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怪指纹:恶魔的末日

时间: 2021-08-15    进入日语论坛
核心提示:悪魔の最期 明智の意外な言葉に、一座は俄に色めき立った。刑事部長も、捜査課長も、中村警部も、思わず椅子から腰を浮かして、
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悪魔の最期


 明智の意外な言葉に、一座は俄に色めき立った。刑事部長も、捜査課長も、中村警部も、思わず椅子から腰を浮かして、口々に何か云いながら、明智につめよる気配を見せた。
 宗像博士の血走った両眼は、異様にギラギラと輝きはじめた。
「犯人を捉えたって? オイオイ、冗談はよしたまえ。一体いつどこで捉えたというのだ」
「犯人はいつもそこにいたのです」
 明智は平然として答えた。
「お化け大会の中でも、川手氏が山梨県の山中に身を隠す途中でも、北園竜子が一命を失った刹那(せつな)も、犯人は常にそこにいたと同じように、今も犯人はここにいるのです。犯人は全く気附かれぬ保護色に包まれて、我々の目の前に隠れているのです」
 それを聞くと、刑事部長はもう打捨てては置けぬという面持で、鋭く質問した。
「明智君、君は何を云っているのです。ここには我々五人の外に誰もいないじゃありませんか。それとも、我々の中に犯人がいるとでもいうのですか」
「そうです。我々の中に犯人がいるのです」
「エ、エ、それは一体誰です」
「この事件での数々の不可能事が起った時、いつもその現場に居合わせた人物です。被害者川手氏を除くと、そういう条件にあてはまる人物は、たった一人しかありません。……それは宗像隆一郎氏です」
 明智は別に語調を強めるでもなく、ゆっくり云いながら、静かに宗像博士の顔を指さすのであった。
「ワハハハ……、これはおかしい。こいつは傑作だ。明智君、君は探偵小説を読み過ぎたんだよ。小説家の幻想に慣れすぎたんだよ。如何にも探偵小説にありそうな結論だね。ワハハハ……、実に傑作だ。こいつは愉快だ。ワハハハ……」
 宗像博士は腹を抱えんばかりに笑いつづけたが、悲しいかな、その笑い声の終りは、泣いているのかと疑われる程、弱々しい音調に変って行った。
「宗像さん、明智君は冗談を云っているのではないようです。今までの明智君の推理を聞いていますと、我々としても、何となくあなたがその手品遣いの本人ではなかったかと考えないではいられません。あなたはこの際、是非弁明をなさる必要があります」
 刑事部長が宗像博士をキッと見つめながら、厳然たる警察官の口調で云った。
「弁明せよとおっしゃるのですか。ハハハ……、夢物語を真面目に反駁(はんばく)せよとおっしゃるのですか。僕はそういう大人げない真似は不得手ですが、強いてとおっしゃるならば申しましょう。……確証がほしいのです。明智君、確かな証拠を見せて貰おう。君もこれ程僕を侮辱したからには、まさか証拠がない筈はなかろう。それを見せたまえ、サア、それを見せたまえ」
「証拠ですか。よろしい、今お目にかけましょう」
 明智はチョッキのポケットから時計を出して、眺めながら、
「話に夢中になっている()に、もう一時間半もたっています。宗像君、君が電話をかける為にこの部屋を出てから、もう一時間半もたってしまったのですよ。ハハハ……、一時間半の間には、随分色々なことが起っているかも知れませんね。……オオ、ボーイがやって来た。手に紙片(かみきれ)を持っている。多分僕の所へ来たのでしょう。証拠が車に乗って駈けつけて来たのかも知れませんよ」
 明智は冗談のように笑いながら、その白服のボーイの手から小さな紙片を受取って、そこに書いてある鉛筆の文字を読み下した。
「やっぱりそうでした。丁度うまい所へ証拠がやって来たのです。ではすぐここへ通してくれ給え」
 ボーイが立去ると間もなく、明智の言葉の意味を解し兼ねて、不審げに入口を見つめる人々の視線の中へ、先ず現われたのは明智の助手の小林少年であった。詰襟金釦(つめえりきんぼたん)の服を着て、林檎(りんご)のような可愛い頬に、利口そうな目を輝かせながら、人々に一礼すると、ツカツカと明智の(そば)に進みより、何か二言三言ささやいたが、明智の肯くのを見ると、入口に向って「お入り」と声をかけた。
 すると、ドヤドヤと足音がして、二人の屈強な青年に、両方から抱えられるようにして、後手(うしろで)に縛られた小柄な真黒な人の姿が、部屋の中によろめき込んで来た。
 それを一目見るや、宗像博士はギョッとしたように立上り、キョロキョロとあたりを見廻していたが、何を思ったのか、いきなり表の道路に面する窓の方へ走り寄った。
「宗像君、その窓を開けて、下を覗いてごらん。中村君の部下の私服刑事が十人ばかり、今にも君がそこから飛降りるかと、手ぐすね引いて待ち構えているんだよ」
