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蛇神4-5-8

时间: 2019-03-26    进入日语论坛
核心提示:    8「むむすめって?」 美里は戸惑いながら聞き返した。 この義弟には、青年のような外見からは想像もつかないほど沢山
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「む……むすめって……?」
 美里は戸惑いながら聞き返した。
 この義弟には、青年のような外見からは想像もつかないほど沢山の子供がいることは知っていたが、その中に、今年二十歳になるような大きな娘がいただろうか、と一瞬思った。
 ただ、子沢山といっても、夫の話では、全部が実子というわけではなく、戸籍の上だけの親ということで、その背景には、神に仕える特殊な家系ゆえの複雑怪奇なお家事情があるらしいのだが、詳しいことは聞かされていなかった。
 なぜか、夫は、若い頃から、自分の生家である神家のことを話すのをあまり好まないように見えたので、美里も無理に聞き出そうとしたことはなかった。
「娘といっても、最近養子縁組をしたばかりの養女なんですが」
 聖二はすぐにそう答えた。
 あ、そういえば……。
 美里はようやく思い出した。しばらく前になるが、「従妹《いとこ》の忘れ形見にあたる若い女を聖二が養女にしたらしい」と夫が言っていたことを。
 夫の方は、義弟に紹介されて、その女性と外で会ったことがあるようだったが、美里はまだ顔も知らなかった。
 名前は確か……日美香とか聞いていたが。
 神家のお家事情にすぎないことなので、新庄家の人間である美里には関係ないといえば関係ない話だったし、その話を夫から聞いたときは、親戚《しんせき》が一人増えた程度の認識しかなく、殆《ほとん》ど忘れていたくらいだった。
「でも……確か、その方、東京の大学に通っているのでは……?」
 美里は夫から聞いた事を思い出しながら聞いた。
「ええ。育ったのは和歌山ですが、今は、東京でマンションを借りて一人暮らしをしています」
「だとしたら、その方に武の家庭教師は無理ではないでしょうか。長野に住んでいるというならともかく、いくら新幹線で一時間足らずとはいっても、東京から長野まで毎日通うのではちょっと……」
「それならご心配なく。話が決まったら、彼女にもしばらくあちらに滞在してもらいますから」
「え。しばらくあちらにって、それでは大学の方は……?」
 長い夏期休暇を利用してとでもいうならまだ話が分かるが、今は十月である。日美香の通っている大学というのは、そんなに暇なのだろうか。文学部ならまだしも、理系の学部はけっこう忙しいと聞いていたが……。
「実をいうと、大学の方は半月ほど前から休学しているんです。将来は薬剤師になるつもりだったらしいのですが、今年の五月に母親代わりだった人が事故で急死して以来、何かと心境の変化があったようで、それまで決めていた進路にも迷いが出てきたそうで……」
 このまま大学に通って、漫然と講義や実習を受けていても身が入らなくなってしまったので、思い切って、一年ほど休学して、その間に自分の進路についてもう一度考え直してみる。ただ、休学してぶらぶらしているわけにもいかないので、このモラトリアム期間を有効に利用するために、渡米してホームステイでもしながら語学力をつけ、見聞を広げたい。今後どんな進路を選ぶにせよ、この経験は何らかの形でこれからの自分にとってプラスになると思う。
 聖二の話では、日美香が休学した理由はそんなことだったらしい。
「……休学の目的も渡米の理由もそれなりに納得の行くものだったので、私も許したんです」
「それで、今は……?」
「渡米費用を自分で調達するためにアルバイトに明け暮れているようです。そのくらいの費用なら私の方で出すと言ったのですが、自分のことは自分でやりたいと言って……。まあ、私の口から言うのもなんですが、今時の女子大生としてはかなりしっかりしているし、性格も真面目《まじめ》この上ないです。武の家庭教師としては申し分ないと思いますが」
「そうですか……」
 美里はため息まじりに言った。またしても、義弟の口車に乗るというか、説得されてしまうことを予感しながら……。
「ただ、こういう事情なので、いくら親戚だからといって、彼女にただ働きをさせるわけにはいかないのですよ。もし、この話を承知してくれるなら、それ相応のバイト料を支払ってやって欲しいのですが」
 聖二は言いにくそうにそう切り出した。
「それはもちろん……。いくらでもお望みなだけお支払いしますけれど」
 思わずそう答えてしまってから、美里は内心しまったと思った。つい話の流れでうっかり口にしてしまったが、これでは、自分がこの件を承諾したと言ったも同然ではないか。
「それ相応の報酬さえ貰《もら》えれば、彼女の方もこの話を断ることはないと思います。明日にでも、一席もうけますから、一度本人に会ってください」
「え、あ、明日……ですか?」
 美里はうろたえながら聞き返した。
「ええ。なるべく早い方がいいと思うのです。例の痣《あざ》の検査結果にもよりますが、あまりのんびりもしていられない状況なので」
「は、はい。それはもう。わかりました。其《そ》の件もよろしくお願いします……」
 またもや、美里はこの義弟にしてやられたという思いを苦々しく噛《か》み締めながら、もう一度頭をさげた。
 長野行きの話同様、よく考えてみれば、そんなに悪い話ではない。相手が息子と大して年の変わらない若い女性ということだけが、美里にとっては心配の種だったが、義弟の養女ということであれば、万が一、トラブルが起きても、内々で済ませることができるだろう。
 反対する理由はない。ただ……。
 それでも、なんとなく、すっきりとしないというか、胸のうちに蟠《わだかま》るものがあるのはなぜだろう。黒くもやもやとした不安のようなものを感じる。この日美香という娘を、自分の生活圏に侵入させることに、漠然とした不安を……。
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