「ジャスティンのやつ、うっかり自分がマグル出身だなんてポッターに漏もらしちゃってから、いつかはこうなるんじゃないかと思ってたさ……」
ハリーは階段を踏ふみ鳴らして上り、次の廊ろう下かの角を曲がった。そこは一段と暗かった。嵌はめ込こみの甘あまい窓ガラスの間から、激はげしく吹ふき込む氷のような隙すき間ま風かぜが、松明たいまつの灯あかりを消してしまっていた。廊下の真ん中あたりまで来た時、床に転ころがっている何かにもろに足を取られ、ハリーはつんのめった。
振ふり返っていったい何に躓つまずいたのか、目を細めて見たハリーは、とたんに胃い袋ぶくろが溶とけてしまったような気がした。
ジャスティン・フィンチ‐フレッチリーが転がっていた。冷たく、ガチガチに硬こう直ちょくし、恐きょう怖ふの跡あとが顔に凍こおりつき、虚うつろな目は天てん井じょうを凝ぎょう視ししている。その隣となりにもう一つ、ハリーがいままで見たこともない不ふ可か思し議ぎなものがあった。
「ほとんど首くび無なしニック」だった。もはや透とう明めいな真しん珠じゅ色いろではなく、黒く煤すすけて、床から十五センチほど上に、真横にじっと動かずに浮ういていた。首は半分落ち、顔にはジャスティンと同じ恐怖が貼はりついていた。
ハリーは立ち上がったが、息は絶たえ絶だえ、心臓は早打ち太だい鼓このように肋ろっ骨こつを打った。人ひと影かげのない廊下のあちらこちらを、ハリーは狂ったように見回した。すると、クモが二つの物ぶっ体たいから逃げるように、一列になって、全ぜん速そく力りょくでガサゴソ移動しているのが目に入った。物音といえば、両側の教室からぼんやりと聞こえる、先生方の声だけだった。
逃げようと思えば逃げられる。ここにハリーがいたことなど、誰にもわかりはしない。なのに、ハリーは二人を放っておくことができなかった。――助けを呼ばなければ……。でも、僕がまったく関かん係けいないってこと、信じてくれる人がいるだろうか――
パニック状じょう態たいで突っ立っていると、すぐそばの戸がバーンと開き、ポルターガイストのピーブズがシューッと飛び出してきた。