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怪指纹:清洁工

时间: 2021-08-15    进入日语论坛
核心提示:名探偵の失策「おかしい。どうもおかしい。僕は何か忘れているんだ。脳髄の盲点という奴かも知れない。物理上の不可能はあくまで
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名探偵の失策


「おかしい。どうもおかしい。僕は何か忘れているんだ。脳髄の盲点という奴かも知れない。物理上の不可能はあくまで不可能だ」
 博士は拳骨で、自分の頭をコツコツ(なぐ)りつけながら、川手邸の門を入ったり出たり、そうかと思うと、モーニングの(すそ)をひるがえして、コンクリート塀のまわりを、グルグル歩き廻ったりした。
 明るくなるのを待って、再び屋内屋外の捜査が繰返された。博士と助手と六人の刑事とが、夫々(それぞれ)手分けをして、たっぷり二時間程、まるで煤掃(すすはき)のように、真黒になって天井裏や縁の下、庭園の隅々までも這い廻った。しかし、足跡一つ、指紋一つ発見することが出来なかった。
 この事が警視庁に急報されたのは云うまでもない。忽ち全市に非常線が張られたのだが、狭い邸内でさえ、煙のように人目をくらました賊のことだ。恐らくその手配も徒労に終ることであろう。
 敗軍の将宗像博士は、非常な不機嫌で、一応事務所に引上げることになった。主人の川手氏は、博士の失敗を責める力もなく、絶望と悲歎のために半病人の(てい)であったし、博士は博士で、殊更(ことさら)詫びごとをいうでもなく、苦虫をかみつぶしたような顔で、簡単な挨拶をすると、小池助手を引きつれて、サッサと玄関を出てしまった。
 自動車を拾うと、博士はクッションに(もた)れたまま、じっと目を閉じて、一言も口を利かない。まるで木彫(きぼり)の像のように、呼吸さえしていないかと疑われるばかりだ。小池助手は、この不機嫌な先生を、どう扱っていいのか見当もつかなかった。ただ、気拙(きま)ずそうに、博士の横顔をチロチロと盗み見ながら、モジモジするばかりである。
 ところが、自動車が事務所への道を(なか)ば程も来た時である。博士は突然カッと目を見開き、
「オオ、そうかも知れない」
 と独言をいったかと思うと、今まで青ざめていた顔に、サッと血の気がのぼって、目の色も俄かに生々と輝いて来た。
「オイ、運転手、元の場所へ引返すんだ。大急ぎだぞ」
 博士はびっくりするような声で呶鳴った。
「何かお忘れものでも……」
 小池助手がドギマギして訊ねる。
「ウン、忘れものだ。僕はたった一つ探し忘れた場所があったことに、今やっと気附いたんだ」
 名探偵は、そういう間ももどかしげに、再び運転手を呶鳴りつけて、車の方向を変えさせた。
「それじゃ、あの賊の秘密の出入口がおわかりになったのですか」
「イヤ、賊は出もしなければ、入りもしなかったということを気附いたのさ。あいつは、妙子さんと一緒にちゃんと僕達の目の前にいたんだ。アア、(おれ)は、今までそこに気がつかないなんて、実にひどい盲点に引っかかったもんだ」
 小池助手は目をパチパチとしばたたいた。博士の言葉の意味が、少しも分らなかったからである。
「目の前にいたといいますと?」
「今に分る。ひょっとしたら僕の思い違いかも知れない。しかし、どう考えてもその外に手品の種はないのだ。小池君、世の中には、すぐ目の前に()りながら、どうしても気の附かないような場所があるものだよ。習慣の力だ。一つの道具が全く別の用途に使われると、我々は忽ち盲目になってしまうのだ」