 刑事部長も捜査課長も知らなかったけれども、中村警部は明智の依頼によって、予め部下のものを、このレストラントの周囲に張りこませて置いたのである。
 博士はそれと聞くと、素早く窓の下を一瞥(いちべつ)して、明智の言葉が嘘でないことを確かめたが、何かきまり悪げに、しかし、なおも虚勢をはりながらノロノロと元の席に戻るのであった。
「皆さん、御紹介します。この黒い覆面の人物は、世間体は宗像君の奥さん。その実は宗像君の血を分けた妹さんです。宗像君の本名は、もう御想像になったでしょうが、山本始と云い、この妹さんは山本京子というのです。偽物の山本始と京子は殺されてしまいましたが、本物はこうしてちゃんと生きていたのです。
 僕はさっき申上げた仮説を組み立ててから、それを確めるために宗像君の自宅に捜査の手を入れました。そして、宗像君の夫人が、極度の人嫌いで、事務所の助手達にも一度も顔を見せたことがないというのを知って、いよいよ僕の仮説が間違っていないという自信を得たのです。そして、この夫人にはそれ以来絶えず見張りの者をつけて置きました。
 宗像君は、さい前僕が川手氏を匿っているということを話した直後、口実を設けて電話室へ行き、どこかへ電話をかけましたが、それはこの妹の京子を呼び出して、邪魔の入らぬうちに一刻も早く仕損じた敵討ちを完成するように云いつけたのです。つまり、僕の留守の間に、即刻僕の家へ忍び込んで川手氏を殺害することを命じたのです。宗像君、僕の推察が間違っていますか。ハハハ……、僕は君の心の奥底までも見通しているのですよ。
 ところが、そうしてこの女が僕の家へ忍び込んでくれるのを、僕は待っていたのです。その為に態と川手氏が僕の家に寝ていることを、ハッキリ口外したのです。それを聞いて宗像君が顔色を変え、電話室へ行った時には、実を云うと僕は心の中でしめたと叫んだくらいですよ。
 では山本京子の素顔をお見せしましょう」
 明智は云いながらツカツカと黒衣の人物の前に進んで、いきなり覆面の黒布(こくふ)をかなぐり捨てた。するとその下から、極度の激情に紙のように青ざめ、細い目のつり上った、四十女の痩せた顔が現われた。
「サア、小林君、この女が僕の家で何をしようとしたのか、君から簡単に皆さんに御報告するがいい」
 云われて小林少年は一歩前に進み、ハッキリした口調で、ごく手短に事の次第を語った。
「先生の命令によって、僕達三人は、川手さんの泊っていらっしゃる寝室の中に、待ち伏せしていたのです。
 天井の電燈は消して、スタンドだけの薄暗い光にして置いたのですが、その光の中で、川手さんは何も知らず眠っていました。僕達はてんでに物蔭に身を隠して、じっと待っていたのです。
 すると、今から三十分程前、庭に面したガラス窓が(それは態と掛金をはずして置いたのですが)ソーッと音もなく開いて、そこからこの黒覆面の人が忍び込んで来ました。
 息を殺して見ていますと、この人は寝台に寝ている川手さんの顔を、確めるように眺めていましたが、どこからか西洋の短剣を取出して、それを右手に握り、川手さんの上にのしかかるようにして、その胸を目がけて、いきなり刺し通そうと身構えました。
 僕達三人は、それを見て、隠れ場所から鉄砲玉のように飛び出して行きました。そして、三方からこの人に組みついて、何の苦もなく取りおさえてしまったのです。
 川手さんは物音に驚いて目を覚ましましたが、かすり傷一つ受けてはいませんでした」
 小林少年が報告を終るのを待って、明智はとどめを刺すようにつけ加えた。
「宗像君、僕の証拠がどんなものであったか、これで君にもハッキリ分っただろうね。だが、この君の妹さんは、僕の予想がうまく的中して、幸いに捉えることが出来たが、僕の握っていた証拠はこれだけではないのだ。君は気附いていないかも知れぬが、北園竜子に雇われていたお里という婆やが、竜子の恋人に化けた君の素顔を、よく見覚えているのだよ。
 小林君、あの婆やも連れて来たのだろうね」
「エエ、廊下に待たせてあります」
「じゃ、ここへ呼んで来たまえ」
 やがて、小林少年につれられて、お里婆やがオズオズと入って来た。
「お里さん、君はこの人に見覚えがないかね」
 明智が指さす宗像博士の顔を、老婆はつくづく眺めていたが、一向記憶がないらしく、かぶりを振って、
「イイエ、少しも存じませんですが……」
 と(うやうや)しく答えた。
「アア、そうだった。君が知っているのはこの顔ではなかったね。宗像君、この婆やの為に、面倒だけれど、一つそのつけひげと眼鏡を取ってやってくれたまえ。イヤ、とぼけたって駄目だよ。僕は何もかも知っているのだ。
 君は川手氏と一緒に山梨県の山中へ行く途中で、変装をする為に、その三角ひげを取って見せたっていうじゃないか。いずれは殺してしまう川手氏のことだからと、つい油断をしたのだろうが、その川手氏が生返って見れば、あれは君の大失策だったよ。川手氏の外には、君のその精巧なつけひげの秘密を知っているものは、一人もないのだからね。
