにまっすぐ向かっていく。
「ダメェェェェェェ」
ハンドルを左右に揺すりながらロンが叫さけんだ。車が弓なりにカーブを描えがいて、ほんの数センチのところで黒い石いし壁かべから逸それ、黒い温室の上に舞まい上がり、野や菜さい畑ばたけを越こえ、黒い芝しば生ふの上へと、刻こっ々こくと高度を失いつつ向かっていった。
ロンは完全にハンドルを放はなし、尻しりポケットから杖つえを取り出した。
「止まれ 止まれ」
ロンは計けい器き盤ばんやウィンドーをバンバン叩たたきながら叫んだが、車は落下し続け、地面が見る見る近づいてきた……。
「あの木に気をつけて」
ハリーは叫びながらハンドルに飛びつこうとしたが、遅おそすぎた。
グワッシャン
金きん属ぞくと木がぶつかる、耳を劈つんざくような音とともに、車は太い木の幹みきに衝しょう突とつし、地面に落下して激はげしく揺れた。ひしゃげた車のボンネットの中から、蒸気がうねるように噴き出している。ヘドウィグは怖こわがってギャーギャー鳴き、ハリーは額ひたいをフロントガラスにぶつけてゴルフボール大のこぶがズキズキ疼うずいた。右のほうでロンが絶ぜつ望ぼうしたような低い呻うめき声をあげた。