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怪指纹:怪指纹

时间: 2021-08-15    进入日语论坛
核心提示:女怪(じょかい)「先生、外へ廻って下さい。大屋根の上へ逃げました。屋根を伝って、下へ降りる積りかも知れません」 押入れの外
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女怪(じょかい)


「先生、外へ廻って下さい。大屋根の上へ逃げました。屋根を伝って、下へ降りる積りかも知れません」
 押入れの外に待っていた宗像博士の耳に、屋根裏の闇の中から、林助手の声が聞えて来た。
 それでなくても、天井の恐ろしい物音に、もう身構えをしていた博士は、この声を聞くと、矢庭(やにわ)に身を躍らして、疾風のように階段を駈け降り、裏口から闇の道路へと飛び出し、空家の表側に廻って、相手に悟られぬよう、物蔭から、じっと屋根の上を注視した。
 怪物は二階の大屋根から、雨樋を伝わって、非常な危険を冒しながら、やっと一階の屋根まで降りたところであった。遠くの街燈のほのかな光線が、守宮(やもり)のように二階の窓の雨戸にへばりついた黒い背広に黒いソフト帽の人物を、朦朧と映し出している。
 その者は、雨戸にへばりついた姿勢のまま、ソッと首を伸ばして、下の道路を眺め、耳をすまして様子を(うかが)っている。
 博士は一層注意して、物蔭に身を隠し、僅かに一方の目だけで、屋根の上を見つめていた。
 もう十一時に近い時刻、淋しい屋敷町には、全く人通りも途絶えている。遠くを走る電車の響きの外は、何の物音も聞えない。その死に絶えたような静寂の中で、黒い怪物は、屋根の上を、(よつ)ん這いになって、ソロソロと(ひさし)の端の方へ乗り出して来る。不気味な無声映画でも見ているような感じであった。
 するとその時、怪物の頭の上の大屋根に、瓦の軋む音がして黒い人の姿が現われた。林助手が抜け穴から這い出して、その辺を探し廻っている姿である。
 怪物はハッとしたように、大屋根を見上げた。そして、瓦の音に追手の迫るのを察したのであろう。何か非常な決心をした様子で、いきなり庇の端に乗り出すと、パッと闇の地上へと身を躍らせた。大きな黒い塊が、博士の目の前の道路へ、スーッと墜落して、コロコロと転がったが、忽ち起き上って、非常な早さで走り出した。
 宗像博士がそのあとを追ったのは云うまでもない。追い(すが)って捉えようと思えば、捉えられぬ筈はないのだが、博士はなぜかそれをせず、あくまで相手の跡を追って、どこへ逃げるのか、その行先をつきとめようとするらしく、適当の距離を保ちながら、執拗な追跡をつづけた。
 怪物はこの辺の地理をよく知っていると見え、淋しい方へ淋しい方へと町角を曲りながら、十丁近くも走ったが、息切れがするらしく、段々速度が鈍くなった頃には、行手に何かの神社のこんもりとした森が見えて来た。そして、その森の中が逃走者の目ざす場所であった。
 破れた生垣の間から、森の下闇へ踏み込み、ジメジメとした落葉の上を、奥の社殿へと辿って、その裏側の高い床下へ隠れる姿が、辛うじて認められた。
 博士は相手に悟られぬよう、足音を忍ばせながら、社殿の裏に近づき、床下の闇の中に、幽に蠢く人影をつきとめると、突然、パッと懐中電燈を点火して、相手の顔にさしつけた。
 背をかがめて歩ける程の高い床下、柱と柱の間に身を縮めて蹲まっている怪物、その胸から上の半身像が、電燈の丸い光の中に、クッキリと浮き上った。
 黒ソフトをまぶかく冠り、大きな眼鏡で顔を隠しているけれど、その眼鏡の中から、恐怖の為めに一杯に見開かれた両眼が、追いつめられたけだもののように、こちらを見つめ、青ざめた頬、激動の為めに白っぽく色を失った唇が、半ば開いたままになって、ゾッとするような烈しい息遣いをしている。確かに女だ。しかも美しい女だ。
「ハハハハハハ、とうとう追いつめられてしまったね、北園竜子。そうだろう、君は北園竜子だね」
 博士は物柔かに云って、じっと相手の表情を注視した。
「誰です。あなたは誰です」
 竜子の顔がキューッと歪んで、今にも泣き出しそうな渋面になった。あの兇悪な殺人鬼が、どうしてこんな弱々しい表情をするのか、不思議と云えば不思議であった。だが、油断は出来ない。女というものは、ましてこれ程の悪人となれば、悲しくもないのに涙を流し、怖くもないのに恐怖の表情を作るなどは朝飯前の芸当に違いない。
「わしかね、わしは三重渦巻の指紋を持つ殺人犯人を捉えるために、永い間苦労している宗像というものだ。無論君はわしをよく知っている筈だね」
