「魔法史」は時間割の中で一番退たい屈くつな科目だった。担たん当とうのビンズ先生は、ただ一人のゴーストの先生で、唯ゆい一いつおもしろいのは、先生が、毎回黒板を通り抜けてクラスに現れることだった。しわしわの骨こっ董とう品ひんのような先生で、聞くところによれば、自分が死んだことにも気づかなかったらしい。ある日、立ち上がって授じゅ業ぎょうに出かける時、生なま身みの体を職しょく員いん室しつの暖だん炉ろの前の肱ひじ掛かけ椅い子すに、そのまま置き忘れてきたという。それからも、先生の日にっ課かはちっとも変わっていないのだ。
今日もいつものように退屈だった。ビンズ先生はノートを開き、中ちゅう古この電でん気き掃そう除じ機きのような、一いっ本ぽん調ぢょう子しの低い声でブーンブーンと読みあげはじめた。ほとんどクラス全員が催さい眠みん術じゅつにかかったようにぼーっとなり、時々、はっと我われに返っては、名前とか年号とかのノートをとる間だけ目を覚まし、またすぐ眠りに落ちるのだった。先生が三十分も読みあげ続けたころ、いままで一度もなかったことが起きた。ハーマイオニーが手を挙あげたのだ。
ビンズ先生はちょうど、一二八九年の国こく際さい魔ま法ほう戦せん士し条じょう約やくについての、死にそうに退屈な講こう義ぎの真まっ最さい中ちゅうだったが、チラッと目を上げ、驚おどろいたように見つめた。
「ミス――あー」
「グレンジャーです。先生、『秘ひ密みつの部へ屋や』について何か教えていただけませんか」
ハーマイオニーははっきりした声で言った。
口をポカンと開けて窓の外を眺ながめていたディーン・トーマスは催眠状じょう態たいから急に覚かく醒せいした。
両りょう腕うでを枕まくらにしていたラベンダー・ブラウンは頭を持ち上げ、ネビルの肘ひじは机からガクッと滑すべり落ちた。
ビンズ先生は目をパチクリした。