フィルチの机の後ろの壁には、ピカピカに磨みがき上げられた鎖くさりや手て枷かせが一ひとそろい掛かけられていた。生徒の足首を縛しばって天井から逆さかさ吊づりにすることを許してほしいと、フィルチがしょっちゅうダンブルドアに懇こん願がんしていることは、みんな知っていた。
フィルチは机の上のインク瓶びんから羽は根ねペンを鷲わしづかみにし、羊よう皮ひ紙しを探してそこら中引っかき回した。
「くそっ」フィルチは怒いかり狂って吐はき出すように言った。
「煙の出ているドラゴンのでかい鼻クソ……カエルの脳のうみそ……ネズミの腸はらわた……もううんざりだ……見せしめにしてくれる……書しょ類るいはどこだ……よし……」
フィルチは机の引き出しから大きな羊皮紙の巻まき紙がみを取り出し、目の前に広げ、インク瓶に長い黒い羽根ペンを突つっ込んだ。
「名前……ハリー・ポッター……罪ざい状じょう……」
「ほんのちょっぴりの泥です」ハリーが言った。
「そりゃ、おまえさんにはちょっぴりの泥でござんしょうよ。だけどこっちは一時間も余よ分ぶんに床をこすらなけりゃならないんだ」
団だん子ご鼻ばなからゾローッと垂たれた鼻水を、不ふ快かいそうに震ふるわせながらフィルチが叫んだ。
「罪状……城を汚けがした……ふさわしい判はん決けつ……」
鼻水を拭ふき拭き、フィルチは目をすがめてハリーを不快げに眺ながめた。ハリーは息をひそめて判はん決けつが下るのを待っていた。
フィルチがまさにペンを走らせようとしたとき、天井の上でバーン と音がして、石油ランプがカタカタ揺ゆれた。
「ピーブズめ」フィルチは唸うなり声をあげ、羽は根ねペンに八やつ当あたりして放ほうり投げた。
「今度こそ取とっ捕つかまえてやる。今度こそ」
ハリーのほうを見向きもせず、フィルチはぶざまな走り方で事じ務む室しつを出ていった。ミセス・ノリスがその脇わきを流れるように走った。