第二信
早速返事をくれて有難う。君の提出した疑問には、今日の手紙の適当な箇所でお答えする積りだ。この手紙は前便とは少し書き方を変えて、小説家の手法を真似て、ある一夜の出来事を、そのまま君の前に再現して見ようと思う。そういう手法を採る理由は、その夜の登場人物が色々な意味で君に興味があると思うし、そこで取交わされた会話は、殆ど全く姉崎未亡人殺害事件に終始し、随って君に報告すべきあらゆる材料が、それらの会話の内に含まれていたので、その一夜の会合の写実によって、僕の説明的な報告を省くことが出来るからだ。それともう一つは、説明的文章では伝えることの出来ない、諸人物の表情や言葉のあやを、そのまま再現して、君の判断の材料に供し度い意味もあるのだ。
九月二十五日に姉崎曽恵子さんの仮葬儀が行われたが、その翌々日二十七日の夜、黒川博士邸に心霊学会の例会が開かれた。この例会は別に申合せをした訳ではなかったけれど、期せずして姉崎夫人追悼の集まりの様になってしまった。
僕は幹事という名で色々雑用を仰せつかっているものだから、(二十三日に姉崎家を訪ねたのもその役目柄であった)定刻の午後六時よりは三十分程早く中野の博士邸を訪れた。君も記憶しているだろう。古風な黒板塀に冠木門、玄関まで五六間もある両側の植込み、格子戸、和風の玄関、廊下を通って別棟の洋館、そこに博士の書斎と応接室とがある。僕は女中の案内でその応接室に通った。いつの例会にもここが会員達の待合所に使われていたのだ。
応接室には黒川博士の姿は見えず、一方の隅のソファに奥さんがたった一人、青い顔をして腰かけていらしった。君は奥さんには会ったことがないだろうが、博士には二度目の奥さんで、十幾つも年下の三十を越したばかりの若い方なのだ。美人という程ではないけれど、痩型の顔に二重瞼の大きい目が目立って、どこか不健康らしく青黒い皮膚がネットリと人を惹きつける感じだ。挨拶をして、「先生は」と尋ねると、夫人は浮かぬ顔で、
「少し怪我をしましたの、皆さんがお揃いになるまでと云って、あちらで寝んでいますのよ」
と云って、母屋の方を指さされた。
「怪我ですって? どうなすったのです」
僕は何となく普通の怪我ではない様な予感がして、お世辞でなく聞返した。
「昨夜遅くお風呂に入っていて、ガラスで足の裏を切りましたの。ほんのちょっとした怪我ですけれど、でも……」
僕はじっと奥さんの異様に光る大きい目を見つめた。
「あたし何だか気味が悪くって、ほんとうのことを云うと、こんな心霊学の会なんか始めたのがいけないと思いますわ。えたいの知れない魂達が、この家の暗い所にウジャウジャしている様な気がして。あたし、主人に御願いして、もう本当に止して頂こうかと思うんですの」
「今夜はどうしてそんな事おっしゃるのです。何かあったのですか」
「何かって、あたし姉崎さんがおなくなりなすってから、怖くなってしまいましたの。あんまりよく当ったのですもの」