 ハハハ……、宗像君、今更ら躊躇するのは未練というものだよ。それじゃ、一つ僕がそのつけ髯をはがして上げるか」
 明智は云いながら、素早く宗像博士の前に近より、いきなり猿臂(えんぴ)を延ばして眼鏡を叩き落し、口鬚と顎髯とをむしり取ってしまった。するとその下から、今までのしかつめらしい博士とは似てもつかぬ、のっぺりとした無髯(むぜん)の悪相が現れて来た。
「オオ、そのお方なら存じて居ります。おなくなりになった御主人様の所へよく訪ねていらしった方でございます。お名前は存じませんが、御主人様と二人づれで、時々どこかへお出かけになった方でございますよ」
 お里婆さんが、やっきとなって喋べり立てる。
「つまり、いつか君が云っていた、北園竜子の情夫というのが、この男なんだね」
 中村警部が横合から質問すると、老婆は肯いて、
「エエ、マアそういう御関係のお方と、お察し申していたのでございますよ」
 と答えながら、口に手を当てて、()にかみ笑いを隠すような仕草をした。
「宗像君、これでも君はまだ弁明をする勇気があるかね。若しこの二人の証人で足りなければ、僕の方には外にも証人があるんだよ。例えば山梨県の例の一軒家の留守番をしていた老夫婦だ。川手氏の話で、あの老婆の方が君達兄妹の昔の乳母だったことも分っている。その老夫婦は僕の部下が今捜索しているのだが、所在をつきとめて裁判所に引渡す日も遠くはあるまい。
 それから、君が川手氏に地下室でお芝居を見せた時の役者連中だ。この方にも、もう捜索の手が伸びている。君は一人も証人などはあるまいと安心していたようだが、川手氏が生返ったばかりに、こういう証人があり余る程出て来たのだ。
 宗像君、君がいくら魔法使いでも、もう逃れる道はない。見苦しい真似はしないでくれたまえ。僕は君の犯罪者としての才能と狡智には驚嘆に近い感じを持っている。僕がこれまで取扱った犯罪者には、君程の天才は一人もなかったと云ってもいい。
 復讐事業の為に、先ず民間探偵に化けて、様々の事件で手柄を立てて見せた遠大の計画といい、怪指紋を巧みに利用して、被害者を逆に犯人と見せかけた着想といい、イヤ、そればかりではない、犯人からの脅迫状を、塵芥(ごみ)箱の中や、当の被害者のポケットに入れて置いて、さも不思議そうに驚いてみせたり、怪指紋のゴム印を、色々な器物や人間の頬にまで捺して、自分自身で捺した指紋を怪しんで見せたり、たとえ正体を見破られた苦しまぎれとはいえ、助手を二人まで我が手にかけて、嫌疑の転嫁を計ったり、その機敏と大胆不敵には、流石の僕も舌を捲かないではいられなかった。
 君の五つの殺人のうちで、最も手の込んでいたのは、妙子さんの場合だが、あの記録を読んだ時にも、僕は君のすさまじい虚栄心に目を見はった。ただ予告の殺人を成しとげたいばっかりに、君は実に手数のかかるトリックを考え出している。
 あんなにまで苦労しなくても、予告をやめて、不意を襲いさえすれば、易々と目的を達することが出来るのに、態々そのたやすい道を避けて、不可能に近い困難な方法を選んでいる。
 君はその為に、クッションの下に空洞のある特別のベッドを、非常な苦心をして、予め妙子さんの寝室に持込まなければならなかった。しかし、それは人目を欺く手品の種、犯人も被害者も決してその空洞の中に隠れていたのじゃない。あの夜、廊下の見張り番を勤めていた君は、探偵という保護色によって、誰に疑われることもなく、妙子さんの寝室に忍び込み、そこにいた川手氏を縛り上げ、妙子さんを絞め殺して、その死体をすぐ表庭に運んで、塵芥箱の底へ隠して置いたのだ。
 それから夜が明けて、邸内の大捜索が始まってから、君は捜索に参加しているように見せかけて、その実は、コッソリ邸を抜け出し、眼帯の男に化けて、京子と一緒に塵芥車を()き込んで、死体運び出しの大芝居を演じたという訳だ
 態々註文して作らせた、仕掛けのあるあのベッドは、ただ見せかけの手品の種で、犯罪には全く使用されなかったという点を、僕は非常に面白く思った。気違いでなくては考えつけないような、ずば抜けた着想だ。ただ殺人を見せびらかすという、『殺人芸人』のみのよくするところだ。
 お化け大会の中では、君は黒い衣裳と黒覆面を、予めどこかへ隠して置いて、探偵と犯人との一人二役を演じて見せた。君の賢い助手は、犯人が宗像博士と知らないで、巧みな手段によって、見事に黒衣の人物を捕えたが、そうして君の素顔を一目見たばっかりに、その場で撃ち殺されてしまった。
 鏡の部屋では、扉の隙間からピストルの筒口を覗かせて置いて、人々の躊躇する間に、洋服の上に着ていた黒衣を手早く脱ぎ捨て、元の宗像博士の姿になって追手の前に立ち現われたのだ。つまり君はいつも人々の目の前にいたのだ。しかし、名探偵その人が稀代の殺人犯人だなんて誰が想像し得ただろう。君は実に驚くべき保護色に包まれて、易々と世人をあざむきおおせたのだ。
