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怪指纹:一千个宗像博士

时间: 2021-08-15    进入日语论坛
核心提示:千人の宗像博士 何だか魔法にかけられたような、それとも気でも狂ったのじゃないかと怪しまれるような、一種異様の心持であった
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千人の宗像博士


 何だか魔法にかけられたような、それとも気でも狂ったのじゃないかと怪しまれるような、一種異様の心持であった。場所が化物屋敷の中だけに、そして、今の今まで、文字通りの闇の中を歩いて来ただけに、博士はついこの見世物の考案者を買被(かいかぶ)ったのであった。
 少し落ちついて、よくよく見れば、博士の正面にあるものは、大きな鏡の壁に過ぎないことが分って来た。
「ナアンだ。鏡だったのか。しかし、それにしても、この見世物は普通の化物屋敷なんかと違って、なかなか味をやりおるわい」
 だが、ナアンだ鏡かと、軽蔑するのは少し早まり過ぎた。この妙な小部屋には、まだまだ博士をびっくりさせるような仕掛けが、しつらえてあったのだから。
 ヒョイと右を向くと、そこにも博士自身がいた。左を向くとそこにも同じ自分の姿があった。後を振返れば、ドアの裏側がやっぱり鏡で、そこに実物の五倍ほどもある大入道(おおにゅうどう)のような博士の、あっけに取られた顔が覗いていた。
 イヤイヤ、こう書いたのでは本当でない。鏡は四方にあったばかりではないのだ。天井も一面の鏡であった。床も一面の鏡であった。そして、博士を取りまく壁は不規則な六角形になっていて、それが枠もなにもない鏡ばかりなのだ。つまり六角筒の内面が、少しの隙間もなくすっかり鏡で張りつめられ、その上下の隅々に電燈が取りつけてあるという、いとも不思議な魔法の部屋なのである。
 しかも、それらの鏡は、必ずしも平面鏡ばかりではなかった。ある部分は先にも記したように、実物を五倍に見せる円形の凹面鏡になっていた。またある部分は、鏡の面が複雑な波形をしていて、人の姿を一丈に引き伸ばしたり、二尺に縮めたりして見せた。そして、それらの雑多の影が六角の各々(おのおの)の面に互に反射し合って、一人の姿が六人になり、十二人になり、二十四人になり、四十八人になり、じっと鏡の奥を覗くと、(はる)かの遙かの薄暗くなった彼方(かなた)まで、恐らくは何百という影を重ねて映っているのだ。それを六倍すれば何千人、更にその上に、天井と床とが、また各々に反射し合い、方々の壁に影を投げるのである。
 博士はそういう鏡の部屋というものを、想像したことはあった。しかし、これ程よく出来た鏡の箱に、ただ一人とじこめられたのは、全く初めての経験なのだ。世間を知りつくし、物に動ぜぬ法医学者も、このすさまじい光景には、理窟ぬきに、赤ん坊のような驚異を感じないではいられなかった。
 博士が笑えば、千の顔が同時に笑うのだ。しかも、それらの中には、五倍の大入道の顔、胡瓜(きゅうり)のような長っ細い顔、南瓜(かぼちゃ)のように平べったい顔なども、幾十となく(まじ)っている。手を上げれば、同時に千人の手が上がり、歩けば同時に千人の足が動くのだ。
 天井を見上げると、そこには逆立ちをした博士が、じっとこちらを睨みつけている。床を覗けば、そこにも足を上にしてぶら下っている博士が、下の方から見上げている。そして、それら二様の逆の姿が、無限の空にまで、奥底知れぬ六角の井戸の底まで、数限りもなく重なり合って、末は見通しも利かぬ闇となって消えているのだ。つまり、前後左右は勿論、上も下も無限の彼方に続いていて、まるで大空に投げ出されでもしたような、大地が消えてなくなったような、云うに云われぬ不安定の感じであった。