 相手は答えなかった。答える代りに一層恐怖の表情を強めて、身をすくめた。
「わしは実を云うと、君の腕前には全く感心しているのだよ。君は悪魔の智恵を持っている。そんな(しお)らしい顔をしていて、実は人殺しの天才なのだ。川手氏の妹娘の死骸を博物館の陳列箱の中へ飾ったり、姉娘の死骸をお化け大会の破れ蚊帳の中へ寝かした腕前には、流石のわしも兜を脱いだ。永年の間にはずいぶん毛色の変った犯罪事件も取扱ったが、君のような魔法使を相手にしたのは初めてだよ」
 博士がそこまで云うと、男装の竜子が突然両手を前にさし出して、博士の口を塞ぎたいとでもいう様な恰好をした。そしてまるで気でも狂ったように叫び出した。
「違います。違います。わたしはそんな恐ろしい罪を犯した覚えはありません。わたしは何も知らないのです。川手という方にも、その二人のお嬢さんにも、会ったことさえありません。これには何か深い訳があるのです。何者かが私を罪に落そうと、恐ろしい企らみをしているのです」
「ハハハハハハ、つまらんお芝居はよしたまえ。このわしをそんな手で(だま)そうとするのは、浅墓(あさはか)だよ。わしは何もかも知っているのだ。若し罪がないものなら、なぜ逃げ隠れをするのだ。それも普通の逃げ方ではない。引越しをして、空家と見せかけて、そこの天井裏に隠れているなんて、悪魔でなくては考えつけないことだよ。この一事(いちじ)からでも、君があの恐ろしい殺人者であることは、立派に証拠立てられている。現に警察の人達は、君の行方を探しあぐねて、途方に暮れているじゃないか。若しわしが君のトリックに気づかなかったら、君はまんまと世間を(あざむ)きおおせたかも知れぬ。そして、あれだけの大罪を犯しながら、永久に法網を(のが)れてしまったかも知れぬ。
 君はどうして、わしが天井裏の隠れ場所を察したか知るまいね。まぐれ当りではないのだよ。食料品屋の小僧から聞き出したのだ。そして、あの不思議な十箇の罐詰と十斤の食パンの謎を解いたのだ。引越しにそんなものの必要はない。これは君が、数日の間、世間と全く交通を断って、どこかに隠れる積りに違いないと考えた。では、どこに隠れるか。鬼熊のように人里離れた山の中に隠れるか。イヤ、君がそんな間抜けな真似をする筈がない。これまでのやり方でも分っているように、君という人は巧みに人の意表を突く手品使なのだからね。
 わしはそういう手品使の気持になって、君の計画を想像して見た。すると、どうも君の突然の引越しそのものが臭いのだ。殊更あの家を空家にして見せたところに、何かカラクリがあり(そう)な気がするのだ。わしはつい数時間前に、やっとそこへ気がついた。そこで、助手を連れて、空家の探検に出かけて来たのだが、そのわしの想像がまんまと的中した。これでわしも、君と同じくらいの智恵を持っているという自信を得た訳だよ。ハハハハハハ」
「イイエ、違います。それはあの家を引越したと見せかけて、屋根裏へ隠れたのは本当ですけれど、それにはどうにも出来ない恐ろしい訳があったのです。逃げ隠れをしたからといって、決してわたしは罪を犯した訳ではありません。人殺しなんて、全く身に覚えのないことです」
 男装の女性は、さもさもくやしげに、ハラハラと涙を流してかき口説くのだ。
「ハハハ……、そんな筋の通らない理窟では駄目だよ。罪も犯さぬのに逃げ隠れする奴があるものか。だが、そのどうにも出来ない恐ろしい訳というのは、一体どんな事だね」
 博士は半ば揶揄(やゆ)するように、嘲笑を浮べて訊ねる。
「アア、もう駄目です。どんなに弁解して見ても、あなた方が納得して下さる筈はありません。わたしは呪われているのです。あんないまわしい指を持って生れて来たのが、わたしの(ごう)だったのです」
「フフン、実にうまいもんだ。流石に君は名優だよ。そういうと、何だか、君は例の三重渦巻の指紋の持主ではあるけれど、殺人罪は犯さない。真犯人は外にあるのだとでもいうように聞えるね」
 博士は懐中電燈の丸い光を、近々と相手の顔にさしつけ、どんな細かい表情の変化も見落すまいとするかのように、つくづくとその顔を見つめるのであった。
 丸い光の中の女性は、一入悲しげな、絶望の表情になって、なおもかき口説く。
「そうなのです、犯人は決してわたしではありません。でも、その無実を云い解くすべが、全くないのです。ごらん下さい。ここにあの恐ろしい指紋の指が着いていたのです」
 彼女は云いながら、丸い光の中へソッと左手をさし出した。手首全体に繃帯(ほうたい)が巻いてあるので、切口は見えぬけれど、人差指のあるべき場所が異様にくぼんで、歯の抜けたような感じを与えている。