 それ程の悪智慧を犯罪捜査に使ったのだから、君が名探偵と謳われたのも無理ではない。犯罪者でなくては、犯罪者の心は分らないのだからね。盗賊上りのヴィドックが稀代の名探偵となり上ったのも、君の場合と全く同じだったといっていいのだ」
 明智は思わず犯人を讃美するかの如き口吻(こうふん)を漏らしたが、そこで何に気附いたのか、ふと言葉をとめて、鋭く宗像博士を睨みつけた。
 眼鏡と髯のなくなった宗像博士は、狂えるけだものの相好を呈していた。彼は今こそ彼等兄妹の運の尽きであることを、はっきり悟ったのだ。如何なる魔術師も、この重囲の中を逃げ出す工夫は全くなかった。ただ追いつめられた野獣の最後の一戦を試みるばかりだ。
 彼は部屋の隅に突立ったまま、腰のポケットから一挺の小型ピストルを取出して、先ず仇敵明智の胸に狙いを定めた。
「明智君、問答無用だ。俺は負けたのだ。俺の犯罪力は君の探偵力に及ばなかったのだ。しかし、このままおめおめと捉えられる俺ではないぞ。君を道連れにするのだ。俺の罪をあばいてくれた君の胸板に、この鉛玉を進上するのだ。覚悟するがいい」
 宗像博士の山本始はピストルの引金に指をかけて、じっと狙いを定めた。そして、彼の気違いめいた目が、糸のように細められたかと思うと、その指にグッと力が入った。
 人々はハッと息を呑んだ。ピストルは発射されたのだ。しかも銃口は、一直線に明智の心臓部を指していた。この近距離で玉のそれる気遣(きづか)いはない。では、明智はもろくも撃ち倒されたのか?
 だが、不思議なことに、明智は何の異状もなく、元の場所に突立ったまま、ニコニコと笑っていた。
「ハハハ……、そのピストルからは、鉛の玉は飛び出さないようだね。どうしたんだね。サア、もう一度やって見給え」
 山本始は、それを聞くと、あせってまた狙いを定め、引金を引いた。しかし、今度も弾丸(たま)は飛び出さないのだ。
「ハハハ……、よし給え、いくらやったって、引金の音がするばかりだ。君は今夜はひどく興奮していたので、僕の小手先の早業に気づかなかったのだよ。そのピストルの弾丸は、さい前僕がすっかり抜いて置いたのだ。見給え、これだ」
 明智はそう云って、ポケットから取出した幾つかのピストルの弾丸を手の平の上で、コロコロと転がして見せた。兇悪な犯人を捉える際には、常に用いる彼の常套手段である。
「兄さん、いよいよ最期です。早く、あれを、あれを……」
 突如として(つんざ)くような金切声が響き渡ったかと思うと、黒衣の京子が、二青年の手を振り払い、後手に縛られたまま、髪振り乱して、兄の側へ駈け寄った。
 兄はその華奢な妹の身体を抱きしめて、
「よしッ、それじゃ今から、お父さんお母さんのお側へ行こう。そして俺達が復讐の為にどんなに骨折ったかを御報告しよう。サア、京子、今が最期だよ」
 その言葉が終るか終らぬに、妹の色を失った唇から「ウーム」という細い鋭いうめき声が漏れて、彼女はクナクナと床の上にくずおれてしまった。
 兄はうめき声さえ立てなかった。ただ青ざめた顔に、見る見る玉の汗を浮べて、苦痛を(こら)える様子であったが、遂にその力も尽きたのか、彼の大きな身体は、妹をかばうように、折重なってその上に倒れ、兄も妹もそのまま動かなくなってしまった。
 人々は何が何やら訳が分らず、あっけにとられて、ただこの有様を眺めるばかりであった。
 やがて、明智小五郎が、何に気附いたのか、二人の死体の側に身をかがめ、その唇を開いて、口中を調べていたが、しきりと肯きながら立上ると、低い声で呟いた。
「アア、何という用心深い悪魔だ。二人とも奥歯に金の義歯を()めていたのですよ。その義歯の中が(うつ)ろになっていて、強い毒薬が仕込んであったのでしょう。いざという場合には、たとえ手足を縛られていても、その義歯の仕掛けを噛み破って、中の粉薬を飲み込みさえすればよかったのです。
 皆さん、悪魔の狡智は、考え得るあらゆる場合を計算に入れていました。そして、今その最悪の場合に際会(さいかい)したのです。
 それにしても、何という執念だったでしょう。この兄妹の心理は常識では全く判断が出来ません。恐らく幼時の類例のない印象が、二人の魂に固着したのです。残虐な殺人現場で、両親の流した血の海を這い廻った、あの記憶が彼等を悪魔にしたのです。
 仇敵の子孫を根絶やしにする為に、生涯を捧げるなどという心理は、寧ろ精神病理学の領分に属するもので、我々には全く理解し難い所です。
 この二人は気違いでした。しかし、復讐という固着観念の遂行の為には、天才のように聡明な気違いでした」
 いつもにこやかな名探偵の顔から、微笑の影が全く消え失せていた。そして、その青白い額に、これまで誰も見たことのないような、悲痛な皺が刻まれていたのである。

