第10章 狂ったブラッジャー The Rogue Bludger
ピクシー小妖よう精せいの悲ひ惨さんな事件以来、ロックハート先生は教室に生き物を持ってこなくなった。その代わり、自分の著ちょ書しょを拾ひろい読みし、時には、その中でも劇げき的てきな場面を演えんじて見せた。現場を再さい現げんする時、たいていハリーを指し名めいして自分の相手役を務つとめさせた。ハリーがこれまでに無む理りやり演じさせられた役は、「おしゃべりの呪のろい」を解といてもらったトランシルバニアの田舎いなかっぺ、鼻はなかぜをひいた雪男、ロックハートにやっつけられてからレタスしか食べなくなった吸きゅう血けつ鬼きなどだった。
今日の「闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ」のクラスでも、ハリーはまたもやみんなの前に引ひっ張ぱり出され、狼おおかみ男おとこをやらされることになった。今日はロックハートを上じょう機き嫌げんにしておかなければならないという、ちゃんとした理由があった。そうでなければ、ハリーはこんな役は断ことわるところだった。
「ハリー。大きく吠ほえて――そう、そう――そしてですね、信じられないかもしれないが、私わたくしは飛びかかった。――こんなふうに――相手を床に叩たたきつけた。――こうして――片手でなんとか押さえつけ――もう一方の手で杖つえを喉のど元もとに突きつけ――それから残った力を振ふりしぼって非常に複ふく雑ざつな『異い形ぎょう戻もどしの術じゅつ』をかけた。――敵てきは哀あわれな呻うめき声をあげ――ハリー、さあ呻いて――もっと高い声で――そう――毛が抜け落ち――牙きばは縮ちぢみ――そいつはヒトの姿に戻った。簡単だが効こう果か的てきだ。――こうして、その村も、満月のたびに狼男に襲おそわれる恐きょう怖ふから救われ、私わたくしを永久に英雄と称たたえることになったわけです」
終しゅう業ぎょうのベルが鳴り、ロックハートは立ち上がった。