 どちらを見ても、行き止りというものがなく、自分自身の姿が無限に続いているのである。この恐ろしい場所を逃れるためには、それらの何千という人々を、掻き分け押し分け、無限に走る(ほか)はないという、奇怪千万な錯覚が起るのだ。
 博士はふと、こんな見世物を興行させて置くのは人道問題だと思った。博士のような思慮分別のある中年者でさえ、たまらない程の不安を感じるのだから、若し女子供がこの鏡部屋にとじこめられたなら、恐怖のために泣き出すに違いない。イヤ、泣き出すばかりでなく、中には気が違ってしまう者もあるかも知れない。
 博士は嘗て何かの本で、人間を鏡の部屋にとじこめて発狂させた話を読んだことがあった。そして、それと関聯して、寄席の芸人が物真似(ものまね)をする、蝦蟇(がま)膏売(あぶらう)りの、滑稽なようでいて、どことなく物凄い妙な口上が、耳元に浮かんで来た。無神経な蝦蟇でさえ、鏡に取りかこまれた恐怖には、全身からタラーリタラーリと膏汗(あぶらあせ)を流すではないか。
 流石の宗像博士もこの恐怖の部屋には、そのまま佇んでいる気はしなかった。大急ぎで六角の鏡の面に触りながら、どこかに出口はないかと歩き廻った。すると、千人の同じ博士がグルグルと、大グラウンドでのマスゲームのように、卍巴(まんじともえ)となって歩き廻るのだ。
 何という残酷な仕掛けだろう。入口のドアは閉まったまま開かないし、出口も見つからぬ。見物が気の違うまで閉じこめて置こうとでもいうのだろうか。
 さい前ドアが素早く閉まったのには理由があったのだ。あのドアには、一人だけ中に入ると、あとから見物が入らぬよう、ある時間、押しても引いても開かなくなってしまう仕掛けがしてあるのだ。そして、一人ぼっちでこの魔の部屋の恐怖を味わせようという訳なのだ。
「小池君、こいつは気味が悪いよ。鏡の部屋なんだ。それに出口がどこにあるんだか分らない。そのドアをもう一度押してごらん」
 博士は外の闇の中にいる小池助手に、大声に呼びかけた。
「どうしても開かないんです。さっきから押しつづけているんですけれど」
「小池君、君ここへ入っても驚いちゃいけないよ。僕は何も知らずに飛び込んだものだから、ひどく面喰ってしまった。どこもかも鏡ばかりなんだ。この部屋には僕と同じ奴が千人以上もウヨウヨしているんだぜ。そして、僕と同じように、今物を云っているんだ。ハハハハハハハハ、アア、僕が笑うと、奴らも口を開いて笑うんだ」
「ヘエ、気味が悪いですね。そして、出口が分らないのですか。この戸はどっか狂ったのじゃないでしょうか。入口へ戻って、人を呼んで来ましょうか」
「アッ、開いた。開いた。君、やっと鏡の壁が口を開いたよ。じゃ僕は先に出て待っているからね」
 如何にも、六角形の一つの面が、機械仕掛でクルッと廻転して、人一人通り抜けられる程の隙間が出来た。その向う側は例によって、黒暗々(こくあんあん)の闇である。
 博士はそこを出ようとして、躊躇した。若し小池助手が入って来たら、こんな不気味な部屋へ一人残して置かないで、一緒に向うへ出ようと考えたからである。
 しかし、化物屋敷の考案者は、そこに抜かりがなかった。
「僕の方は開きませんよ。どうしたんだろう」
 小池助手が入口のドアを、外からドンドンと(たた)く音がした。しかし、いっかな開きはしないのである。
 仕方がないので、博士は先に鏡の部屋を出て、外の暗闇に入ったが、すると、今まで開いていた隙間が、カタンという音を立て、自然に塞がされてしまった。そして、(ほと)んどそれと同時に、部屋の中から(かす)かな小池助手の声が聞えて来た。
「先生、どこにいらっしゃるのです。開きましたよ。ドアが開きましたよ」
「出口はここだ。しかし、自然に開くのを待つ外はないのだ。仕方がない、暫くそこに我慢していたまえ」
 博士は今出たあたりの壁をコツコツと叩いて聞かせながら、大声に呶鳴るのであった。

