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3-6

时间: 2019-03-18    进入日语论坛
核心提示:    6 調査報告会が終わったのは、午後十一時近かった。 鬼登沙和子はその後も、いろんなテーマについて予測数値を出して
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 調査報告会が終わったのは、午後十一時近かった。
 鬼登沙和子はその後も、いろんなテーマについて予測数値を出して見せた。貿易、物価、失業者数、人口移動など、いずれもが恐るべき破局を示した。物価は六ヵ月間に八ないし十倍、失業者数は顕在者のみで三千二百五十万人、そして企業の七六%が名目はともかく、実質的に、極度の操業短縮で倒産状態に陥る。
「仮に、ここで想定した事態が二百日で終わったとしても、被害はなお拡大を続けるでしょう。その後遺症は相当長く続くからです」
 沙和子が付け加えた。
 この調査報告に対する質問はほとんど出なかった。誰もが、何をどう考えてよいかわからなかったのである。
 小宮は、大河原鷹司会長らが帰ったあとも、重い身体を椅子にもたせかけていた。
「小宮さん、どちらにお泊りですか」
 関西経営協会の若い事務員が訊ねに来た。帰りの車の手配のためだった。
「ホテル・プラザ……」
「小宮さんは私が送ります。帰り道だから……」
 振り向くと、鬼登沙和子が、書類やメモ帳を片付けているところだった。
 鴻芳本社ビルの狭い空地に置いてあった鬼登沙和子の車は、中古の小型車だった。車内は、女性の車らしく、安っぽい派手な色のシートカバーやぶら下げ人形で飾られていた。助手席に腰を降した時、かすかな香水の香りと女の体臭が、小宮の鼻を軽く刺激した。
「疲れたでしょう」
 淡い褐色の瞳が、薄暗い車の中で光っていた。
「私、少し飲みたいわ」
 堺筋に出る角の信号で車を停めた時、沙和子は前を向いたままつぶやいた。
 小宮はとまどって沙和子の横顔を見た。はじめて見る女のように、小宮は思った。青味がかった白い頬の小さな笑くぼも、唇からのぞく並びのいい歯も新鮮だった。
 沙和子は車をキタ新地の細い路上に停めた。彼女が選んだのは、この辺りではあまり高級とはいえないスナック風の店だった。
 二人は、若い男女の客に混って、カウンターに向かった。沙和子はブランデーを、小宮はウイスキーの水割を注文した。バーテンダーは当然のように、国産の中級品を出し、南京豆が十粒ほど入った小さな皿を並べた。
 沙和子は、あまり経済的に恵まれているようには見えない。勉強好きで仕事熱心で、そのためつい結婚も遅れてしまっているといった、どこのオフィスにも一人か二人はいる器用貧乏の女性のような感じだ。
「今日も鴻森さんは来ていなかったなあ」
 小宮は、話題もないままにいった。
「鴻森さん……」
 沙和子は右眉を少し上げて訊き返した。
「鴻森芳次郎さんだよ」
 小宮はもう一度いった。
「ああ、鴻芳の若殿はん」
 沙和子はおかしそうに、節をつけていった。
「若殿はんは八月末から海外出張よ」
「へえ、どこへ……」
「南洋らしいわ。インドネシアあたりからインド洋の方を回ってるんでしょ」
 沙和子はあまりよく知らぬといった風に、曖昧に答えた。
 沙和子はよく飲んだ。南京豆を二、三粒かじっただけで、ブランデーを十杯ほどもあおった。それでいて、顔にも声にもほとんど変化がなかった。
 小宮の酔いは早かった。酒に弱い方ではなかったが、連日の疲労と先刻の興奮が酔いを早めたらしく、店を出る時には足がふらついて、沙和子に支えられたりもした。
「私、酔ったわ、運転できない」
 沙和子はしっかりした足どりのくせに、そういった。
「今夜はどこかに泊りたいわ……」
 
 派手なピンクの傘をつけた照明具が、小宮の目に入った。起き抜けの頭に、記憶がよみがえってくるまでに数十秒もかかった。昨夜彼は、鬼登沙和子とこの旅館に泊ったのだ。
 何年ぶりかに触れた女の肌が、額にかかったクモの糸のように粘っこい温みを胸のあたりに残していた。そしてそれが、あの年齢不詳の理学博士のものだということが、一層湿っぽいむずがゆさを感じさせた。
 小宮は手を伸ばしてみた。触れたのは、冷えた洗いざらしのシーツの感触だけであった。彼は幅広いダブルベッドの中に、独り横たわっているのだった。
 小宮は身を起こして、部屋の中を見回した。沙和子の姿はもうなかった。彼女がここにいたことを示す何物も残ってはいなかった。目に映るのは、花模様の壁紙とくたびれた桃色の敷物、そして舞台道具のようなけばけばしい色の安手の調度品だけであった。
 小宮はべッドの上に坐ったまま、しばらくぼんやりとしていたが、ふとサイドテーブルの上に広げられた新聞紙を見て、小さく声をあげた。
「イスラエル重大警告」「アラブゲリラ援助中止を申し入れ」という活字が目に飛び込んできたのである。
 あわてて身仕度をした。
〈東京に帰らなければ……〉
 腕時計の針は午後二時を回っていた。
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