    听着小五郎这意外的话,在座的人都立即紧张起来,刑警部长、侦查股长和中村警部都不由得从椅子上抬起身子,露着一副逼问小五郎的神色喊喊喳喳地说着什么。
 
    宗像博士那充血的双眼开始异常地炯炯发光。
 
    “逮住犯人了?喂喂,别开玩笑了!究竟是何时何地逮住的?”
 
    “犯人总是在那里。”小五郎泰然自若地回答说,“跟妖魔鬼怪大会中、川手藏身到山梨县山里的途中和北园龙子一命呜呼的一刹那犯人都经常在那里一样,现在犯人也在这里。犯人被包裹在一层完全不被察觉的保护色中隐藏在我们眼前。”
 
    一听这话,刑警部长立即露着一副再也不能置之不理的表情,尖锐地质问说:
 
    “小五郎君,你在说什么!这里除了我们五个人以外不是再也没有人了吗?!难道犯人就在我们中间不成?”
 
    “是的,犯人就在我们中间。”
 
    “啊?!那到底是谁?”
 
    “是在这案子中发生各种不可能的事的时候总是在现场的人物。除了被害者川手以外,符合这种条件的人物只有一人……他就是宗像隆一郎。”
 
    小五郎并没有加强语气,他一面慢吞吞地笑着,一面镇静地指着宗像博士的脸。
 
    “哇哈哈哈哈哈,这太可笑了!这家伙真是一篇杰作啊!小五郎君,你侦探小说读得太多啦,太习惯于小说家的幻想了!这结论好像是侦探小说中常有的呀。哇哈哈哈哈哈,真是篇杰作,这家伙叫人太愉快了。哇哈哈哈哈哈。”
 
    宗像博士几乎要捧腹似地笑着,但大概太悲伤了吧,这笑声的最后逐渐变成了微弱的音调,以至使人怀疑:莫非是在哭泣?
 
 
 
 
    “宗像君,小五郎君好像不是在开玩笑,听着小五郎君刚才的推理,我们也不由得考虑:你可能就是那个魔术师本人,在这情况下,您有必要作一番辩解。”
 
    刑警部长凝视着宗像博士,以严肃的警官口吻对他说道。
 
    “是要我辩解吗?哈哈哈哈哈,是要我认真反驳这梦话吗?我可不擅长于这种孩子气的事儿,但要是硬要我说的话,那我就说吧…我要确凿证据。小五郎君,请给我看确凿证据。你既然这样侮辱我,那决不会没有证据吧。给我看证据!快给我看!”
 
    “是证据吗?行,现在就给你看吧。”小五郎从西装背心口袋里掏出怀表,一面看着一面说道,“只顾着说话,已经过去一个半小时了。宗像君,你离开这屋子去打电话以来,已经一个半小时过去了。哈哈哈哈哈,在这一个半小时的时间里也许发生了各种各样的事。……啊,男服务员来了,手里拿着纸片。大概是来我这儿的吧,也许证据乘车赶来暧!”
 