「わたしは、三重渦巻の指紋を持った殺人鬼の話は聞いておりましたけれど、つい十日余り前まで、(うかつ)にも、わたしの人差指の妙な指紋が、その恐ろしい三重渦状紋とやらだとは、まるで、気もつかないでいました。
 ところが、ふと新聞に出ている、犯人の指紋の拡大写真を見たのです。そして、ハッとして、自分の左手の人差指と比べて見ますと、アア、何という恐ろしい事でしょう。形は勿論、筋の数まで、一分一厘違わぬ事が分りました。その時のわたしの気持をお察し下さいませ。いきなり、地獄の底へ突き落されたとでも申しましょうか、スーッと目の前が真暗になって、気を失わぬのがやっとでございました。私は広い世界に、全く同じ指紋が二つとあるものではないと云う事を、ハッキリ知っていたのでございます」
 長々しい()り言に、博士はもどかしげに足踏みをした。
「それで、疑いを逃れるために、思い切って人差指を切り落し、隅田川へ投げ込んだというのだね。だが、おかしいじゃないか。身に覚えのないことなら、何も指など切らなくても、殺人事件のあった日には、どこそこにいましたと、アリバイという奴を申立てればいいのだからね」
 それを聞くと、丸い光の中の女性の顔が、またしてもキューッと引き歪んで、青白い頬にハラハラと涙がこぼれた。
「アア、それが出来ましたら。それが出来さえしましたら。……わたしは呪われているのです。本当に引くことも進むことも出来ない地獄の呪いにかかっているのです。
 アリバイという言葉は本で読んでよく知っております。わたしもそれに気がついて、一まず安心したのです。そして、念の為めに、古い新聞を探して、あの殺人事件の最初からの日附を確めて見ました。
 すると、どうでしょう。わたしは又息もつけない程の驚きにうたれました。アリバイが全くないことが分ったのです。どの殺人事件の日にも、わたしは家をあけて外出していました。それも一時間や二時間ではなく、半日以上、ある時は一晩中帰らない日さえありました。そして、何という恐ろしい運命でしょう。そのわたしの外出していた日に限って、必ずあの殺人事件が起っているではありませんか。イイエ、外出と申しましても、よそのお家を訪ねたわけではありません。ただ何となく歩き廻ったのです。郊外だとか、時には鎌倉(かまくら)()(しま)など……」
「ハハハ……、益々辻褄(つじつま)が合わなくなって来た。そんな永い時間、一人で歩き廻る奴もないものだ」
「イイエ、一人ではありません。あの、お友達と……」
「エ、お友達? それじゃちゃんとアリバイがあるじゃないか。その友達を証人にすればいい筈じゃないか」
「でも、それが、……」
「それが?」
「それが、普通のお友達ではなかったのです」
「ウン、分った。君の家の婆やが云っていたが、君には男の友達があったそうだね。だが、そんな事を恥しがって、殺人の嫌疑を甘んじて受ける奴もないものだ。その男の友達に証言させればいいじゃないか」
「でも……」
「でも、どうしたんだね」
 竜子はもう口が利けなくなった様子で、ワナワナと唇を震わせながら、烈しく泣きじゃくり始めた。泣き声を噛み殺そうとするのだが、そうすればする程、胸の奥から嗚咽(おえつ)がこみ上げ、涙はとめどもなく流れ落ちる。これをお芝居とすれば、実に驚くべき名優である。
 宗像博士も流石に(あわ)れみを催したらしく、無言のまま、相手の激情の静まるのを待っていた。すると、ややあって、彼女は(ようや)く泣きじゃくりをやめ、さも悲しげな細い声で、幽に呟くのであった。
「その人には、もう二度と逢うことが出来ないのです」
「どうしてだね」
「こんなことを申し上げても、あなたは信じて下さらないでしょうが、わたしはそれ程親しくしていた、その人の職業も住所さえも知らないのです。
 名前は須藤(すどう)と申していましたが、それさえ本当の名かどうか分りません。その人は、所も名も明かさないで、こうして夢のようにつき合っている方が、童話の国の交わりみたいで、面白いではないかと申すのです。
 三月程前、ふと汽車の中で御一緒になったのが、最初でしたが、その人は、大変身分のある人のように感じられました。きっと奥さんも、お子さんもおありなのでしょう。でも、その人の何とも知れぬ不思議な、夢のようなお話に、いつとはなく引きつけられて、お恥しいことですけれど、わたしは小娘のように夢中になってしまったのです。
