「みんな、下がって」ロックハートが翡ひ翠すい色いろの袖そでをたくし上げながら言った。
「やめて――だめ……」
ハリーが弱々しい声をあげたが、ロックハートは杖つえを振ふり回し、次の瞬しゅん間かんそれをまっすぐハリーの腕うでに向けた。
奇き妙みょうな気持の悪い感覚が、肩から始まり、指先までずーっと広がっていった。まるで腕がぺしゃんこになったような感じがした。何が起こったのか、ハリーはとても見る気がしなかった。ハリーは目を閉じ、腕から顔をそむけた。ハリーの予想した最悪の事じ態たいが起こったらしい。覗のぞき込こんだ人たちが息を呑のみ、コリン・クリービーが狂ったようにシャッターを切る音でわかる。腕はもう痛みはしなかった。――しかし、もはやとうてい腕とは思えない感覚だった。
「あっ」ロックハートの声だ。
「そう。まあね。時にはこんなことも起こりますね。でも、要するにもう骨は折おれていない。それが肝かん心じんだ。それじゃ、ハリー、医務室まで気をつけて歩いていきなさい。――あっ、ウィーズリー君、ミス・グレンジャー、付つき添そっていってくれないかね――マダム・ポンフリーが、その――少し君を――あー――きちんとしてくれるでしょう」
ハリーが立ち上がった時、なんだか体が傾いているような気がした。深しん呼こ吸きゅうして、体の右半分を見下ろしたとたんに、ハリーはまた失しっ神しんしそうになった。
ローブの端はしから突き出していたのは、肌はだ色いろの分ぶ厚あついゴムの手て袋ぶくろのようなものだった。指を動かしてみた。ぴくりとも動かない。
ロックハートはハリーの腕の骨を治なおしたのではない。骨を抜き取ってしまったのだ。