「さあ、どうする」ロンの声は必ひっ死しだった。「こっちからは行けないよ。何年もかかってしまう……」
ハリーはトンネルの天井を見上げた。巨大な割われ目ができている。ハリーはこれまで、こんな岩石の山のような大きなものを、魔法で砕くだいてみたことがなかった。初めてそれに挑ちょう戦せんするのには、タイミングがよいとは言えない。――トンネル全体がつぶれたらどうする
岩の向こうから、また「ドン」が聞こえ、「アイタッ」が聞こえた――時間がむだに過ぎていく。ジニーが『秘ひ密みつの部へ屋や』に連れ去られてから何時間も経たっている。――ハリーには道は一つしかないことがわかっていた。
「そこで待ってて」ハリーはロンに呼びかけた。
「ロックハートと一いっ緒しょに待っていて。僕が先に進む。一時間経って戻もどらなかったら……」
もの言いたげな沈ちん黙もくがあった。
「僕は、少しでもここの岩石を取り崩してみるよ」ロンは、懸けん命めいに落ち着いた声を出そうとしているようだった。
「そうすれば君が――帰りにここを通れる。だからハリー――」
「それじゃ、またあとでね」
ハリーは震ふるえる声に、なんとか自信を叩たたき込むように言った。そして、ハリーはたった一人、巨大な蛇の皮を越こえて先に進んだ。
ロンが力を振ふりしぼって、岩石を動かそうとしている音もやがて遠くなり、聞こえなくなった。トンネルはくねくねと何度も曲がった。体中の神しん経けいがきりきりと不ふ快かいに痛んだ。ハリーはトンネルの終わりが来ればよいと思いながらも、その時に何が見つかるかを思うと、恐ろしくもあった。もう一つの曲り角かどをそっと曲がったとたん、ついに前方に固い壁かべが見えた。二匹のヘビが絡からみ合った彫ちょう刻こくが施ほどこしてあり、ヘビの目には輝かがやく大おお粒つぶのエメラルドが嵌はめ込こんであった。
ハリーは近づいていった。喉のどがカラカラだ。今度は石のヘビを本物だと思い込む必要はなかった。ヘビの目が妙みょうに生き生きしている。
何をすべきか、ハリーには想そう像ぞうがついた。咳せき払ばらいをした。するとエメラルドの目がチラチラと輝かがやいたようだった。
「開け」低く幽かすかなシューシューという音だった。
壁が二つに裂さけ、絡み合っていたヘビが分かれ、両側の壁が、スルスルと滑すべるように見えなくなった。ハリーは、頭のてっぺんから足の爪つま先さきまで震ふるえながら、その中に入っていった。