    小五郎一面开玩笑似地说着一面从那身穿白衣服的男服务员手中接过小纸片,读起了写在上面的铅笔字。
 
    “既然如此。证据来得正是时候。那就马上给我领到这儿来!”
 
    男服务员离去不一会儿,在难以理解小五郎说的意思,诧异地凝视着门口的人们的视线中,首先出现的是小五郎的助手小林。身穿立领铜扣子衣服,像苹果一样可爱的脸蛋上忽闪一对伶俐的眼睛,在向人们行了一礼以后便走近小五郎身旁嚼咕了两三句,一见小五郎点头,立即朝门口喊了一声:“进来!”
 
    于是响起了一阵乱哄哄的脚步声,一个被反绑着手的身材矮小的黝黑的人被两名身强力壮的青年从两面架着踉踉跄跄走进了屋里。
 
 
 
 
    一看这情景,宗像博士立即大吃一惊似地站起身来,瞪着眼睛朝四下张望着,不知道想到了什么,他突然朝面向前面马路的窗户方向跑了过去。
 
    “宗像君,你打开那窗户瞧瞧下面!中村君部下的十几名便衣刑警怕你现在从这里跳下去,正严阵以待呢。”
 
    侦查科长和刑警部长都不知道,原来中村警部受小五郎委托,事前让部下的人埋伏在这西餐馆的周围。
 
    博士一听这话立即迅速地朝窗下看了一眼,弄清了小五郎的话不是假话,然后尴尬似地,但仍装腔作势、若无其事地回到了原来的席位上。
 
    “诸位,我向大家介绍一下,这黑蒙面人名义上是宗像君的夫人,但实际上是宗像君的亲妹妹。宗像君的本名我想大家已经想象到了吧,叫山本始,这妹妹叫山本京子。冒充的山本始和山本京子已经被杀害了,真的还是这样健在。我立了刚才所说的假设以后,为弄清情况我搜查了一下宗像君的家,并且知道宗像君的夫人非常不爱见人,一次也没有在事务所的助手们面前露过面,我就更加得到了把握,相信我的假设没有错。从那以后一直派人看守着这位夫人。宗像君在我刚才说了我藏着呼这话以后,立即去电话室给什么地方打了电话,那是叫出这个妹妹京子,吩咐她越没有干扰尽快地完成搞失败了的复仇计划,就是说命令她,在我不在家期间立即溜进我家里杀死川手。宗像君,我的推理错了吗?哈哈哈哈哈,连你的内心深处我可都看透了!但是,我一直等候着这女人溜进我家里,为此我故意泄漏说呼躺在我家里。当宗像看听了这话脸色苍白地去电话室时,说实在的,我心里都暗暗叫好呢!那就给你们看一看山本京子的真面目吧!”
 
    小五郎边说边帼帼地走到穿黑衣服的人面前,猛地撕下了蒙面的黑布。于是从那下面露出了一张吊眼相的四十岁女人的瘦脸,由于极度的冲动,脸色如纸一般苍白。
 
    “那么小林君,你可以给大家汇报一下这女人在我家想干什么。”
 
    经小五郎这么一说,小林便向前走了一步,以清晰的口吻极其简略地讲了一下事情的经过:
 
    “按先生的命令,我们三人埋伏在川手手住宿的寝室里。天花板的电灯关着,只留着一盏台灯。在这光线里}!!手一无所知地睡着觉,我们完全躲在隐蔽处,一动不动地等候着。于是,就在三十分钟以前,面向院子的玻璃窗户(那是故意摘下了窗钩)悄然无声地打开了,从那里溜进了这个黑蒙面人。屏息观察,只见这人像是确认什么似地凝视了一会儿躺在床上的川手的脸,随后不知从什么地方取出西洋短剑握在右手,瞄准他的胸,作好了架势准备猛刺过去。我们三个看到这情景立即从隐蔽处像子弹一样跑了出去,并且从三面扑向这个人,不费吹灰之力把她按住了。川手被声音惊醒了,但一点儿也没有受伤。”
 
    等小林结束汇报,小五郎点明要害似地补充道:
 
    “宗像君,这下你也总该明白我的证据是个什么东西了吧。我完全猜对了,你的这个妹妹幸好逮住了,但我掌握的证据,还不只是这一个,也许你没有察觉,被北园龙子雇佣的叫阿里的老太还清楚地记着化装成龙子的情人的你那张脸呢!小林君,那老太也带来了吧?”
 
    “是的,让她在走廊上等着呢。”
 
    “那就叫到这儿来!”
 
    不一会儿,阿里婆在小林带领下提心吊胆地走了进来。
 
    “阿里婆,你见过这人吗?”
 