 小池助手は益々面喰(めんくら)った。聞けば聞く程訳が分らなくなるばかりである。しかし、彼はこれ以上訊ねても無駄なことをよく知っていた。宗像博士は、その推理が確実に確かめられるまでは、具体的な表現をしない人であった。
 やがて、車が規定以上の速力で、川手邸の門前に着くや否や、博士は自らドアを開いて自動車を飛び出し、風のように玄関へ駈け込んで行った。
 客間に入って見ると、川手氏は、そこの長椅子にグッタリと凭れたまま、ものを考える力もなくなったように、茫然としていた。
「御主人、ちょっと、もう一度あの部屋を見せて下さい。たった一つ見落していたものがあるんです」
 博士は川手氏の手を引っぱらんばかりにして、せき立てた。
 川手氏は、異議も唱えなかった代り、さして熱意も示さず、気抜けしたように立上って、博士と小池助手の後につづいた。
 妙子さんの部屋の前まで来ると、博士はドアの把手(ノッブ)を廻して見て、
「アア、やっぱりそうだったか。ここへ鍵をかけてさえ置いたらなあ」
 と、落胆の溜息をついた。既に妙子さんが誘拐されてしまったあとの部屋へ、誰が鍵なぞかけるものか。博士は一体何を云っているのであろう。
 部屋に入ると、博士は次の間を通り越して、寝室に飛び込み、昨夜まで妙子さんの寝ていた大きな寝台の上に、いきなりゴロリと横になった。そして、不作法にも、モーニングのまま、その上に腹這(はらんば)いになって、川手氏に話しかけたのである。
「御主人、このベッドはまだ新しいようですね。いつお買いになりました」
 余りにも意外な博士の態度や言葉に、川手氏はますますあっけにとられて、急には答えることも出来なかった。一体この男はどうしたのだ、気でも違ったのではないかと、怪しみさえした。
「エ、いつお買入れでした」
 博士は駄々(だだ)ッ子のように繰返す。
「つい最近ですよ。以前に使っていたのが、急にいたんだものですから、四日程前に、家具屋にあり合せのものを据えつけさせたのです」
「ウン、そうでしょう。で、それを持込んで来た人夫をごらんでしたかね。たしかにその家具屋の店のものでしたか」
「サア、そいつは……。わしは丁度居合せて、据えつける場所を指図したのですが、何でも左の目にガーゼの眼帯を当てた髭面の男が、しきりと何か云っていたようです。無論見知らぬ男ですよ」
 アア、左の目にガーゼを当てた男。読者は何か思い当る所がないだろうか。我々はどこかで、同じような人物に出会ったことがあるのだ。(かつ)て雪子さんの死体を入れた陳列箱を、衛生展覧会へ持込んだ人夫の(かしら)が、丁度それと同じ風体の男ではなかったか。
「オオ、やっぱりそうだったか」
 博士は(うな)るように云うと、ベッドから降りて、今度はその下の(わず)かの隙間に這い込むと、自動車の修繕でもするように、仰向(あおむ)きになって、ベッドの裏側を調べていたが、突然、恐ろしい声で呶鳴り出した。
「御主人、僕の想像した通りです。ごらんなさい。ここをごらんなさい。彼奴(きゃつ)の手品の種が分りましたよ。アア、なんということだ。今頃になって、やっとそこへ気が附くなんて……」
 川手氏と小池助手は、急いでベッドの向側に廻って見た。
「どこですか」
「ここだ、ここだ。ベッドをもっと壁から離してくれ給え。ここに仕掛けがあるんだ」
 二人はいわれるままに、ベッドを押して、壁際から離したが、すると、その下から仰向きに横たわっている博士の上半身が現われ、博士はそのまま起き上って、今まで壁に接していたベッドの側面を指し示した。
「ここに隠し蓋があるんです。ホラネ、これを開けば中は広い箱のようになっています」
