マルフォイはニヤニヤしながら気取ってやってきた。その後ろを歩いてきた女子スリザリン生せいを見て、ハリーは「鬼おに婆ばばとのオツな休きゅう暇か」にあった挿さし絵えを思い出した。大おお柄がらで四し角かく張ばっていて、がっちりした顎あごが戦せん闘とう的てきに突き出している。ハーマイオニーは微かすかに会え釈しゃくしたが、向こうは会釈を返さなかった。
「相手と向き合って そして礼」壇だん上じょうに戻もどったロックハートが号ごう令れいをかけた。
ハリーとマルフォイは、互いに目を逸そらさず、わずかに頭を傾かしげただけだった。
「杖つえを構かまえて」ロックハートが声を張はり上げた。
「私わたくしが三つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい。――武器を取り上げるだけですよ――みなさんが事じ故こを起こすのはいやですからね。一――二――三――」
ハリーは杖を肩の上に振ふり上げた。が、マルフォイは「二」ですでに術を始めていた。呪じゅ文もんは強きょう烈れつに効きいて、ハリーは、まるで頭をフライパンで殴なぐられたような気がした。ハリーはよろけたが、他はどこもやられていない。間かん髪はつを入れず、ハリーは杖をまっすぐにマルフォイに向け、「リクタスセンプラ 笑い続けよ」と叫さけんだ。
銀色の閃せん光こうがマルフォイの腹に命中し、マルフォイは体をくの字に曲げて、ゼイゼイ言った。
「武器を取り上げるだけだと言ったのに」
ロックハートが慌あわてて、戦せん闘とうまっただ中の生徒の頭越ごしに叫んだ。マルフォイが膝ひざをついて座り込こんだ。ハリーがかけたのは「くすぐりの術」で、マルフォイは笑い転ころげて動くことさえできない。相手が座り込んでいる間に術をかけるのはスポーツマン精せい神しんに反する――そんな気がして、ハリーは一いっ瞬しゅんためらった。これが間違いだった。息も継つげないまま、マルフォイは杖つえをハリーの膝ひざに向け、声を詰つまらせて「タラントアレグラ 踊おどれ」と言った。次の瞬しゅん間かん、ハリーの両足がピクピク動き、勝手にクイック・ステップを踏ふみ出した。