「まことに愉ゆ快かいですな」「ほとんど首無しニック」が沈しずんだ声で言った。
「ニックのことは、気にしたもうな」床に落ちたパトリック卿の首が叫さけんだ。
「我われ々われがニックを『狩かりクラブ』に入れないことを、まだ気に病やんでいる しかし、要するに――彼を見れば――」
「あの――」ハリーはニックの意味ありげな目つきを見て、慌あわてて切り出した。
「ニックはとっても――恐ろしくて、それで――あの……」
「ははん」パトリック卿の首が叫んだ。「そう言えと彼に頼まれたな」
「みなさん、ご静せい粛しゅくに。一ひと言こと、私わたくしからご挨あい拶さつを」「ほとんど首無しニック」が声を張はりあげ、堂どう々どうと演えん壇だんのほうに進み、壇だん上じょうに登って、ひやりとするようなブルーのスポットライトを浴あびた。
「お集まりの、いまは亡なき、嘆なげかわしき閣かっ下か、紳しん士し、淑しゅく女じょの皆みな様さま。ここに私わたくし、心からの悲しみを持ちまして……」
そのあとは誰も聞いてはいなかった。パトリック卿と「首無し狩がりクラブ」のメンバーが、ちょうど首ホッケーを始めたところで、客はそちらに目を奪うばわれていた。「ほとんど首無しニック」は聴ちょう衆しゅうの注意を取り戻そうと躍やっ起きになったが、パトリック卿の首がニックの脇を飛んでいき、みんながワッと歓かん声せいをあげたので、すっかり諦あきらめてしまった。
ハリーはもう寒くてたまらなくなっていた。もちろん腹ぺこだった。
「僕ぼく、もう我が慢まんできないよ」ロンがつぶやいた。
オーケストラがまた演えん奏そうを始め、ゴーストたちがスルスルとダンス・フロアに戻ってきたとき、ロンは歯をガチガチ震ふるわせていた。
「行こう」ハリーも同じ思いだった。
誰かと目が合うたびににっこりと会え釈しゃくしながら、三人は後ずさりして出口へと向かった。ほどなく、三人は黒い蝋ろう燭そくの立ち並ぶ通つう路ろを、急いで元来たほうへと歩いていた。