    老太婆凝视着小五郎指的宗像博士的脸,但好像丝毫没有记忆,她摇了摇头恭恭敬敬地说道:
 
    “不,我一点也不知道……”
 
    “啊,对了,你知道的不是这张脸。宗像君,为了这老太,麻烦你把那假胡子和眼镜摘下来一下。不,装糊涂也没有用,我什么都知道。据说你跟川手一起去山梨县山中的路上,为了化装摘下那三角胡子给川手看过,不是吗?大概你心想反正是要杀的川手,所以不由得麻痹大意了吧。但这川手活了过来,从这点来看那可是你的失策呀,因为除了川手以外没有一个人知道你这精巧的假胡子的秘密了嘛。哈哈哈哈哈,宗像君,事到如今再迟疑不决,这可是一种怯懦牌!要不要我来替你揭下那假胡子呢?”
 
    小五郎边说边迅速走到宗像博士面前,冷不防伸出胳膊打掉了眼镜,揪掉了嘴唇上面的胡子和下巴上的胡须,于是从那下面露出了一副与过去道貌浑然的博士毫无相象之处的扁平的凶相。
 
 
 
 
    “噢,这一位我知道,是常到已经去世的夫人那儿来的先生。名字我不知道,但他经常同夫人两个人去什么地方。”
 
    阿里婆起劲地说道。
 
    “就是说,你上次说的北园龙子的情夫就是这个男人ffp?”
 
    中村警部从旁一间,老太立即一面把手贴在嘴上作着掩饰羞笑似的动作,一面答道:
 
    “是的,我猜想就是那种关系。”
 
    “宗像君,你还有勇气辩解吗?如果这两名证人还不够的话,我另有证人呢。比如说看守山梨县那幢独所房子的老夫妇。我们也知道那老太婆是你们兄妹过去的奶妈。那老夫妇我的部下正在侦查,弄清下落把他们交给法院的日子也不会太远了。另外还有你在地下室给川手看戏时的那帮演员,我们也在侦查这些人。你好像很是放心,以为没有一个证人了,但川手活过来了,所以这种证人就有的是了。宗像君,即使魔术师你也无路可逃了,别做丢脸的事!作为犯罪者的才能和狡猾的智慧真叫我惊叹,在我过去处理的犯罪者中可以说从未有过像你这样的天才。为了复仇事业,先乔装成民间侦探在种种案件中立功给人看的远大计划也好,巧妙地利用怪指纹,把被害者反当作是犯人的主意也好,不,不仅如此,你把犯人的恐吓信放进垃圾箱里或被害者本人的口袋里,自己却露出惊异的神色;将怪指纹的胶版按在各种器物甚至是人的脸上,明明是自己按的指纹却装出一副觉得奇怪的样子,即使被识破真相,你却狗急跳墙,亲身杀死了两名助手,企图转嫁嫌疑,对你这种机敏和胆大包天的行动连我都不得不惊叹啊!你杀死的五个人中,手段最为复杂的要数妙子。读那记录的时候,你那惊人的虚荣心令我目瞪口呆。只因为想实现事先预告的杀人计划,你想出了非常麻烦的诡计。明明可以不必那样费心,只要出其不意地袭击的话就能轻而易举地达到目的,可你偏偏故意避开这个简便的方法,挑选了近乎不可能的困难的方法。你为此煞费苦心地将一张弹簧垫下有空洞的待别的床事先抬进了妙子的卧室。但那是瞒人眼目的戏法而已,犯人和被害者都绝没有躲在那空洞里。当晚在走廊上担任看守的你利用侦探这一保护色不被任何人怀疑地溜进了妙子的卧室,绑住了在那里的川手,又杀死了妙子,然后将尸首立即抬到院子里,藏在垃圾箱底上。天亮后,宅即内的大搜查开始以后你就装做是在参加搜查,但实际上你却偷偷地溜出了公馆,改装成戴眼罩的男人,与京子一起拉来了垃圾车,演出了一幕运出尸首的大戏。特意定做的有机关的那张床只是配搭儿的戏法,完全没有被使用来犯罪,这一点我觉得非常有意思。这种超人的主意,要不是疯子是绝对考虑不出来的,只有向别人显示杀人的这种‘杀人艺人’才常常这样做。在妖魔鬼怪大会中,你事先将黑衣裳和黑蒙面藏在什么地方,一人扮演了侦探和犯人两个角色。你的聪明的助手不知道犯人是宗像博士,通过巧妙的手段出色地逮住了穿黑衣的怪物,但只因为看到了一下你的真面貌就被当场拧死了。在镜子房里,你从门缝里露出手抢枪口,在人们迟疑不决期间,你迅速脱掉穿在西服外面的黑衣;变成原来的宗像博士出现在追捕者的面前、就是说;你总是在人家的眼前。但谁能想象名侦探本人是个当代罕有的杀人犯呢!你蒙在非常惊人的保护色里,轻易地瞒过了世人的眼睛。因为你把这种坏主意都用到了侦查犯罪上,所以你怪不得被人称为名侦探,不是犯罪者是不知道犯罪者心理的嘛。盗贼出身的件多克成为当代罕有的名侦探也可以说与你情况完全相同。”
 