 シーツをめくり上げて、ベッドの側面を強く()すと、それは巧妙な隠し戸になって、幅一尺、長さ一間程の、細長い口が開いた。つまり、ベッドのクッションの部分を、上部の三分の一程の、薄い部分にとどめて、その下部は全体が一つの頑丈な箱のように作られているのだ。無論人間が潜んでいるためだ。その広さは二人の人間を隠すに十分である。
「巧く造りやがったな。外から見たんでは、普通のベッドとちっとも違やしない」
 小池助手が感心したように叫んだ。
 よく見れば、普通のベッドよりは、いくらか厚味があるようであったが、しかし、その側面には複雑な(ひだ)のある毛織物で、巧みに錯覚を起させるようなカムフラージュが施され、一寸(ちょと)見たのでは少しも分らないように出来ていた。
 恐らく、復讐鬼は、家具屋から運ばれる途中で、ベッドを横取りして、(あらかじ)め造らせて置いたこの偽物を持ち込んだのに違いない。
「すると、これが運び込まれた時から、あいつは、ちゃんとこの中に隠れていたのでしょうか」
 川手氏が、もう驚く力も尽き果てたように、投げやりな調子で訊ねる。
「そうかも知れません。(あるい)はあとから忍び込んだのかも知れません。いずれにせよ、昨夜は、早くからこの中に身を潜めていたに違いありません。お嬢さんは、それとも知らず、悪魔と板一枚を隔てて、ここへお(やす)みになったのです」
 博士は無慈悲な云い方をした。
「そして、あいつは真夜中に、そこから忍び出し、あなたをあんな目にあわせた上、お嬢さんをこの箱の中へ押し込み、自分もここへ入って、逃げ出す時刻の来るのを、我慢強く待っていたのです」
「では、今朝になってから……」
「そうです。僕達は非常な失策をしました。まさか賊とお嬢さんとが、この部屋の中に隠れているとは思わないものですから、ここは開けっ放しにして、庭の捜索などやっていたのです。賊はその間に、廊下や玄関に誰もいない折を見すまして、お嬢さんを抱いて、ここから逃げ出したのに違いありません」
「しかし、逃げ出すと云って、どこへですか。一歩この邸を出れば、人通りがあります。まさか明るい町を、女を抱いて走ることは出来ますまい。それに、刑事さん達も、まだ門の外に見張りをつづけていたんだし――」
 川手氏が腑に落ちぬ体で反問した。
「そうです。僕もそれを考えて安心していたのですが、賊の方では、この二重の包囲を脱出する、何か思いもよらぬ計略があったのかも知れません。イヤ、ひょっとすると、あいつは、まだ邸内のどこかに潜伏しているんじゃないか。夜を待つ()めにですね。しかし……」
 博士も確信はないらしく見えた。
「だが、妙子はどうして救いを求めなかったのだ」
 川手氏はハッとそこへ気づいたらしく、真青になって、脅え切った目で宗像博士を見つめた。
「妙子はわしと同じように猿轡をはめられていたのでしょうか。それとも……」
「何とも申せません。しかし、少くとも無残な兇行が演じられなかったことは確かですよ。どこにも、血痕などは見当らないのですから。しかし、お嬢さんの生死は保証出来ません。ただ御無事を祈るばかりです」
 博士は正直に云った。
 川手氏の物狂わしい脳裏を、妙子さんが賊の為めに絞殺されている光景や、毒薬の注射をされている有様などが、浮かんでは消えて行った。
「若し邸の中に隠れているとすれば、もう一度捜索して下さる訳には……」
「僕もそれを考えているのです。しかし、念の為めに、門前に見張りをしている刑事に、よく訊ねて見ましょう。まだ二人だけ私服が居残っている筈です」
 そういうと、博士はもう部屋の外へ走り出していた。小池助手と川手氏とが、慌しくそのあとにつづく。

