城がだんだん近くに見えてきた。ハリーは「透明マント」を引ひっ張ぱって足先まですっぽり隠かくし、それから軋きしむ扉とびらをそーっと半開きにした。玄げん関かんホールをこっそりと横切り、大だい理り石せきの階段を上り、見み張はり番ばんが目を光らせている廊ろう下かを、息を殺して通り過ぎた。ようやく安全地ち帯たいのグリフィンドールの談だん話わ室しつにたどり着いた。暖だん炉ろの火は燃え尽つき、灰になった残り火が、わずかに赤みを帯びていた。二人はマントを脱ぬぎ、曲がりくねった階段を上って寝しん室しつに向かった。
ロンは服も脱ぬがずにベッドに倒れ込こんだ。しかしハリーはあまり眠くなかった。四よん本ほん柱ばしらつきのベッドの端はしに腰こし掛かけ、アラゴグが言ったことを一いっ所しょ懸けん命めい考えた。
城のどこかに潜ひそむ怪物は、ヴォルデモートを怪物にしたようなものかもしれない――。
他の怪物でさえ、その名前を口にしたがらない。しかし、ハリーもロンもそれが何なのか、襲おそった者をどんな方法で石にするのか、結けっ局きょくのところ皆かい目もくわからない。ハグリッドでさえ「秘ひ密みつの部へ屋や」に、何がいたのか知ってはいなかった。
ハリーはベッドの上に足を投げ出し、枕まくらにもたれて、寮りょう塔とうの窓から、自分の上に射さし込こむ月つき明あかりを眺ながめた。
他に何をしたらよいのかわからない。八はっ方ぽう塞ふさがりだ。リドルは間違った人間を捕つかまえた。スリザリンの継けい承しょう者しゃは逃のがれ去り、今度 「部屋」を開けたのが、果はたしてその人物なのか、それとも他の誰かなのか、わからずじまいだ。もう誰も尋たずねるべき人はいない。ハリーは横になったまま、アラゴグの言ったことをまた考えた。
とろとろと眠くなりかけた時、最後の望みとも思える考えが閃ひらめいた。ハリーは、はっと身を起こした。
「ロン」暗くら闇やみの中でハリーは声をひそめて呼んだ。「ロン」
ロンは、ファングのようにキャンといって目を覚まし、キョロキョロとあたりを見回した。そしてハリーが目に入った。
「ロン――死んだ女の子だけど。アラゴグはトイレで見つかったって言ってた」
ハリーは部屋の隅すみから聞こえてくる、ネビルの高いびきも気にせず言葉を続けた。
「その子がそれから一度もトイレを離はなれなかったとしたら まだそこにいるとしたら」
ロンが目をこすり、月明かりの中で眉まゆ根ねを寄せた。そして、ピンときた。
「もしかして――まさか『嘆なげきのマートル』」