巨大な蛇へびだ。テラテラと毒どく々どくしい鮮せん緑りょく色しょくの、樫かしの木のように太い胴どう体たいを、高々と宙ちゅうにくねらせ、その巨大な鎌かま首くびは酔よったように柱と柱の間を縫ぬって動き回っていた。ハリーは身み震ぶるいし、蛇がこちらを見たら、すぐに目をつぶろうと身み構がまえたその時、ハリーはいったい何が蛇の気を逸そらせていたのかを見た。
フォークスが、蛇の鎌首の周まわりを飛び回り、バジリスクはサーベルのように長く鋭するどい毒どく牙がで狂ったように何度も空くうを噛かんでいた。
フォークスが急きゅう降こう下かした。長い金こん色じきの嘴くちばしが何かにズブリと突き刺ささり、急に見えなくなった。そのとたん、どす黒い血が吹ふき出しボタボタと床に降ふり注いだ。毒どく蛇じゃの尾がのたうち、危あやうくハリーを打ちそうになった。ハリーが目を閉じる間もなく蛇はこちらを振ふり向いた。ハリーは、真正面から蛇の頭を――そして、その目を見た。大きな黄色い球たまのような目は、両りょう眼がんとも不ふ死し鳥ちょうにつぶされていた。おびただしい血が床に流れ、バジリスクは苦く痛つうにのたうち回っていた。
「違う」リドルが叫さけぶ声が聞こえた。「鳥にかまうな ほっておけ 小童こわっぱは後ろだ 臭においでわかるだろう 殺せ」
盲もう目もくの蛇は混こん乱らんして、ふらふらしてはいたが、まだ危き険けんだった。フォークスが蛇の頭上を輪わを描えがきながら飛び、不ふ思し議ぎな旋せん律りつを歌いながらバジリスクの鱗うろこで覆おおわれた鼻はな面づらをあちこち突ついた。バジリスクのつぶれた目からは、ドクドクと血が流れ続けていた。