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怪指纹:三重旋涡纹

时间: 2021-08-15    进入日语论坛
核心提示:三重渦状紋(かじょうもん) 小池助手を見送ると、宗像博士は死体の上に屈(かが)んで、その手を調べた。小さな紙包を握っている。
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三重渦状紋(かじょうもん)


 小池助手を見送ると、宗像博士は死体の上に(かが)んで、その手を調べた。小さな紙包を握っている。死んでもこれだけは手放すまいとするかの如く、固く固く握りしめている。博士は死人の指を一本一本引きはなして、やっとそれをもぎ取ることが出来た。
 何か小さな板切れのようなものが、丁寧に幾重(いくえ)にも紙を巻いて、(ひも)でくくってある。博士は隣りの実験室から、一枚のガラス板を持って来て、紙包をその上に乗せ、なるべくそれに手をふれないように、ナイフとピンセットを使って、紐を切り、紙を解いて行った。
 博士も無言、それをじっと見つめている捜査係長も無言、ただ時々ナイフやピンセットがガラス板に触れて、カチカチと小さな音を立てるばかり、まるで、手術室のような薄気味悪い静けさであった。
「なあんだ、靴箆(くつべら)じゃありませんか」
 中村係長が頓狂(とんきょう)な声を出した。如何にも紙包の品物は、一枚の小型の象牙色(ぞうげいろ)をしたセルロイド製のありふれた靴箆である。
 木島助手は気でも違ったのであろうか。封筒の中へ大切そうに白紙の束を入れていたかと思うと、今度は御丁寧な靴箆の紙包だ。一体こんなものに何の意味があるというのだろう。
 しかし、博士は別に意外らしい様子もなく、さも大切そうに、その靴箆の端をソッと(つま)むと、窓からの光線にすかして見たが、その時分にはもう、窓の外に夕闇が迫っていて、十分調べることが出来なかったので、部屋の隅のスイッチを押して電燈をつけ、その光の下で、靴箆を入念に検査した。
「指紋ですか」
 中村係長が、やっとそこへ気がついて訊ねた。
「そうです。しかし……」
 博士は吸いつけられたように靴箆の表面に見入って、振り向こうともしないのである。
「外側の指紋は皆重なり合っていて、はっきりしないが、内側に一つだけ、非常に明瞭な奴がある。拇指(おやゆび)の指紋らしい。オヤ、これは不思議だ。中村君、実に妙な指紋ですよ。僕はこんな不思議な指紋を見たことがない。まるでお化けだ。それとも僕の目がどうかしているのかしら」
「どれです」
 中村氏が近づいて、博士の手元を覗き込んだ。
「ホラ、こいつですよ。すかしてごらんなさい。完全な指紋でしょう。別に重なり合ってはいない。しかし、ホラ、渦が三つもあるじゃありませんか」
「そういえば、なる程、妙な指紋らしいが、このままじゃ、よく見分けられませんね」
「拡大して見ましょう。こちらへ来て下さい」
 博士は靴箆を持って、先に立って隣りの実験室へ入って行った。中村係長もそのあとにつづく。
 十坪程の部屋である。一方の窓に面して大きな白木の化学実験台があり、その上に大小様々のガラス器具、顕微鏡などが置かれ、一方には(おびただ)しい瓶の並んだ薬品棚が立っている、化学実験室と調剤室とを一緒にしたような眺めだ。
 又別の隅には、大型写真器、紫外線、赤外線、レントゲンの機械まで揃っている。それらの間に、黒い幻燈器械の箱が、頑丈(がんじょう)な三脚にのせて置いてある。実物幻燈器械なのだ。これによって指紋は元より、あらゆる微細(びさい)な品物を拡大して、スクリーン上に映し出すことが出来る。指紋は紙や板に()されたものと限らない。ガラス(びん)であろうが、ドアの把手(ハンドル)であろうが、コップであろうが、ピストルであろうが、それらの実物の指紋の部分を、直ちに拡大して映写することが出来る。博士自慢の装置である。
 中村捜査係長は、この部屋へは度々(たびたび)入ったことがあるのだが、入る度(ごと)に、まるで警視庁の鑑識課をそのまま縮小したようだと感じないではいられなかった。イヤ、この部屋には鑑識課にもないような、宗像博士創案の奇妙な器械も少くはないのだ。