掃除人夫


 門前に出て見ると、背広に鳥打帽の目の鋭い男が、煙草をふかしながら、ジロジロと町の人通りを眺めていた。
「君、その後、不審な人物は出入りしなかったでしょうね。何か大きな荷物を持った奴が、ここから出たという様なことはなかったですか」
 博士がいきなり訊ねると、刑事は不意を打たれて、目をパチパチさせた。
 この刑事は、早朝邸内の大捜索が終ったあと、万一犯人が邸内に潜んでいて、逃げ出すようなことがあってはと、念の為めに見張りを命ぜられていたのだから、若し不審の人物が出入りすれば、見逃す筈はなかった。
「イイエ、誰も通りませんでした。あなた方の外には誰も」
 刑事は、宗像博士が彼等の上役中村捜査係長の友人であることを、よく知っていた。
「間違いないでしょうね。本当に誰も通らなかったのですか」
 博士は妙に疑い深く聞き返す。
「決して間違いありません。僕はその為めに見張りをしていたのです」
 刑事は少し怒気を含んで答えた。
「例えば新聞配達とか、郵便配達とかいうようなものは?」
「エ、何ですって? そういう連中まで疑わなければならないのですか。それは、郵便配達も、新聞配達も通りました。しかし、犯人がそういうものに変装して逃げ出すことは出来ませんよ。彼等は皆外から入って来て、用事をすませると、すぐ出て行ったのですからね」
「しかし、念の為めに思い出して下さい。その他に外から入ったものはなかったですか」
 刑事は、何というつまらない事を訊ねるのだと云わぬばかりに、ジロジロと博士を見上げ見下していたが、やがて何事か思い出したらしく、いきなり笑い出しながら、
「オオ、そういえば、まだありましたよ。ハハハハハハハ、掃除人夫です。塵芥(ごみ)車を引っぱって、塵芥箱の掃除に来ましたよ。ハハハハハハハ、掃除人夫のことまで申上げなければならないのですか」
「イヤ、大変参考になります」
 博士は刑事の揶揄(やゆ)を気にもとめず、生真面目な表情で答えた。
「で、その塵芥箱というのは、ここから見えるところにあるのですか」
「イヤ、ここからは見えません。掃除人夫は門を入って右の方へ曲って行きましたから、多分勝手元の近くに置いてあるのでしょう」
「それじゃ、君は、そこで掃除人夫が何をしていたか、少しも知らない訳ですね」
「エエ、知りません。僕は掃除人夫の監督は命じられていませんからね」
 刑事はひどく不機嫌であった。何をつまらないことを、クドクドと訊ねているのだと云わぬばかりである。昨夜の徹夜で、神経がいらだっているのだ。
「で、その人夫は、ここから又出て行ったのでしょうね」
 博士は我慢強く、掃除人夫のことにこだわっている。一体塵芥車と昨夜の犯罪とに、どんな関係があるというのだろう。
「無論出て行きました。塵芥を運び出すのが仕事ですからね」
「その塵芥車には蓋がしてあったのですか」
「サア、どうですかね。多分蓋がしてあったと思います」
「人夫は一人でしたか」
「二人でした」
「どんな男でしたか。何か特徴はなかったですか」
 そこまで問答が進むと、仏頂面(ぶっちょうづら)で答えていた刑事の顔に、ただならぬ不安の色が現われた。博士がなぜこんなことを、根掘り葉掘り訊ねるのか、その意味がおぼろげに分って来たのだ。彼は暫らく小首をかしげて考えていたが、やがてそれを思い出したらしく、今度は真剣な調子で答えた。
「一人は非常に小柄な、子供みたいな奴で、黒眼鏡をかけていました。もう一人は、アア、そうだ、どっちかの目に四角なガーゼの眼帯を当てた四十ぐらいの大男でした。二人とも鳥打帽を冠って、薄汚れたシャツに、カーキ色のズボンをはいていたと思います」
 それを聞くと、小池助手はハッと顔色を変えて、今にも掴みかからんばかりの様子で、刑事を睨みつけたが、宗像博士は別に騒ぐ色もなく、
「君は犯人の特徴を、中村君から聞いていなかったのですか」
 と穏かに訊ねた。すると、刑事の方が真青になって、俄かに慌て出した。
「そ、それは聞いていました。アトランチスカフェへ現われた奴は、黒眼鏡をかけた小柄な男だったということは、聞いていました。しかし……」
「それから、衛生展覧会へ蝋人形を持込んだ男の風体は?」
「そ、それも、今、思い出しました。左の目に眼帯を当てた奴です」
