「魔法薬」のクラスは大だい地ち下か牢ろうの一つで行われた。木曜の午後の授じゅ業ぎょうは、いつもと変わらず進行した。大おお鍋なべが二十個、机と机の間で湯ゆ気げを立て、机の上には真しん鍮ちゅうの秤はかりと、材料の入った広口瓶びんが置いてある。スネイプは煙の中を歩き回り、グリフィンドール生せいの作業に意い地じの悪い批ひ評ひょうをし、スリザリン生はそれを聞いてザマミロと嘲あざ笑わらった。ドラコ・マルフォイはスネイプのお気に入りで、ロンとハリーとに、フグの目玉を投げつけていた。それに仕返しをしようものなら、「不公平です」と抗こう議ぎする隙すきも与えず、二人とも処しょ罰ばつを受けることを、ドラコは知っているのだ。
ハリーの「膨ふくれ薬ぐすり」は水っぽすぎたが、頭は、もっと重要なことで一いっ杯ぱいだった。ハーマイオニーの合あい図ずを待っていたのだ。スネイプが立ち止まって薬が薄うすすぎると嘲あざけったのも、ほとんど耳に入らなかった。スネイプがハリーに背を向けてそこを立ち去り、ネビルをいびりに行った時、ハーマイオニーがハリーの視し線せんをとらえて、こっくり合図した。
ハリーは素す早ばやく大鍋の陰かげに身を隠かくし、ポケットからフレッドの「フィリバスターの長なが々なが花火」を取り出して、杖つえでちょいと突ついた。花火はシュウシュウ、パチパチと音をたてはじめた。あと数秒しかない。ハリーはすっと立ち上がり、狙ねらい定めて花火をポーンと高く放ほうり投げた。まさに命中。花火はゴイルの大鍋にポトリと落ちた。
ゴイルの薬が爆ばく発はつし、クラス中に雨のように降ふり注いだ。「膨れ薬」の飛ひ沫まつがかかった生徒は、悲ひ鳴めいをあげた。マルフォイは、顔一杯に薬を浴あびて、鼻が風船のように膨れはじめた。ゴイルは、大皿のように大きくなった目を両手で覆おおいながら、右う往おう左さ往おうしていた。スネイプは騒さわぎを鎮しずめ、原因を突き止めようとしていた。どさくさの中、ハリーは、ハーマイオニーがこっそり教室を抜け出すのを見み届とどけた。