 博士は先ず靴箆を実験台の上に置いて、指紋の部分に黒色粉末を塗り、隆線を黒く染めてから、窓の(ひも)を引いて厚い黒繻子(くろしゅす)のカーテンを閉め、部屋を暗室にすると、幻燈内の電燈を点火し、靴箆を器械に挿入して、ピントを合せた。
 (たちま)ち部屋の一方の壁のスクリーン上に、巨大な指紋の幻燈が映し出された。五分にも足らぬ拇指の指紋が、三尺四方程に拡大され、指紋の隆線の一本一本が黒い紐のように渦巻いている。
 博士も係長も、暗闇の中でじっとそれを見つめたまま、(しばら)くは口を利くことさえ出来なかった。二人とも、指紋ではなくて、何かしらえたいの知れぬ化物に(にら)みつけられているような、不思議な気味悪さを感じたからだ。
 アア、何という奇怪な指紋であろう。一箇の指紋に三つの渦巻があるのだ。大小二つの渦巻が上部に並び、その下に横に長い渦巻がある。じっと見ていると、異様な生きものの顔のように見えて来る。上部の二つの渦巻は怪物の目玉、その下の渦巻はニヤニヤと笑った口である。
「中村君、こんな指紋を見たことがありますか」
 闇の中から、博士の低い声が訊ねた。
「ありませんね。僕も相当色々な指紋を見ていますが、こんな変な奴には出くわしたことがありません。指紋の分類では変態紋(へんたいもん)に属するのでしょうね。渦巻が二つ抱き合っているのは、たまに出くわしますが、渦巻が三つもあって、こんなお化みたいな顔をしている(やつ)は、全く例がありません。三重渦状紋とでも云うのでしょうか」
「如何にも、三重渦状紋に違いない。これはもう隆線を数えるまでもありませんよ。一目で分る。広い世間に、こんな妙な指紋を持った人間は、二人とあるまいからね」
(こしら)えたものじゃないでしょうね」
「イヤ、拵えたものでは、こんなにうまく行きませんよ。この位に拡大して見れば、拵えものなれば、どこか不自然なところがあって、じき見破ることが出来るのですが、これには少しも不自然な点がない」
 そして、闇の中の二人は、目と口のある巨大な指紋に圧迫されたかの如く、又黙り込んでしまった。
 暫らくして、中村係長の声。
「それにしても、木島君は、この妙な指紋をどうして手に入れたのでしょう。この靴箆が犯人の持物とすれば、木島君は犯人に会っている訳ですね。直接犯人から(かす)めて来たものじゃないでしょうか」
「そうとしか考えられません」
「残念なことをしたなア。木島君さえ生きていてくれたら、易々と犯人を捉えることが出来たかも知れないのに」
「犯人はそれを恐れたから、先手を打って毒を()ませ、その上、報告書まで抜き取ってしまったのです。実に抜け目のない奴だ。中村君、これは余程大物ですよ」
「あの強情な木島君が、恐ろしい恐ろしいと云いつづけていたそうですからね」
「そうです。木島君は、そんな弱音を吐くような男じゃなかった。それだけに、僕らは余程用心しなけりゃいけない。……川手の家は、あなたの方から手配がしてありますか」
 博士は心配らしく、せかせかと訊ねた。
「イヤ、何もして居りません。今日までは川手の訴えを本気に受取っていなかったのです。しかし、こうなれば、捨てては置けません」
「すぐ手配をして下さい。木島君をこんな目に合せたからは、犯人の方でも事を急ぐに違いない。一刻を争う問題です」
「おっしゃるまでもありません。今からすぐ帰って手配をします。今夜は川手の家へ三人ばかり私服をやって、厳重に警戒させましょう」
是非(ぜひ)そうして下さい。僕も行くといいんだけれど、死骸を(ほう)って置く訳に行きません。僕は明日の朝、川手氏を訪問して見ることにしましょう」
「じゃ、急ぎますから、これで」
 中村係長は云い捨てて、あたふたと夕闇の街路へ駈け出して行った。
 あとに残った宗像博士は、幻燈の始末をすると、指紋の靴箆をガラスの容器に入れて、鋼鉄製の書類入れの抽斗(ひきだし)に納め、厳重に鍵をかけた。次の間には、部下の無残な死体が、元のままの姿で横たわっている。今に家族のものが駈けつけて来るであろう。又検事局から検視の一行も来るであろう。しかし、それを待つ間、このままの姿では可哀想だ。
 博士は奥の部屋から一枚の白布を探し出して来て、黙祷(もくとう)しながら、それをフワリと死体の上に着せてやった。