「すると、二人の掃除人夫は、犯人と犯人の相棒とにソックリじゃありませんか」
「しかし、しかし、まさか掃除人夫が犯人だなんて、……それに、あいつらは外から入って来たのです。僕は中から逃げ出す奴ばかり見張っていたものですから。……偶然の一致じゃないでしょうか」
 刑事は、ひたすら自分の落度にならないことを願うのであった。
「偶然の一致かも知れない。そうでないかも知れない。我々は急いでそれを確かめて見なければならないのです。犯人は妙子さんの自由を奪って、どこかへ隠して置いて、独りでここを逃げ出し、改めて妙子さんを運び出す為に戻って来た、と考えられないこともない。今朝あなた方が邸内を捜索している間に、犯人がひとりで逃げ出すような隙は、いくらもあったのですからね」
「隠して置いたといって、お嬢さんを塵芥箱の中へですか」
突飛(とっぴ)な想像です。しかし、あいつはいつも、思い切って突飛なことを考える奴です。それに、我々は今朝の捜索の時、塵芥箱の塵芥の中までは探さなかったのですからね。サア、一緒に行って、調べて見ましょう」
 人々は博士のあとに従って、門内に入り、勝手口の方へ急いだ。博士と刑事のあとから、青ざめた川手氏と小池助手とがつづく。
 問題の塵芥箱は、炊事場の外の、コンクリート塀の下に置いてある。黒く塗った木製の大きな箱だ。これなれば、人間一人十分隠れることが出来る。
 博士はツカツカとその塵芥箱の側に近づいて、蓋を開いた。
「すっかり綺麗(きれい)になっている。だが、あれはなんだろう、小池君、一寸見てごらん」
 云われて、小池助手も箱の中を覗き込んだが、ジメジメしたその底に、少しばかり残った塵芥に混って、四角な白いものが落ちている。
「封筒のようですね」
 彼はそういいながら、手を入れて、拾い上げた。どこやら見覚えのある(やす)封筒だ。宛名も差出人もないけれど、中には手紙が入っているらしい。
「中を見てごらん」
 博士の指図に従って、小池助手は封筒を開き用箋を取出した。
「オヤ、ここにインキで指紋が捺してあります」
 簡単な文章の終りに、署名のかわりのように、ハッキリと一つの指紋が現われているのだ。
 博士は急がしく例の拡大鏡を取り出して、その上に当てた。
「やっぱりそうだ。川手さん、僕の想像した通りでした。お嬢さんはここに隠してあったのです」
 そこには、あのお化けのような三重渦状紋が、用箋の隅からニヤニヤと笑いかけていたのである。
 小池助手が、気を利かして文面を読み上げた。
「川手君、俺の字引に不可能という文字はないのだ。ずいぶん厳重な警戒だったね。しかし、君のほうで二重の警戒をすれば、俺も二重の妙案をひねり出すばかりさ。
 宗像大先生によろしく伝えてくれ給え。あれほど捜索をしながら、ベッドと塵芥箱に気附かなかったとは、名探偵の名折(なお)れですぜと伝えてくれ給え。(もっと)も俺は誰しも見逃しそうな盲点と云う奴を利用したんだがね。
 君はとうとう一人ぼっちになってしまったねえ。だが、妙子にはいつか()えるよ。一つ探して見たまえ。そして、ある恐ろしい場所で、君が娘の無残なむくろと対面した時、どんな顔をするか。それを思うと、俺は心の底からおかしさがこみ上げて来る。川手君、これが真の復讐というものだぜ。今こそ思い知るがよい」
 小池助手は途中で、幾度も朗読をやめようかと思ったが、川手氏の目が、先を先をと(うなが)すものだから、やっとのことで読み終った。
「川手さん、何と云ってお詫びしていいか分りません。僕は完全に敗北しました。だが、何という恐ろしい奴だ。あいつは心理学者ですよ。あいつのいう通り、僕達は盲点に引っかかったのです。それをちゃんと予知して、少しも騒がず、悠々と逃げ去った腕前は、ゾッと怖くなる程です。
 しかし、僕はこの恥辱を(すす)がねばなりません。お嬢さんは恐らく、もう生きてはいらっしゃらないかも知れませんが、いずれにせよきっとその隠し場所を発見してお目にかけます。そして、僕はあいつを捉える迄は、この戦いをやめません。命をかけても、必ずあいつをやッつけます。やッつけないでおくものですか」
 宗像博士は、満面に(しゅ)(そそ)いで、川手氏にというよりは、寧ろ我れと我が心に誓うもののように、烈しい決意を示すのであった。

