ハリーは細長く奥へと延のびる、薄うす明あかりの部屋の端はしに立っていた。またしてもヘビが絡からみ合う彫ちょう刻こくを施ほどこした石の柱が、上へ上へと聳そびえ、暗くら闇やみに吸すい込こまれて見えない天てん井じょうを支ささえ、妖あやしい緑がかった幽ゆう明めいの中に、黒々とした影かげを落としていた。
早はや鐘がねのように鳴る胸を押おさえ、ハリーは凍こおるような静けさに耳を澄すませていた。――バジリスクは、柱の影の暗い片かた隅すみに潜ひそんでいるのだろうか ジニーはどこにいるのだろう
杖つえを取り出し、ハリーは左右一いっ対ついになった、ヘビの柱の間を前進した。一歩一歩そっと踏ふみ出す足音が、薄暗い壁かべに反はん響きょうした。目を細めて、わずかな動きでもあれば、すぐに閉じられるようにした。彫ほり物もののヘビの虚うつろな眼がん窩かが、ハリーの姿をずっと追っているような気がする。一度ならず、ヘビの目がギロリと動いたような気がして、胃がざわざわした。
最後の一対の柱のところまで来ると、部屋の天井に届くほど高く聳える石せき像ぞうが、壁を背に立っているのが目に入った。
巨大な石像の顔を、ハリーは首を伸ばして見上げた。年とし老おいた猿さるのような顔に、細長い顎あご鬚ひげが、その魔法使いの流れるような石のローブの裾すそのあたりまで延び、その下に灰色の巨大な足が二本、滑なめらかな床を踏ふみしめている。そして、足の間に、燃えるような赤毛の、黒いローブの小さな姿が、うつ伏ぶせに横たわっていた。
「ジニー」小声で叫さけび、ハリーはその姿のそばに駆かけ寄り、膝ひざをついて名を呼んだ。
「ジニー 死んじゃだめだ お願いだから生きていて」