何時間もが過ぎた。真っ暗くら闇やみの中、ハリーは急に目が覚めて、痛みで小さく悲ひ鳴めいをあげた。腕はいまや、大きな棘とげがぎゅうぎゅう詰づめになっているような感かん覚かくだった。一いっ瞬しゅん、この痛みで目が覚めたのだと思った。ところが、闇の中で誰かがハリーの額ひたいの汗あせを海綿スポンジで拭ぬぐっている。ハリーは恐きょう怖ふでぞくっとした。
「やめろ」ハリーは大声を出した。そして――。
「ドビー」
あの屋や敷しきしもべ妖よう精せいの、テニス・ボールのようなグリグリ目玉が、暗闇を透すかしてハリーを覗のぞき込んでいた。一ひと筋すじの涙なみだが、長い、とがった鼻を伝ってこぼれた。
「ハリー・ポッターは学校に戻もどってきてしまった」ドビーが打ちひしがれたようにつぶやいた。「ドビーめが、ハリー・ポッターになんべんもなんべんも警けい告こくしたのに。あぁ、なぜあなた様はドビーの申もうし上げたことをお聞き入れにならなかったのですか 汽き車しゃに乗り遅おくれた時、なぜにお戻りにならなかったのですか」
ハリーは体を起こして、ドビーの海綿を押しのけた。
「なぜここに来たんだい それに、どうして僕ぼくが汽車に乗り遅れたことを、知ってるの」
ドビーは唇くちびるを震ふるわせた。ハリーは突とつ然ぜん、もしやと思い当たった。
「あれは、君だったのか」ハリーはゆっくりと言った。
「僕たちがあの柵さくを通れないようにしたのは君だったんだ」
「そのとおりでございます」ドビーが激はげしく頷うなずくと、耳がパタパタはためいた。
「ドビーめは隠かくれてハリー・ポッターを待ち構かまえておりました。そして入口を塞ふさぎました。ですから、ドビーはあとで、自分の手にアイロンをかけなければなりませんでした――」
ドビーは包ほう帯たいを巻いた十本の長い指をハリーに見せた。