リドルは、石せき像ぞうの巨大な足の指のあたりの床を指ゆび差さした。ハリーが「嘆なげきのマートル」のトイレで見つけた小さな黒い日記が、開かれたまま置いてあった。一いっ瞬しゅん、ハリーはいったいどうしてここにあるんだろうと不ふ思し議ぎに思ったが――いや、もっと緊きん急きゅうにしなければならないことがある。
「トム、助けてくれないか」ハリーはジニーの頭をもう一度持ち上げながら言った。
「ここからジニーを運び出さなけりゃ。バジリスクがいるんだ……。どこにいるかはわからないけど、いまにも出てくるかもしれない。お願い、手伝って……」
リドルは動かない。ハリーは汗あせだくになって、やっとジニーの体を半分床から持ち上げ、杖つえを拾ひろうのにもう一度体を屈かがめた。
杖がない。
「君、知らないかな、僕ぼくの――」
ハリーが見上げると、リドルはまだハリーを見つめていた。――すらりとした指でハリーの杖をくるくるもてあそんでいる。
「ありがとう」ハリーは手を、杖のほうに伸ばした。
リドルが口元をきゅっと上げて微笑ほほえんだ。じっとハリーを見つめ続けたまま、所しょ在ざいなげに杖をくるくる回し続けている。
「聞いてるのか」ハリーは急せき立てるように言った。ぐったりしているジニーの重みで、膝ひざががくりとなりそうだった。
「ここを出なきゃいけないんだよ もしもバジリスクが来たら……」
「呼ばれるまでは、来やしない」リドルが落ち着き払はらって言った。
ハリーはジニーをまた床に下ろした。もう支えていることができなかった。
「何だって さあ、杖をよこしてよ。必要になるかもしれないんだ」
リドルの微ほほ笑えみがますます広がった。