「でも、あなた様が『名前を呼んではいけないあの人』に打ち勝ってからというもの、わたくしどものような者にとって、生活は全体によくなったのでございます。ハリー・ポッターが生き残った。闇やみの帝てい王おうの力は打ち砕くだかれた。それは新しい夜明けでございました。暗くら闇やみの日に終わりはないと思っていたわたくしどもにとりまして、ハリー・ポッターは希望の道みち標しるべのように輝かがやいたのでございます……。それなのに、ホグワーツで恐ろしいことが起きようとしている。もう起こっているのかもしれません。ですから、ドビーめはハリー・ポッターをここに留とどまらせるわけにはいかないのです。歴れき史しが繰くり返されようとしているのですから。またしても『秘ひ密みつの部へ屋や』が開かれたのですから――」
ドビーはハッと恐きょう怖ふで凍こおりついたようになり、やにわにベッドの脇わき机づくえにあったハリーの水みず差さしをつかみ、自分の頭にぶっつけて、引っくり返って見えなくなってしまった。次の瞬しゅん間かん、
「ドビーは悪い子、とっても悪い子……」とブツブツ言いながら、目をくらくらさせ、ドビーはベッドの上に這はい戻もどってきた。
「それじゃ、『秘密の部屋』はほんとにあるんだね」ハリーがつぶやいた。「そして――君、それが以前にも開かれたことがあるって言ったね 教えてよ、ドビー」
ドビーの手がそろそろと水差しのほうに伸びたので、ハリーはその痩やせこけた手首をつかんで押さえた。
「だけど、僕ぼくはマグル出身じゃないのに――その部屋がどうして僕にとって危き険けんだというの」
「あぁ。どうぞもう聞かないでくださいまし。哀あわれなドビーめにもうお尋たずねにならないで」
ドビーは暗闇の中で大きな目を見開いて口ごもった。