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蛇神2-5-5

时间: 2019-03-24    进入日语论坛
核心提示:    5 船木理髪店は宮司宅から歩いて二十分くらいの商店街の中にあった。 窓から中を窺《うかが》ってみると、客は一人し
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 船木理髪店は宮司宅から歩いて二十分くらいの商店街の中にあった。
 窓から中を窺《うかが》ってみると、客は一人しかいないようだった。その客の顔をあたっているのは五十がらみの太った女性で、白い仕事着を着た店主らしき中年男は、古ぼけたソファにのんびりと座って、くわえ煙草で新聞を読んでいた。
 日美香がドアを開けて中にはいっていくと、新聞を読んでいた男は何げなく顔をあげた。日美香の顔を見るなり、ひどく驚いたような表情になり、火がついたままの煙草を口から取り落としそうになった。
 鏡の前で客の顔をあたっていた店主の妻らしき女は、鏡ごしに訪問者の姿を確認しながら、こんな都会風の身なりをした若い娘が田舎の理髪店に何の用かとでもいいたげな顔をした。
「船木松雄さんにお会いしたいのですが」
 日美香がソファに座っていた男にそう話しかけると、男は、慌てて煙草を灰皿でもみ消しながら立ち上がり、「私がそうですが」と言った。
 痩《や》せて小柄な男だった。
 まだ五十前だというのに、頭にはかなり白いものが混じっている。
「何か……?」
 今にも飛び出しそうな目で日美香の顔を凝視しながら、船木は言った。
 日美香は自分の名前を名乗ってから、
「つかぬことを伺いますが、船木さんは昭和五十二年の大神祭で三人衆をつとめたことがありましたね?」
 そう尋ねると、船木の顔色が目に見えて変わった。
 飛び出した喉仏《のどぼとけ》をごくりと動かして唾《つば》を飲み込んでから、かすかに頷《うなず》いた。
 そのことで少し話を聞きたいのだがと言うと、船木はひどくうろたえたような顔をしていたが、「そ、それじゃ、奥の方で……」と口の中でもごもご言い、ちらと妻の方に視線を投げかけてから、日美香を店の奥に続く住居の方に案内した。
 鏡の前の妻は、剃刀《かみそり》を持ったまま後ろを振り返って、不審そうな顔つきで夫を見ていた。
「倉橋日登美という女性のことをおぼえていますか? その年、神迎えの神事で日女をつとめた……」
 居間らしき和室に通されて、向き合って座るなり、日美香はそう切り出した。
 船木はやや間を置いてから、覚えていると答えた。
「わたしは倉橋日登美の娘です」
 そう言うと、船木は、えっというように目を剥《む》いた。
 しかし、驚きながらも、その顔には、「やっぱり」というような表情も浮かんでいた。
 日美香の顔を見た瞬間から、船木松雄には、倉橋日登美のことが脳裏によみがえっていたに違いなかった。
「実は……」
 日美香はこれまでのいきさつを簡単に説明した。
「そ、それでは、父親を探しにこの村に……?」
 日美香の話を聞き終わると、船木は動揺もあらわにして聞き返した。
「そうです。聞くところによると、日女は、その年の三人衆の中からしか恋愛相手を選べないそうですね。それで……」
 日美香がそう答えると、船木は泣き笑いともいうべき奇妙な表情を浮かべながら、慌てて言った。
「わ、私じゃありませんよ……」
 日美香は船木の血液型を聞いてみた。
 船木はその質問の意味にすぐに気づいたらしく、しばらく逡巡《しゆんじゆん》したあと、絞り出すような声でO型だと答えた。
 この男ではない……。
 日美香は心の中でそう呟いた。
 ほっとしていた。
 この貧相な中年男が自分の実の父親だと思うことにはかなりの抵抗があったからだ。
 それに、血液型を聞く前から、この男ではないという感じは強くもっていた。この男のどこにも、自分と似通ったものは見いだせなかったし、こうして向き合っても、血のつながりのようなものは全く感じ取れなかった。
 ただ、それなら、なぜ、二十年前のことを切り出した途端、この男はこれほどうろたえたのだろう。
 それが気になった。
「その神迎えの神事というのは、具体的にはどのようなことをするのですか」
 日美香は聞いてみた。
 この神事については、真鍋の本にも触れてはあったが、それはあくまでも人から聞いた話をまとめたものにすぎない。神事にかかわった当事者から話が聞きたかった。
「それは……」
 船木は、ややしどろもどろの口調で説明した。
 三人衆に選ばれた若者たちは、祭りの日の夕方、日の本神社にある機織《はたお》り小屋と呼ばれるところに集まり、そこで、日女から一つ目の蛇面と蓑笠《みのかさ》を受け取り、それを身につけると、それぞれ手分けして、村中の家々を訪問するのだという。
 やがて、村中の家を訪ね終わると、また機織り小屋に戻ってくる。そして、そこで、待ち受けていた日女から最後に酒によるもてなしを受けるのだということだった。
 当時、この神迎えの神事は二人の日女によって行われたのだという。蓑笠を渡す儀式は、神耀子という日女によって、そして、最後の酒でもてなす儀式は倉橋日登美によって……。
「そのもてなしというのは、お酒だけなのですか……?」
 日美香が鋭い視線を船木の顔に当てたまま、そう聞くと、船木の顔に一層の動揺が現れた。
「お、お酒だけとは……?」
「ある本に書いてあったのですが……」
 神迎えの神事というのは、古くは、性的な儀式を伴っていたのではないかということをほのめかすと、船木の顔がさっと強《こわ》ばった。
「ま、まさか!」
 即座にそう打ち消したが、すぐに思い直したように、
「あ、いや、確かに、昔はそういうこともあったと聞いておりますが……。今はそんなことは……」
 しどろもどろながら、耀子と同じことを言った。
 しかし、日美香は、船木松雄の妙におどおどした様子から、彼が真実を話してはいないのではないかと感じた。
 やはり、何か隠している……。
 そう感じざるを得なかった。
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