「――でも、ドビーはそんなことは気にしませんでした。これでハリー・ポッターは安全だと思ったからです。ハリー・ポッターが別の方法で学校へ行くなんて、ドビーめは夢にも思いませんでした」ドビーは醜みにくい頭を振ふりながら、体を前後に揺ゆすった。
「ドビーめはハリー・ポッターがホグワーツに戻もどったと聞いた時、あんまり驚おどろいたので、ご主人様の夕食を焦こがしてしまったのです あんなにひどく鞭むち打うたれたのは、初めてでございました……」
ハリーは枕まくらに体を戻して横になった。
「君のせいでロンも僕ぼくも退たい校こう処しょ分ぶんになるところだったんだ」ハリーは声を荒あららげた。
「ドビー、僕の骨が生はえてこないうちに、とっとと出ていったほうがいい。じゃないと、君を絞しめ殺ころしてしまうかもしれない」
ドビーは弱々しく微笑ほほえんだ。
「ドビーめは殺すという脅おどしには慣れっこでございます。お屋や敷しきでは、一日五回も脅されます」
ドビーは、自分が着ている汚きたならしい枕カバーの端はしで鼻をかんだ。その様子ようすがあまりにも哀あわれで、ハリーは思わず怒いかりが潮しおのように引いていくのを感じた。
「ドビー、どうしてそんな物を着ているの」ハリーは好こう奇き心しんから聞いた。
「これのことでございますか」ドビーは着ている枕カバーをつまんで見せた。
「これは、屋敷しもべ妖よう精せいが、奴ど隷れいだということを示しているのでございます。ドビーめはご主人様が衣い服ふくをくださった時、初めて自由の身になるのでございます。家族全員が、ドビーにはソックスの片かた方ほうさえ渡さないように気をつけるのでございます。もし渡せば、ドビーは自由になり、その屋敷から永久にいなくなってもよいのです」
ドビーは飛び出した目を拭ぬぐい、出し抜けにこう言った。