「おまえが、わたしの個こ人じん的てきな手紙を読むとわかっていたら……わたし宛あての手紙ではないが……知り合いのものだが……それはそれとして……しかし……」
ハリーは唖あ然ぜんとしてフィルチを見つめた。フィルチがこんなに怒ったのは見たことがない。目は飛び出し、垂たれ下さがった頬ほおの片方がピクピク痙けい攣れんして、タータンチェックの襟えり巻まきまでも、怒りの形ぎょう相そうを際きわ立だたせていた。
「もういい……行け……一ひと言ことも漏もらすな……もっとも……読まなかったのなら別だが……さあ、行くんだ。ピーブズの報ほう告こく書しょを書かなければ……行け……」
なんて運がいいんだろうと驚おどろきながら、ハリーは急いで部屋を出て、廊ろう下かを渡わたり、上の階へと戻った。何の処しょ罰ばつもなしにフィルチの事じ務む室しつを出られたなんて、開校以来の出で来き事ごとかもしれない。
「ハリー ハリー うまくいったかい」
「ほとんど首くび無なしニック」が教室から滑すべるように現れた。その背はい後ごに金と黒の大きな飾かざり棚だなの残ざん骸がいが見えた。ずいぶん高いところから落とされた様よう子すだった。
「ピーブズを焚たきつけて、フィルチの事じ務む室しつの真上に墜つい落らくさせたんですよ。そうすれば気を逸そらすことができるのでは、と……」ニックは真しん剣けんな表情だった。
「君だったの」ハリーは感かん謝しゃを込こめて言った。
「あぁ、とってもうまくいったよ。処しょ罰ばつも受けなかった。ありがとう、ニック」
二人で一いっ緒しょに廊ろう下かを歩きながら、ハリーはニックが、パトリック卿きょうの入会拒きょ否ひの手紙を、まだ握にぎりしめていることに気づいた。
「『首無し狩がり』のことだけど、僕に何かできることがあるといいのに」ハリーが言った。