ハリーは「透とう明めいマント」をハグリッドのテーブルの上に置いた。真っ暗な森の中では必要がない。
「ファング、おいで。散さん歩ぽに行くよ」ハリーは、自分の腿ももを叩たたいて合あい図ずした。ファングは喜んで跳びはねながら二人について小屋を出て、森の入口までダッシュし、楓かえでの大木の下で脚あしを上げ、用をたした。
ハリーが杖つえを取り出し「ルーモス 光よ」と唱となえると、杖の先に小さな灯あかりが点ともった。森の小道にクモの通った跡があるかどうかを探すのに、やっと間に合うぐらいの灯りだ。
「いい考えだ」ロンが言った。
「僕も点つければいいんだけど、でも、僕のは――爆ばく発はつしたりするかもしれないし……」
ハリーはロンの肩をトントンと叩き、草むらを指ゆび差さした。はぐれグモが二匹、急いで杖つえ灯あかりの光を逃のがれ、木の陰かげに隠かくれるところだった。
「オーケー」もう逃のがれようがないと覚かく悟ごしたかのように、ロンはため息をついた。
「いいよ。行こう」
二人は森の中へと入っていった。ファングは、木の根や落ち葉をクンクン嗅かぎながら、二人の周まわりを敏びん捷しょうに走り回ってついてきた。クモの群むれがザワザワと小道を移動する足取りを、二人はハリーの杖の灯りを頼りに追った。小枝の折おれる音、木この葉はのこすれ合う音の他に、何か聞こえはしないかと、耳をそばだて、二人は黙だまって歩き続けた。約二十分ほど歩いたろうか。やがて、木々が一いっ層そう深々と茂しげり、空の星さえ見えなくなり、闇やみの帳とばりに光を放つのはハリーの杖だけになったその時、クモの群れが小道からそれるのが見えた。
ハリーは立ち止まり、クモがどこへ行くのかを見ようとしたが、杖灯りの小さな輪わの外は一いっ寸すん先さきも見えない暗くら闇やみだった。こんなに森の奥まで入り込こんだことはなかった。前回森に入った時、「道を外はずれるなよ」とハグリッドに忠ちゅう告こくされたことを、ありありと思い出した。しかし、ハグリッドは、いまや遠く離はなれたところにいる。――たぶんアズカバンの独どく房ぼうに、つくねんと座っているのだろう。そのハグリッドが、今度はクモの跡を追えと言ったのだ。