    “奇怪,实在奇怪,是我忘了什么了?说不定是脑子的空白点这东西,物理上的不可能永远是不可能的。”
 
    博士忽而用拳头敲着自己的脑袋,在呼公馆的大门口进进出出,忽而又翻起晨礼服的下摆,在水泥围墙周围转来转去。
 
    等到天明,又进行了一次屋内外的搜查,博士、助手和六名刑警各自分头进行,足足花了两个多小时,甚至像岁本扫尘一样浑身乌黑地爬遍了天花板顶上。廊檐、地板下和庭院的每个角落,但连一个脚印和一个指纹都没有发现。
 
    当然这件事赶紧报告了警视厅,全市立即设置了警戒线,但因为此贼能在小小的与邪内都能像烟一般地神出鬼没,所以部署恐怕也会以徒劳而告终吧。
 
    败军之将宗像博士怏怏不乐,决定暂且回事务所。主人川手连责备博士失策的力气都没有了,由于绝望和悲叹,已经如同病人。博士则像是吃了黄连似地板着一副胜,在向川手简单地说了几句以后就带着小池助手赶紧出了大门。
 
 
 
 
    一雇到出租车,博士就靠在软垫上一动不动地闭着眼睛,连一句话都不说,简直像个木雕像似的,都快叫人怀疑甚至已不在呼吸。小池助手不知道该如何对待这位板着脸的老师,只是尴尬地偷看着博士的脸,不知怎么办才好。
 
    可是,在汽车沿着去事务所的路开了约奖一半路的时候,博士突然睁开眼睛自言自语道:
 
    “懊,也许如此。”
 
    刚说完这话,刚才苍白的脸上一下子有了血色,眼睛也突然炯炯有神起来。
 
    “喂,司机,赶快回到原来的地方去!”
 
    博士用让人大吃一惊般的声音嚷道。
 
    “是忘了什么东西吗?”
 
    小池助手忐忑不安地问道。
 
    “嗯,是忘了东西。我现在才发觉只有一处忘了搜查。”
 
    名侦探连这样说话时都迫不及待似的,他又一次嚷嚷着让司机改变了行车方向。
 
    “那么,您是知道了那贼的秘密出入口咬?”
 
    “不,我发觉那贼既没有进去也没有出去,那家伙显然与妙子一起在我们眼前。啊,我刚才没有发觉这一点,实在是被人钻了大空子呀!”
 
    小池助手直眨着眼睛,他丝毫不明白博士的话是什么意思。
 
    “您说的在眼前,什么意思?”
 
    “过会儿就明白了。也许是我们的误解,但无论怎么考虑,此外再也没有戏法的秘密了。小池君,世上有种地方可是近在眼前但怎么也注意不到的呀。这是习惯的力量。一旦一个工具被使用于别的用途,我们就立即成了瞎子了。”
 
    小池助手越来越不知所措了,只是越听越糊涂,但他知道再问下去也是白搭。宗像博士是一个在其推理得到证实之前决不作具体表达的人。
 
 
 
 
    不久,车子以超过规定的速度到达I;I手公馆门前。一到达博士就自个儿打开门跳下汽车,飞也似地跑进大门去了。
 
    进客厅一看,川手依然精疲力尽地靠在长沙发上茫然不知所措,仿佛连思索的力气都没有了似的。
 
    “东家,请让我再看一下那房间。只有一样东西忽略了。”
 
    博士几乎要拉川手的手似地催促道。
 
    川手没有提出异议,可是也没有表示多少热情,只是失了魂似地站起来跟在博士和小池助手的后面。
 
    一到妙子的房间,博士就转了一下门的把手,沮丧地叹了一口气,说道:
 
    “啊,果然如此。要是让你们锁住这地方就好啦!”
 
    谁还去锁妙子已经被拐走后的房间呢!博士到底在说什么呢?
 
    一进房间,博士就走过套间奔进卧室,爬上妙子一直睡到昨晚的那张大床,一下子躺了下来。然后又粗鲁地和农趴在上面,跟川手攀谈起来:
 
    “东家,这床好像还很新的哩。什么时候买的?”
 
    由于博士的言谈举止实在出乎意料,川手益发感到惊愕,都没有能立即回答上来。这人究竟是怎么啦?他甚至怀疑是不是疯了。
 
    “喂,什么时候买的?”
 
    博士像磨人精似的又问了一遍。
 
    “是最近呀。以前用的那张突然坏了,所以四天前让家具店安装了这张现成的床。”
 
    “哦,是这样吧。那么,您看到了那个拿这床进来的小工了吧。确实是那家具店的人吗?”
 