 丁度四日程以前、この指を切る前の晩のことでした。わたしは、その人と約束した時間に、このお(やしろ)の森の中へ来たのです。エエ、ここなのです。その人と(そと)で出逢う時はいつもこの森の中だったのです。そして、この間からの、わたしの恐ろしい境遇を、よく相談しようと思ったのです。
 ところが、その晩は、どうしたことか、その人の姿が見えません。丁度ここです。このお社の床下に、わたしはあの人を待って待って、明け方まで待ち暮らしました。まさかとお思いでしょうね。でも、わたしは何かに魅入られていたのです。本当に夢のように、一夜をここで過したのです。
 そして、夜の白々あけに、ふと見ますと、そうです、丁度この柱でした。この柱に小さな紙切れが貼りつけてあるのに気がつきました。その紙切れに、何と書いてあったとお思いです。
 縁切り状でしたの。もうこれっきり、あなたと逢うことはないでしょう。楽しかった夢を忘れませんと、そう書いてあったのです」
 語り終って、男装の竜子は、又込み上げる悲しさに、今は恥も外聞も忘れたように、声を立てて泣き伏すのであった。
 思わぬ長話に、さい前から三十分余りも時がたっていた。人なき深夜の社殿の床下で、男装の女と、モーニング姿の私立探偵とが、光と云えば懐中電燈ただ一つをたよりに、ヒソヒソと語り合う。その二人が恋人でもあることか、一人は稀代の殺人魔、一人はそれを追いつめた名探偵。何という不思議な取合せ、常規(じょうき)を逸した光景であったろう。
 宗像博士は泣き伏す女怪を、あきれ果てた面持で眺めていたが、やがて感に堪えたように、しきりと肯きながら、
「うまい。実にうまいもんだ。君は名優なばかりでなくて、すばらしい小説家だ。よくもそこまで考えたもんだねえ。すっかり辻褄が合っている。
 だがね、それは君が(つく)り出したお話に過ぎないと云われても、何の反証も上げられないじゃないか。男の友達があったということは、証人もある事だから、本当に違いない。しかし、それは、君を捨てた夢のような恋人ではなくて、君の人殺しの相棒だったと考える事も出来るのだからね。
 この殺人事件には、君とそっくりの男装の女が、度々顔を出しているのだが、その女にはいつでも左の目に眼帯を当てた大男がついている。君の今云った男の友達にそのままあてはまるじゃないか。
 エ、どうだね。そう考えた方が、少くとも実際的ではないかね。君の今の話は、なかなかロマンチックで面白いことは面白いが、まさか、そんな夢のような話を信じる裁判官はあるまいぜ。
 君は既に指を切っている。その指を御丁寧に錫の函に入れて、態々隅田川に投げ捨てている。そして、引越しをしたと見せかけて、空家の屋根裏に身を潜め、発見されたと知ると、いつの間にか屋根を打ち抜いて、女の身には想像もできない危い芸当を演じて逃走している。犯人でもないものが、こんな馬鹿な真似ができると思うかね。誰に聞かせたって、君が犯人だという事を疑うものは、一人だってある筈がないよ」
 女は顔を上げなかった。泣き伏したままの姿勢で、絶望的に呟くばかりであった。
「アア、もう駄目です。……わたしは呪われているのです。……あなたはきっと、そうおっしゃるだろうと思いました」
「気の毒だが、君のお芝居は無駄骨折りばかりだったよ。サア、それではわしと一緒に出かけようか」
 宗像博士がそう云って、懐中電燈を持ち変えた時であった。泣き伏していた女が、突然、物に驚いたように、ヒョイと顔を上げた。
「アラ、あなたは誰ですの?」
 博士はこの突飛な言葉を聞くと、相手が気でも狂ったのかと怪しんだのであろう、ギョッとしたように、身動きをやめて、鋭く答えた。
「何を云っているのだ。わしは宗像だよ。私立探偵の宗像だよ」
「本当ですの? でも、何だか……、ねえ、すみませんが、その懐中電燈で、あなたの顔を照らして見て下さいませんか」
 真実気が違ったのかも知れない。男装の女は、何か異常な熱心さで、床下から這い出して、博士の前に立ちはだかった。
「ハハハ……、妙な註文だね。よろしい。サア、よく見るがいい。君を捉えた男がどんな顔をしているか、よく見覚えて置くがいい」
 博士は電燈の丸い光を、我れと我が顔にさし向けて、朗かに笑って見せた。
 女は闇の中から、大きな眼鏡を光らせて、異様に執念深く博士を見つめた。いつまでも、いつまでも、獲物を狙う牝豹(めひょう)のような感じで、名探偵を凝視しつづけた。真暗な中から、ひどく弾んだ息遣いが、ハッハッと薄気味悪く聞えた。
 二人とも身動きもしないで、永い間立ちつくしていた。それは実に不思議な、息づまるような光景であった。両人の身辺から、何とも名状の出来ない殺気のようなものが立ち昇るのが感じられた。