    一送走小池助手,宗像博士就蹲在尸首面前检查了一下他的手。木岛还握着小纸包,仿佛死也不想松开这件东西似地紧紧地、紧紧地握着。博士一根根地掰开死人的手指,好不容易取下了那件东西。
 
    像是小木片一样的东西非常仔细地卷在几层纸里,并用绳子捆绑着。博士从隔壁实验室里拿来了一块玻璃板,将纸包放在上面,使用小刀和镊子割断了绳子,然后逐渐拆开纸,尽量不用手去触及它。
 
    博士默不作声,定睛看着这情景的侦查股长也一声不吭,只是不时响起小刀和镊子触及玻璃板发出的轻轻的咋喀声,犹如手术室一般令人发毛的寂静。
 
    “怎么,不是鞋拔子吗?”
 
    中村股长奇卢怪叫道。纸包里的东西的的确确是一个赛摊略制的极普通的象牙色小型鞋拔子。
 
    难道木岛助手疯了吗?刚看到信封里小心地放着一叠白纸,这回却是一个好端端地包着的鞋拔纸包。这玩艺儿究竟有什么意义呢?
 
    但博士并没有感到意外的样子,他小心谨慎地轻轻抓那鞋拔的~端,迎着从窗户射来的光线看了一下,但因为当时窗外已经决要天黑,没有能仔细检查,所以他接了一下屋子角落上的开关打开了电灯,在那光线下仔细地检查了一下鞋拔子。
 
    “是指纹吗?”
 
    中村股长这才注意到那上面,这样问道。
 
    “是的。可是……”
 
    博士像是被什么东西吸住了似地凝视着鞋拔子的表面,连头都不想回。
 
    “外侧的指纹都互相重叠着,不清楚,但内侧有一个非常清晰的,好像是拇指的指纹。哎呀,真奇怪!中村君,这指纹实在奇怪呀,我从未见过这样奇怪的指纹,好像是妖怪的,还是我眼花了?”
 
    “哪个?”
 
    中村靠近来俯视着博士的手边。
 
    “礁,是这个。你迎着亮看一下。是完整的指纹吧,并没有重叠。可你瞧,不是有三个旋涡吗?”
 
    “这么说倒像是奇怪的指纹,可这样分辨不清啊。”
 
    “放大一下吧。请来这边。”
 
    博士拿着鞋拔子先走进了隔壁实验室,中村股长也跟在后面。这是一间十坪左右的屋子,面向一侧窗户的地方有一张很大的徐得白白的化学实验台,上面放着大大小小的玻璃器具和显微镜等东西,另一侧则竖立着摆有许多瓶子的药品架,好像是一副化学实验室和调剂室二者兼顾的摆设。
 
    在另一个角落里,连大型相机、紫外线、红外线、X光线的机器都一应俱全。在这些东西中间,一个坚固的三脚架上放着黑色的幻灯机盒子。这是实物幻灯机,通过它不用说能放大指纹,而且能放大所有微小的东西,并将它们投映在银幕上。指纹不只限于按在纸上或板上的。不管是玻璃瓶还是门的把手,也不管是杯子还是手枪,它都能立即放大这些实物上的指纹部分,将其投映出来。这是博士最得意的装置。
 
 
 
