ハリーの胃い袋ぶくろがずしんと落ち込こんだ。帽子のてっぺんをつかんでぐいっと脱ぬぐと、薄うす汚よごれてくたびれた帽子が、だらりとハリーの手からぶら下がっていた。気分が悪くなり、ハリーは帽子を棚に押し戻もどした。
「あなたは間違っている」
動かず物言わぬ帽子に向かって、ハリーは声を出して話しかけた。帽子はじっとしている。ハリーは帽子を見つめながら後ずさりした。ふと、奇き妙みょうなゲッゲッという音が聞こえて、ハリーはくるりと振ふり返った。
ハリーは、独りきりではなかった。扉の裏うら側がわに金きん色いろの止まり木があり、羽を半分むしられた七しち面めん鳥ちょうのようなよぼよぼの鳥が止まっていた。ハリーがじっと見つめると、鳥はまたゲッゲッと声をあげながら邪じゃ悪あくな目つきで見返した。ハリーは鳥が重い病気ではないかと思った。目はどんよりとし、ハリーが見ている間にも、また尾お羽ばねが二、三本抜け落ちた。
――ダンブルドアのペットの鳥が、僕の他には誰もいないこの部屋で死んでしまったら、万ばん事じ休きゅうすだ。僕ぼくはもうだめだ。――そう思ったとたん、鳥が炎に包まれた。
ハリーは驚おどろいて叫さけび声をあげ、後ずさりして机にぶつかった。どこかにコップ一いっ杯ぱいの水でもないかと、ハリーは夢中で周まわりを見回した。が、どこにも見当たらない。その間に鳥は火の玉となり、一ひと声こえ鋭するどく鳴いたかと思うと、次の瞬しゅん間かん、跡あと形かたもなくなってしまった。一ひと握にぎりの灰が床の上でブスブスと煙を上げているだけだった。
校長室のドアが開いた。ダンブルドアが陰いん鬱うつな顔をして現れた。
「先生」ハリーはあえぎながら言った。
「先生の鳥が――僕、何もできなくて――急に火がついたんです――」
驚いたことに、ダンブルドアは微笑ほほえんだ。
「そろそろだったのじゃ。あれはこのごろ惨みじめな様子ようすだったのでな、早くすませてしまうようにと、何度も言い聞かせておったんじゃ」
ハリーがポカンとしているので、ダンブルドアがくすくす笑った。