    “先生,请您绕到外面去!这家伙逃到大屋顶上去了。也许打算顺着屋顶下来。”
 
    林助手的声音从顶棚上的黑暗里传到了等候在壁橱外面的宗像博士的耳朵里。
 
    即便不是这样,博士也由于顶棚上可怕的声音而作好了架势,一听这声音立即跃起身子,如疾风一般走下楼梯,从后门跑到了漆黑的马路上,又绕到空房子前面,从隐蔽处定睛注视着屋顶上。
 
    怪物刚从二楼的大屋顶上顺着雨水管,冒着很大的危险好不容易下到一楼屋顶。远处路灯的微弱光线隐隐约约地照出了像壁虎一样紧贴在二楼木板套窗上身穿黑色西装头戴礼帽的人。
 
    那人身子紧紧贴着木板套窗,伸着脖子望着下面的马路,侧耳静听着周围的声音。
 
    博士更注意地把身子藏在隐蔽处,仅用一只眼睛凝视着屋顶上。
 
    已经将近十一点了,冷冷清清的住宅街上已经完全没有行人了。除了远处奔驰着的电车声以外,听不到任何声音。在这死一般的寂静中,黑妖怪趴在屋顶上慢慢地向房檐边上探出身子,像是在看无声电影似的。
 
    就在这时,怪物头顶上的大屋顶上响起了瓦片吱嘎吱嘎的声音,出现了人的黑影。原来是林助手从洞口爬了出来,在那附近来回寻找着。
 
 
 
 
    怪物吃惊似地抬头看了看大屋顶,大概从瓦片的声音察觉到了追赶的人就要逼近了吧。好像下了很大的决心,突然探到房檐边上,纵身跃向漆黑的地面。一团又大又黑的东西喷地坠落到博士眼前的马路上,骨碌碌地滚了几下,但立即爬起飞快地跑了起来。
 
    宗像博士当然要追赶了。要想追捕的话是不会速不住的,但不知为什么,博士没有这样做,一直跟在对方后面,像是想弄清逃往哪儿似的一面保持着适当的距离,一面继续顽强地追踪着。
 