    这是一种好似被施了魔术又好似怀疑自己发了疯的异样心情。正因为地点是在凶宅中,而且直到刚才还在名副其实的黑暗中走路,所以博士不由得过高地估计了这杂耍的设计者。
 
    稍镇定下来仔细一看,原来在博士正面的东西不过是一块大镜子而已。
 
    “哎呀,原来是镜子。不过这杂耍不同于普通的凶宅,还是挺有意思的哩!”
 
    但他轻蔑地说“哎呀,原来是镜子”这话有点太早了,因为在这奇怪的小屋里还设置着许多使博士吃惊的机关。
 
    无意中往右一看,那里也有博士自己。往左一看,那里也有相同的自己的身影。回头一看,门的里侧也是镜子,那里露着一张秀头妖怪一般的博士那目瞪口呆的脸,足有真人的五倍那么大。
 
    不,这样写是不真实的。镜子不仅四面有,天棚也是一面镜子,地板也是一面镜子,而且博士四周的墙壁成不规则的六角形,那尽是连框都没有的镜子。就是说,这是一间很奇怪的魔屋:六角筒的内面毫无间隙地全用镜子镶着,上下的所有角落里都安装着电灯。
 
    而且这些镜子未必尽是平面镜,有的部分正如刚才所写的是把实物放大五倍的圆形凹面镜,而有的部分镜面成复杂的波浪形,能把人的身姿拉长到一丈或是缩短到两尺,而且这些五花八门的影子互相反射到六角的每个面上,一个人的影子成了六个人、十二个人、二十四个人、四十八个人,定睛瞧镜子里面,从镜面到很远很远的昏暗的那一边映着重重叠叠的估计有几百个影子。要是其六倍就是几千人,另外天棚和地板也互相反射,把影子投到每个面上。
 
 
 
 
    博士曾想像过设置这种镜子的屋子,但独自被关在做得如此巧妙的镜子箱里则还是第一次。面对这骇人的光景,连这位老于世故、遇事不慌的法医学者也不得不像孩子一样感到惊异。
 
    博士一笑,一千张脸就同时笑,而且这些险里面还混有几十张五倍于实物的完头妖怪的脸,黄瓜般细长的脸和南瓜般扁平的脸。一举手,于人的手就同时举起来;一抬足,干人的腿就同时动起来。
 
    抬头看顶棚,那里有倒立着的博士目不转睛地瞪着这边;俯身看地板,那里也有脚在上面倒挂着的博士从下面仰望着这一头。而且,这些两种相反的姿态无数个互相重叠在一起,一直到无限的空间,一直到深造莫测的六角形井底,最后变为望不清楚的黑暗而消失。就是说,前后左右自不待言,上下也都连向无限的彼岸,给人一种似乎被抛向了太空,又似乎大地业已消失一般的无法形容的不稳定感。
 
 
 
 
    不管看哪一边都没有尽头,自己的身影无穷无尽。博士产生了一种离奇古怪的错觉:为了逃离这可怕的地方,只有拨开、推开这些数以千计的人,无止境地奔跑。
 
    博士突然想:举办这种杂耍是个人道问题。就连博士这样善于思虑的中年男子都感到无法忍受的不安,所以如果女人孩子被关在这镜子房里,那一定会吓得哭出来。不,不仅哭出来,也许其中还有人精神错乱呢!
 
    宗像博士无心这样站在这恐怖的屋子里,他急忙一面摸着六角的镜面,一面来回寻找出口。于是,一干个相同的博士像在大运动场上做团体操似地互相来回追逐着。
 
    多么残酷的装置啊!入口处的门关闭着打不开,出口也找不到,难道想把游人关到他精神错乱为止吗?
 
    刚才门迅速关上是有理由的,为了在一个人进去后不让后面的游人进去,那门上装有一种在一定时间里无论怎样推拉都开不开的机关。就是说,是想让他孤零零一个人尝尝这魔屋的恐怖。
 
    “小池君,这家伙太可怕啦。是间镜子屋,而且不知道出口在哪儿。你再推一下那门。”
 
    博士向在外面黑暗中的小池助手疾呼道。
 
    “刚才我一直在推,可怎么也开不开。”
 
    “小池君,即使你送来也不要吃惊呀。我是什么都不知道闯进来的,所以慌了神儿。哪儿都是镜子,在这屋子里,跟我一样的家伙挤满了一千多个,而且现在都跟我一样在说话。哈哈哈哈哈哈,啊,我一笑,他们也张着嘴笑。”
 
    “哎呀,可怕吧?是不知道出口吗?会不会这门什么地方出故障了呢?我回入口处去叫人来吧。”
 
    “啊!开了,开了,好容易镜子墙壁开了个口。那我先出去等你吧。”
 
    果然六角形的一个面转了一下,出现了能通过一个人的缝隙。它的对面照例是漆黑黑的黑暗。
 
    博士刚想到这儿时犹豫不决了。他想如果小地助手进来,就不让他一个人留在这种可怕的屋子里,跟他一块儿出去。
 
    可是,凶宅的设计者这里也万无一失。
 
    “我这儿开不开呀,怎么回事呢?”
 
    响起了小池助手从外面哈哈地敲入口处的门的声音,但怎么也开不开。
 
    出于无奈博士先出了镜子房,走进了外面的黑暗。于是刚才开着的缝隙昨啃一声自动闭上了,而且几乎与此同时,从屋子中隐约传来了小池助手的声音:
 
    “先生,您在哪里呀?开了,门开了呀!”
 
    “出口处在这儿,只有等待它自动开开。没有办法,你在那里忍耐一会吧!”
 
    博士一面略步地敲着刚才出来那地方的墙壁给他听,一面大声嚷道。
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