蜘く蛛もだ。木の葉の上にうじゃうじゃしている細こまかいクモとはモノが違う。馬ば車しゃ馬うまのような、八つ目の、八本脚あしの、黒々とした、毛むくじゃらの、巨大な蜘蛛が数匹。ハリーを運んできたその巨大蜘蛛の見本のようなのが、窪くぼ地ちのど真ん中にある靄もやのようなドーム型がたの蜘蛛の巣すに向かって、急な傾けい斜しゃを滑すべり降おりた。仲なか間まの巨大蜘蛛が、獲え物ものを見て興こう奮ふんし、鋏はさみをガチャつかせながら、その周まわりに集しゅう結けつした。
巨大蜘蛛が鋏を放はなし、ハリーは四つん這ばいになって地面に落ちた。ロンもファングも隣となりにドサッと落ちてきた。ファングはもう鳴くことさえできず、黙だまってその場にすくみ上がっていた。ロンは、ハリーの気持をそっくり顔で表現していた。声にならない悲ひ鳴めいをあげ、口が大きく叫さけび声の形に開いている。目は飛び出していた。
ふと気がつくと、ハリーを捕つかまえていた蜘蛛が何か話している。一ひと言ことしゃべるたびに鋏をガチャガチャいわせるので、話しているということにさえ、なかなか気づかなかった。
「アラゴグ」と呼んでいる。「アラゴグ」
靄のような蜘蛛の巣のドームの真ん中から、小こ型がたの象ほどもある蜘蛛がゆらりと現れた。胴どう体たいと脚を覆おおう黒い毛に白いものが混まじり、鋏のついた醜みにくい頭に、八つの白はく濁だくした目があった。――盲めしいている。
「何の用だ」鋏を激はげしく鳴らしながら、盲もう目もくの蜘蛛が言った。
「人間です」ハリーを捕まえた巨大蜘蛛が答えた。
「ハグリッドか」アラゴグが近づいてきた。八つの濁にごった目が虚うつろに動いている。
「知らない人間です」ロンを運んだ蜘蛛が、カシャカシャ言った。
「殺せ」アラゴグはイライラと鋏を鳴らした。「眠っていたのに……」
「僕ぼくたち、ハグリッドの友達です」ハリーが叫さけんだ。心臓が胸から飛び上がって、喉のど元もとで脈みゃくを打っているようだった。
カシャッカシャッカシャッ――窪地の中の巨大蜘蛛の鋏がいっせいに鳴った。
アラゴグが立ち止まった。