    怪物似乎十分熟悉这一带,转过街口直向冷清的方向跑了近千米,就在她好像喘不上气来,速度渐渐减慢时,前方出现了某神社的茂密的树林。这树林中就是逃跑者所要去的地方。
 
    可以勉强辨认:怪物从破树篱间跑进了树林,踩着潮乎乎的落叶走向里面的神殿,躲进了神殿背后的高高的地板下。
 
    博士蹑手蹑脚地走近神殿后面,一查明地板下的黑暗里有人影在蠕动,立即一下子打开了手电筒,照到了对方的脸上。
 
    地板下很高,可以弯着腰走路,怪物就缩在柱子和杜子中间,手电筒的光束里轮廓鲜明地浮现出胸脯以上的半身像。
 
    虽然把黑礼帽戴到了眼眉上,又用大眼镜遮住了脸,但眼镜中一对吓得睁大着的眼睛像是被追得无路可逃的野兽似地凝视着这边,脸色苍白,激动得失去颜色的发白的嘴唇半张着直喘粗气,使人觉着可怕。确实是个女的,而且是个美女。
 
    “哈哈哈哈哈哈,终于被追逼得无路可逃了吧,北园龙子?是吧,你是北园龙子吧!”
 
    博士和颜悦色地说道,目不转睛地注视着对方的表情。
 
    “谁?你是谁?”
 
    龙子的脸一下子歪扭了,眼看就要哭出来的样子。这个凶恶的杀人狂为什么露着这样一副胆怯的表情呢?要说奇怪倒也奇怪,但不能麻痹大意!女人这种人,更何况成了这样的坏人,没有什么悲痛却掉眼泪,没有什么可怕却做出恐惧的表情,这对她们来说不是易如反掌吗?!
 
    “我吗?我就是为了抓住有三重旋涡指纹的杀人犯而劳苦多日的宗像。当然你应该是熟悉我的,是吧?”
 
    对方没有回答。代替回答的是,她露出更加恐惧的表情,缩起了身子。
 
    “说实在的,我很钦佩你的本领。你有恶魔的智慧。长着这么一副温顺的脸,但实际上是杀人的天才。你把川手二女儿的尸体摆在科学陈列馆的陈列箱里,让大女儿的尸体睡在‘妖魔鬼怪大会’的破蚊帐中,对你的这种本事连我都认输了。虽然我多年来处理了许许多多独具一格的犯罪案件,但以你这样耍魔术的人为对手可还是第一次啊。”
 
    博士一说到这儿,女扮男装的龙子突然伸出双手,做了一个像是想堵住博士嘴巴似的姿势,并发疯似地叫喊道:
 
    “不对,不对,我没有犯过那样可怕的罪!我什么都不知道。川手这位先生和他的两个女儿我连见都没有见过。这一定有什么原因,一定是什么人在实行可怕的计划,企图陷害我。”
 
    “哈哈哈哈哈哈,别演这种无聊的戏了!想用这种手段欺骗我,那未免太简单啦!我什么都知道。如果是无辜的,那你为什么要逃呢?而且不是一般的逃法。什么先搬家,伪装成是空房子,然后又躲在那儿的顶棚里,要不是恶魔,这是考虑不到的呀!就这一件事也可以很好地证明你是那可怕的杀人犯。事实上警察们不都找你找腻了,想不出什么办法来了吗?如果我没有察觉你的奸计,也许你巧妙地欺骗了世人,而且虽然犯了那么大的罪,却永远逃避了法网。你大概不知道我察觉了顶棚上的隐蔽处吧,那可不是瞎撞上的,是从食品店的小伙计那儿打听到的,而且解开了那个奇怪的十听罐头和十斤面包的谜。搬家不需要那种东西。这要么是你在数日之内完全与世间隔绝藏在什么地方,要么像大熊一样躲在远离人烟的山里。不,你是不会干那种傻事的,因为从你过去的做法也可明白,你这个人是个耍戏法的人,常常巧妙地做出一些出人意料的事情来。我设身处地想象了一下你的计划,总觉得你突然搬家本身有点可疑,特别是把那屋子变成空房子这一点总觉得有什么诡计在里面。我在几个小时以前刚注意到这一点,于是我带了助手,来这空房子作了一次探险。我完全猜中了。所以我也得到了信心,觉得自己也有和你差不多的智慧,哈哈哈哈哈哈。”
 
 
 
 
    “不,不对。我伪装搬家、躲进顶棚里这是真的,但这里面有一个可怕的理由。虽说我躲起来,但我绝没有犯罪。我根本没杀过人。”
 
    男装的女人显得很委屈似的,扑簌簌地流着泪央求道。
 
    “哈哈哈哈哈哈,若是这一种不合情理的理由那可不行!哪有没有犯罪而躲起来的!可你说的那可怕的理由究竟是什么事呢?”
 