    小五郎情不自禁地露出了像是赞美犯人的口气,但说到这里大概是察觉到了什么,他突然停顿卜来狠狠地瞪了宗像博士一眼。
 
 
 
 
    没有了眼镜和胡子的宗像博士露着一副疯狂的野兽般的相貌。他此刻才清楚地认识到他们兄妹的运数快尽了,任何魔术师都完全无法逃出这重围,只有尝试被追逼得走投无路的野兽的最后一战了。
 
    他叉腿站在屋子角落里,从腰间口袋里掏出一支手枪,首先瞄准了仇敌小五郎的胸膛。
 
    “小五郎君,无须多言了!我输了,我的犯罪能力比不上你的侦探能力,但我怎能就这样乖乖地就擒呢?!我要带着你一同去,想向揭露我的罪行的你献上这颗铅弹。你等着好了!”
 
    宗像博士即山本始将手指扣到手枪扳机上,一动不动地走好了目标。他那疯狂的眼睛刚眯缝起来,力气一下子使到了那手指上。
 
    人们倒抽了一口冷气。山本始开了枪,而且枪口一直线地指着小五郎的心脏部位。这么近的距离子弹是不会偏离的。那么小五郎会被一下子击倒了吗?
 
    可是,不可思议的是,小五郎没有任何异常,他叉腿站在原来的地方微笑着。
 
    “哈哈哈哈哈,从这手枪里好像是飞不出子弹吧。是怎么搞的?快,再干一次!”
 
    山本始一听这话急忙又定了目标,扣了一下扳机,但这回子弹也没有飞出去。
 
    “哈哈哈哈哈,别干了!怎么打也只是发出扳机的声音。你今晚太兴奋了,所以没有察觉我的神速妙技。那手枪子弹我刚才全部卸下来了。你看,是这个。”
 
    小五郎说着在手掌上骨碌碌地滚着从口袋里掏出来的几颗手枪子弹。这是他逮捕凶恶的犯人时常用的惯用手段。
 
    “哥哥,就要完了,快把那个、把那个……”
 
    突如其来响起撕裂布匹般的尖叫声后,就见穿黑衣服的京子甩开两个青年的手,依然被反绑着双手,披头散发地跑到哥哥身边。
 
    哥哥紧紧搂住他那身体娇嫩的妹妹,说道:
 
    “好!那咱们现在就到爸爸妈妈的身旁去,向他们汇报我们为复仇花费了多少心血吧!来,京子,咱们这就了却一生吧!”
 
    这话音刚落,从妹妹那失去血色的嘴唇里发出一声微弱的但却很尖锐的呻吟声,她软绵绵地倒在了地板上。
 
    哥哥却没有发出呻吟声,只是那苍白的脸上眼见着冒出豆大的汗珠,像是在忍受痛苦的样子,但抑或终于连这力气都用尽了,他那魁梧的身体像是保护他妹妹似地叠着倒在了她的身体上面,兄妹俩就那样再也不动了。
 
    人们摸不着头脑,只是目瞪口呆凝视着这副情景。
 
    不久,小五郎也许觉察到了什么,他在两人的尸首旁边弯下身子,掰开他们的嘴唇检查着口腔,过了一会儿,他一个劲地点着头站了起来,随即低声说道:
 
    “啊,这恶魔多么小心谨慎呀!两人都镶着金牙,那假牙里面是空的,大概装着毒药吧。在紧急的时候即使被绑着手脚只要咬破那假牙吞下里面的毒药就行了。诸位,恶魔的狡猾智慧把能考虑到的所有情况都计算在内了。现在是遭遇到他们最坏的情况。话虽如此,他们也太执拗啦!这兄妹的心理凭常识是完全无法判断的,恐怕是小时候那没有先例的印象附在两人的灵魂上,是在残酷的杀人现场来回爬在父母亲流的血海中的记忆把他们变成恶魔的。为杀绝仇敌的子孙而献出一生的这种心理毋宁是属于精神病理学的范畴,我们完全难以理解。这两人是疯子,但为了完成复仇这一固定观念,他们是一对天才一般聪明的疯子。”
 
    平素总是笑吟吟的神探的脸上完全消失了微笑的影子,他那苍白的额头上刻着过去谁都没有看到过的悲痛的皱纹。
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