雨はますます激はげしくなっていた。マダム・フーチのホイッスルで、ハリーは強く地面を蹴けり、空に舞まい上がった。あのブラッジャーが、はっきりそれとわかるビュービューという音をたてながらあとを追ってくる。高く、高く、ハリーは昇のぼっていった。輪わを描かき、急きゅう降こう下かし、螺ら旋せん、ジグザグ、回転と、ハリーは少しくらくらした。しかし、目だけは大きく見開いていた。雨がメガネを点々と濡ぬらした。またしても激しく上から突っ込こんでくるブラッジャーを避よけるため、ハリーは箒ほうきから逆さかさにぶら下がった。鼻の穴に、雨が流れ込んだ。観かん衆しゅうが笑っているのが聞こえる。――バカみたいに見えるのはわかってる――しかし、狂ったブラッジャーは重いので、ハリーほど素す早ばやく方向転てん換かんができない。ハリーは競きょう技ぎ場じょうの縁ふちに沿そってジェットコースターのような動きをしはじめた。目を凝こらし、銀色の雨のカーテンを透すかしてグリフィンドールのゴールを見ると、エイドリアン・ピューシーがゴールキーパーのウッドを抜いて得点しようとしていた……。
ハリーの耳元でヒュッという音がして、またブラッジャーがかすった。ハリーはくるりと向きを変え、ブラッジャーと反対方向に疾しっ走そうした。
「バレエの練習かい ポッター」
ブラッジャーをかわすのに、ハリーが空中でくるくるとバカげた動きをしているのを見て、マルフォイが叫んだ。ハリーは逃げ、ブラッジャーは、そのすぐあとを追つい跡せきした。憎らしいマルフォイのほうを睨にらむように振ふり返ったハリーは、その時、見た 金きん色いろのスニッチを。マルフォイの左耳のわずかに上を漂ただよっている。――マルフォイは、ハリーを笑うのに気を取られて、まだ気づいていない。
スピードを上げてマルフォイのほうに飛びたい。それができない。マルフォイが上を見てスニッチを見つけてしまうかもしれないから。辛つらい一いっ瞬しゅんだ。ハリーは空中で立ち往おう生じょうした。