    博士有点嘲弄似地露着嘲笑问道。
 
    “啊,已经没有用了,我怎么辩解你们都不会信服了。我真倒霉啊!生下来就有那种不祥的手指,这是我的罪孽。”
 
    “哼,真能说会道!你不愧是个名演员啊。这么一说,听起来你虽是有那个三重旋涡指纹的人,但没有犯杀人罪,真正的犯人在另外的地方。”
 
    博士把手电筒的光束照在对方的脸上,仿佛不想看漏任何细微的表情变化似地凝视着她的脸。
 
    光束里的女人露着更悲戚的绝望的表情继续央求道:
 
    “是的,犯人决不是我,可是我完全没有办法解释我无罪。您看,这上面原来有那可怕的指纹的手指。”
 
    她边说边轻轻地朝光束中伸出了左手。因为整个手腕都缠着绷带,所以切开的伤口看不清楚,但应该有食指的地方异样地凹了下去,给人一种掉了牙齿似的感觉。
 
    “有三重涡状指纹的杀人狂的事我听说了,但直到十几天前,我还稀里糊涂地没有察觉我的食指的奇怪指纹和那个可怕的三重涡状指纹完全一样。我偶然间看了登在报纸上的犯人指纹的放大照片,并且吃惊地与自己左手食指比了一下。啊,叫人多么可怕啊2不用说是形状,连纹路数都分毫不差。您想象一下我当时的心情,可谓是突然被推到了地狱底肥,眼前一下子漆黑一团,差一点失去知觉。我这才清楚地知道这个广阔的世界上没有两个指纹是完全相同的。”
 
    听着这絮絮叨叨的话,博士不耐烦似地蹬着步。
 
    “所以你为了逃避嫌疑,下决心切了食指扔到了渭田里,是吧?可是,这不太奇怪了吗?!如果没有干那种事,何必要切弹指头呢?只要申述当时不在现场,说发生凶杀案的那一天自己在什么什么地方就行了嘛!”
 
    ~听这话,光束里的女人脸又一下子歪扭了,苍白的脸颊上扑簌簌地流下了眼泪。
 
    “啊!要是能那样,只要能那样的话……我真倒霉!ah-bi这话我在书上读到过,很清楚。我也察觉了这一点,暂且放下了心,而且为郑重起见找来了旧报纸,查了一下几起凶杀案的日期。结果您猜怎么啦,我又大吃一惊,连气都喘不过来了,我明白我完全没有不在现场的证明。那几起凶杀案发生的那一天我都离家外出了,而且不是一两个小时,而是半天以上!有时甚至一宿不归。多么可怕的命运啊!只是在我外出的那一天,一定发生凶杀案。不,说是外出,但我也并没有走访人家,只是漫无目的地到处走走罢了,例如郊外啦,有时候去镜仓、江岛啦…”
 
    “哈哈哈哈哈哈,越来越前言不搭后语了,没有那么傻的家伙那样长时间一个人到处走的!”
 
    “不,不是一个人,是邀一个朋友。”
 
    “啊?朋友?那么不是能证明不在犯罪现场吗?不是只要请那朋友当证人就行了吗?”
 
    “不过,那,那……那不是一般的朋友。”
 
    “哦,我懂了。你家保姆说了,听说你有男朋友。但也没有那么傻的家伙为这种事害羞,甘愿遭受杀人嫌疑的。不是让那男朋友作证一下就行了吗?厂
 
    “不过…”
 
    龙子好像已经说不出话了,她嘴唇直哆喀,开始抽抽搭搭地哭起来。想抑制住哭声,但越这样越禁不住呜咽,越泪流不止。如果把这看作是演戏,那实在是惊人的名演员。
 
    连宗像博士也好像怜悯起来,他默默地等候着对方激动的情绪平静下来。过了一会儿,她才停止抽泣,用十分悲伤的声音低声说道:
 
    “我再也见不到那个人了。”
 
    “为什么?”
 