 
    中村侦查股长常进这屋子,每次进来他都情不自禁的感到这屋子好像是警视厅鉴定科研究所的缩影。不,这屋子里还有不少鉴定科里也没有的那种宗像博士独创的奇妙机械。
 
    博士先把鞋拔子置于实验台上,在指纹部分涂上黑色粉末将隆线染黑,然后拉上厚墩墩的黑缎子窗帘,把屋子变成了暗室,旋即点上幻灯机的电灯,把鞋拔子插入机内,对好了焦距。
 
    屋子一侧墙壁的银幕上立即映出了巨大的指纹幻灯。不足五分长的拇指指纹放大成三尺见方的指纹,其一根根隆线像黑色的绳子一样卷着旋涡。
 
    博士和股长都在黑暗中目不转睛地凝视着,半晌说不出话来。两人都感到惊惧,似乎被一种不是指纹而是来历不明的妖怪瞪着眼睛,令人毛骨悚然。
 
    啊,这是多么奇怪的指纹啊!一个指纹上有三个旋涡,上部排着大小两个旋涡,它们的下面有一个横向的长长的旋涡。定睛细看,好像是一张奇怪的动物的脸:上部的两个旋涡是这怪物的眼珠,下面的旋涡是嚎嗤地笑着的嘴巴。
 
    “中村君,你有没有看到过这种指纹?”
 
    黑暗中博士低声问道。
 
    “没有。我也见过各式各样的指纹,可从来没有碰到这么奇怪的。从指纹的分类上来说展变态纹吧。两个旋涡抱在一起的偶尔还遇得到,但有三个旋涡、形状像长怪脸的这种指纹完全没有先例。或是叫三重涡状纹吧?”
 
    “的的确确是三重涡状纹。这已经用不着数隆线了,看一眼就清楚。在这个广阔的社会上再也没有第二个人有这种奇怪的指纹了。”
 
    “会不会是假造的呢?”
 
    “不,要是假造的,就不会这么巧妙。放大到这种程度,倘是假造的那一定有不自然的地方,马上就能识破,但这丝毫没有不自然的地方。”
 
    这以后黑暗中的两人又不吱声了,就好像是被这有眼有嘴的巨大指纹压倒了似的。
 
    不久,中村股长说道:
 
    “话虽如此,可木岛君是怎么弄到这奇怪的指纹呢?假定这鞋拔子是犯人的,那么木岛君就见到犯人晚会不会是直接从罪犯那儿抢来的呢?”
 
    “只能这样认为。”
 
    “真遗憾呀!只要木岛君还活着,也许能轻而易举地逮住犯人……”
 
    “犯人在事实上是害怕这一点,所以先发制人让他服了毒,甚至抽掉了报告书。那家伙实在精明透了!中村君,这可是个大家伙呀!”
 
    “听说那倔强的木岛君接连说可怕、可怕。”
 
    “是的,木岛君不是那种叫苦的人。正因为这样,我们得相当小心才是…——小1手家那儿你都部署好了吗?”
 
    博士像是很担心,慌慌张张地问道。
 
    “没有,还什么也没部署,因为至今还没有正经八百地听到};;手的控告。不过这样的话就不能置之不理暧!”
 
    “请立即部署一下。既然使木岛君遭到了这种不幸,犯人方面也一定会加快行事的。这是刻不容缓的事情。”
 
    “不用您说了,我这就回去部署。今晚派三个便衣警察去呼家,让他们严加警戒。”
 
    “请务必这样做。最好我也去,可不能不管这尸首。我明天早晨去访问呼先生吧。”
 
    “事情急,那我就告辞了。”
 
    中村股长说罢就急匆匆地跑到暮色昏沉的街道上去了。
 
    留下的宗像博士开始收拾幻灯。他将有指纹的鞋拔子放进玻璃容器,然后收进铁制文件柜的抽屉里,严严实实地上了锁。部下凄惨的尸体依旧躺在那里。他的家属马上就要赶来了吧。从检察局大概也要来一批验尸的人。但在等候他们期间,尸体这样放着未免太可怜了。
 
    博士从屋里找出一件白衣,一面行着致目礼一面轻轻地将它盖在尸体上。
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