    “这,那个家伙……当时我刚好在场,吩咐安装的地方,好像有个左眼上戴着沙布眼罩的胡子拉喳的男人不停地说着什么话,我当然不认识他。”
 
    啊,左眼戴眼罩的男人!读者有没有想起什么呢?我们在什么地方碰到过同样的人物。曾经将装有雪子遗体的陈列箱拿到展览会去的那小工的脸不是刚好跟他一模一样的吗?
 
    “哦,果然如此!”
 
    博士呻吟般地说道,随即下了床,这回爬进了下面的一点点缝隙,像是修理汽车似地仰着身子,检查着床的里侧,突然用可怕的声音嚷道:
 
    “东家,完全跟我想像的一样。请看,请看这儿。我知道了那家伙戏法的底了。啊,我真傻,直到现在才注意这地方……”
 
    川手和小池助手赶紧绕到床的那一侧。
 
    “哪里?”
 
    “这里,这里。给我把床拉开,离墙壁再远一点儿。这里有机关。”
 
    两人按照吩咐推着床,使它与墙边隔开了一些,于是从下面露出了仰卧着的博士的上半身。博士就那样爬起来,指着在这之前与墙壁连接着的床的侧面继续说道:
 
    “这里有一个暗盖。瞧,一打开这儿,里面就像一个大箱子。”
 
    翻起床单,使劲推一下床的侧面,那就成了一扇巧妙的暗门,出现了一个宽一尺、长一间左右的狭长口子。这就是说,把床垫只限在上面大约三分之一的薄薄的部分,其下面整个做得像一个坚固的箱子一样。当然是为了躲藏人的。其大小足以藏两个人。
 
    “做得巧妙极了!要是从外面看,跟普通的床一模一样。”
 
    小池助手赞叹似地大声说道。
 
    如果好好看的话,比普通的床好像要稍厚一些,但它的侧面有复杂经纹的毛织品;施加着一种巧妙地使人产生错觉的迷彩,乍一看一点也不知道那是机关。
 
    准是复仇狂在从家具店运来的途中冒取了那张床,拿来了这张事先让人做好的假床。
 
    “这么说,从这张床被抬进来时起那家伙就已经躲在这里面了吧?”
 
    川手毫不在乎地问道,似乎连吃惊的力气都已经没有了。
 
    “也许如此,或者说不定是从外面悄悄溜进来的,总之一定是昨晚很早就隐藏在这里面了。小姐都不知道这些,跟恶魔只隔着一块板睡在这儿。”博士冷酷无情地说道,“而且那家伙半夜里从那儿悄悄溜出来,先是让你吃了那种苦头,后又把小姐塞进这箱子中,自己也进到这里面,耐心地等着逃跑时刻的到来。”
 
    “那么是到了今天早晨以后……”
 
    “是的。我们犯了个大错误。万万没有想到贼和小姐躲藏在这房间里,所以这儿敞开着搜索院子。贼一定是在这期间看走廊里和大门口没有一个人,于是趁机抱着小姐从这儿逃了出去。”
 
    “说逃出去,可是去哪儿呢?走出这公馆一步街上就有行人。怎么能在明亮大街上抱着女人跑呢!何况刑警们也还在门外继续看守着……”
 
    川手神色诧异地反问道。
 
    “是的,我也考虑到这一点所以放下了心,但贼也许有一个逃脱这双重包围的想象不到的计策。不,说不定那家伙还潜伏在毛邪内的什么地方呢!当然是为了等待晚上。可是……”
 
    看上去博士也好像没有自信。
 
    “但妙子为什么没有求救呢?”
 
    川手好像突然察觉到了,顿时脸色苍白,用恐惧的目光凝视着宗像博士:
 
    “妙子是跟我一样嘴里被堵着东西呢?还是……”
 
    “说不清楚,但至少可以肯定贼没有行凶,因为哪儿都没有看到血迹嘛。不过小姐的生死还不能保证,但愿她平安无事。”
 
    博士坦率地说道。
 
    川手似发狂般的脑海里反复出现着妙子被贼勒死以及被注射毒药的情景。
 
    “如果藏在公馆里,那还得搜索一次……”
 
    “我也是这样想的,但为了郑重起见,想好好问一下在门前看守着的刑警。应该还留着两个便衣警察的。”
 
    说罢博士就跑到了屋外。小池助手和川手匆忙跟在后面。
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