    “我这样说大概您不会相信,那样亲密相处的那个人,我却连他的职业和住所都不知道。名字叫须藤,但就连这名字也不明白是否是真名。那个人说:‘不说出住所和名字,这样梦幻一般地相处不是像童话国里的交往,挺有意思的吗?’三个月前偶尔在火车里碰到了一起,这是我们第一次交往,觉得那个人是一个有相当身份的人,一定有太太和孩子吧。但我不知不觉地被他那不可思议的梦幻一般的话吸引住了,说起来有点不好意思,我像小姑娘似地迷上了他。刚好是四天前,那是切掉这手指的前一天晚上的事。我在与那个人约定的时间来到了这神社的树林里,对,是这里。跟他在外面相会总是在这树林里。我想跟他好好商量一下我最近以来的可怕境遇。可是那天晚上不知是怎么搞的,不见他的身影。就在这儿。我在这神社的地板下等他一直等到天明。您大概会想哪会呢;可我被什么缠住了似的,真的像做梦一样在这里过了一夜。在黎明时,我猛然一看,对,是这根柱子,发觉这根柱子上贴着一张小纸片。您猜那纸片上写着什么?是张脱离关系的字据。上面写着这样的话:大概再也不会见到你了,我不会忘记那些快乐的梦。”
 
    说完女扮男装的龙子又悲上心头,这回好像顾不得体面似地俯身痛哭起来。
 
    宗像博士目瞪口呆地望着这俯身痛哭的怪指纹,过了一会儿不胜感慨似地频频点头说:
 
    “‘说得好,说得太好了!你不仅是个名演员,而且是个杰出的小说家,竟想到了这一点。完全合乎逻辑了。不过,即使被人说这不过是你凭空捏造的话,你也举不出任何反证。不是吗?你有男朋友这件事,因为也有证人,所以一定是真的,但也可以考虑那不是抛弃你的梦幻般的情人,而是你杀人的帮凶。在这起凶杀案中经常有一个与你一模一样的男装女人露脸,那个女人身边总是有一个左眼戴着眼罩的彪形大汉跟着,与刚才你所说的男朋友不是吻合了吗?喂,怎么样?这样考虑至少要实际一点吧?你刚才的话很是罗曼蒂克,倒是挺有意思的,但决不会有法官相信这种梦幻般的话的!你已经切了手指,把那手指小心谨慎地装在锡匣子里,特意扔到隅田川里,然后伪装成搬了家,躲藏在空房的顶棚上,一知道已经被发现,不知什么时候打通了屋顶,使出了一个女人难以想象的招数逃走了。如果不是犯人,哪能干这种蠢事呢!”
 
    女人没有抬起头,只是哭着绝望地自言自语说:
 
    “啊,完了……我真倒霉……我想您大概一定会这样说的。”
 
    “真可借,你的戏白演了。那就跟我一起走吧!”
 
    就在宗像博士这样说着,换个手拿手电筒的时候,俯身哭着的女人突然吃惊似地抬起了头。
 
    “哎哟,您是谁?”
 
    博士一听这离奇的话,大概是怀疑对方发疯了什么的,立即表现出吃惊的神情,停止了动弹,语气尖锐地答道:
 
    “说什么呀!我是宗像,是私立侦探宗像。”
 
    “真的吗?不过,总觉得……对不起,请您用这手电筒照一下您的脸好吗?”
 
    也许是真的疯了。男装的女子以一种异常的热心使劲从地板下爬了出来,又开双腿站在博士面前。
 
    “哈哈哈哈哈哈,真是奇怪的要求!好吧,来,好好看看好了,好好记住逮住你的男人长着一副什么样的脸吧!”
 
    博士把手电筒的光束照到自己脸上,爽朗地笑着。
 
    女子从黑暗中死命地凝视着博士,像是盯着猎物的雌豹似的久久地、久久地凝视着名侦探。从黑暗中令人可怖地听到了呼味呼啸的异常急促的呼吸。
 
    两人都一动不动地、久久地站立着。这情景实在奇怪,令人窒息,使人不由地感到两人的身边升起了不可名状的杀气般的东西。
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