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蛇神4-7-2

时间: 2019-03-26    进入日语论坛
核心提示:    2 小金井のマンションを出た足でそのまま横須賀まで行き、隣の主婦から聞き出した住所を頼りに訪ねてみると、こぢんま
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 小金井のマンションを出た足でそのまま横須賀まで行き、隣の主婦から聞き出した住所を頼りに訪ねてみると、こぢんまりとした老舗《しにせ》風の和菓子屋の店舗には、六十年配の老女が一人で店番をしていた。
 蛍子は、店番の老女に、「平岡三恵子さんに会いたいのだが」と告げると、その老女は三恵子の母親だったらしく、奥にいた娘を呼んできてくれた。
 平岡三恵子は三十代半ばほどの小柄な女だった。
 三恵子に自分の名刺を渡して、「亡くなった達川さんのことで、少しお伺いしたいことがある」と切り出すと、三恵子はやや不審そうな顔をしたものの、名刺に刷り込まれた肩書と、蛍子の風体から怪しい人物ではないと判断したのか、すぐに奥に通してくれた。
「実は……」
 居間風の和室に通され、お茶を運んできた三恵子に、今日の突然の訪問の理由をかいつまんで説明した。
 一カ月ほど前に長野県の日の本村という所を訪ねた探偵社を経営する友人が、この村を出た直後に行方不明になってしまったこと。友人の失踪《しつそう》の手掛かりを求めて、日の本村を訪れたとき、宿泊した寺の宿帳に達川の名前を見たこと。この友人から、以前に、達川も日の本村に興味をもって調べていたらしいと聞かされていたこと。達川がなぜ日の本村に興味をもって調べていたのか知りたくて、宿帳に記された住所を訪ねてみたところ、マンションの住人から達川の死を知らされたこと……。
「隣の人の話では、達川さんは自殺だったらしいというのですが、それは確かでしょうか?」
 訪問の理由をかいつまんで話したあと、そう尋ねると、
「それが……」
 平岡三恵子は曖昧《あいまい》な表情で口を開いた。
「遺書などは何も残されていなかったので、自殺と断定されたわけではないんです。ただ、現場の様子から見て、事故とも思えないので、泥酔した上での発作的な自殺だったのではないかと……」
 三恵子はそう言って、達川の転落死に関する詳しい状況を話してくれた。
 事件が起きたのは、六月二十七日、土曜日の夜十時頃のことだった。ドスンという物音に驚いたマンションの一階の住人が外を見てみると、駐車場に人が倒れているのが見えたのだという。状況から見て、九階に住む住人がベランダの手摺《てす》りを乗り越え、下に転落したものと思われた。
 すぐに警察に通報され、駆けつけてきた警察の調べでは、達川の死は、転落による内臓破裂でほぼ即死状態だった。さらに、遺体からはかなりの量のアルコールが検出され、部屋の中にも、すっかり空になったウイスキーボトルが転がっていたという。
 誰も人の争う声や悲鳴のようなものは聞いていないこと。部屋の中もベランダのスペースにも他人に荒らされたような痕跡《こんせき》が見当たらなかったこと。ベランダには、自殺者がよくやるように、サンダルが揃《そろ》えて脱ぎ捨ててあったこと。ベランダの手摺り等は頑丈で、誤って転落した可能性がほとんど考えられなかったこと。
 さらに、被害者が失業中で、しかも妻子と別れてかなり荒《すさ》んだ暮らしをしていたらしいということ。
 そういった状況を総合して、警察では、「自殺」と判断したようだという。
「……それと、遺書などは残されていなかったんですが、パソコンのハードディスクが初期化されていたことで、発作的に自殺を決意した達川が、身辺整理のつもりで、パソコンに入れてあったデータを全部消去したのではないかと……」
 三恵子はそんなことを言った。
「パソコンの初期化?」
 蛍子はなんとなく気になって聞き返した。
「ええ。デスクトップ型のパソコンを一台もっていたんですが、これが初期化されていたそうなんです。それで、ディスクに保存してあったはずのメールとか日記とかのデータも全部消えてしまっていて……」
「それは、達川さん本人がしたことに間違いないんでしょうか。まさか、第三者が、ということは? 達川さんを殺害する動機をもった何者かが、証拠隠滅の目的で、パソコン内のデータを消したとは考えられないでしょうか」
「その可能性もないことはなかったみたいなんですが、パソコンのキーボードやマウスには、達川の指紋以外は発見されなかったそうです。だから……」
「でも、その第三者が指紋がつかないように手袋でもして操作すれば……?」
「ええ。実をいうと、そのこと以外にも、事件当夜に不審な三人組の姿を目撃したというマンション住人の通報があったとかで、警察でも最初は、他殺という可能性も考慮にいれて捜査してたみたいなんです」
「不審な三人組……?」
「そうです。転落のあった直後、最上階に住むサラリーマンが帰宅しようとしてエレベーターに乗っていたとき、エレベーターが九階で止まって、二十代から三十代と思われる体格の良い三人の男たちが乗り込もうとしてきたというのです。
 ところが、エレベーターに人が乗っていたことを知ると、その三人は結局乗らずにやりすごしたとか。三人ともマンションの住人ではなさそうで、しかも、どこか慌てていたように見えたことや、転落があった直後、903号室のドアが中から施錠されていなかったことなどから見て、この三人の男たちが転落にかかわっているのではないかと……」
 もし、あれが他殺だとしたら、犯人は複数いたことになる……。
 体格の良い男が三人がかりでやれば、達川にウイスキーを無理やり飲ませて泥酔状態にした後、パソコンなどに残ったデータの隠滅処分をしてから、正体のなくなった被害者の身体をベランダから下に投げ落とすことは、不可能ではないだろう。
 半ば意識を失っているような状態にしておけば、被害者に悲鳴をあげられる心配もないだろうし……。
「それで、その三人の男の身元は分かったんですか?」
「いいえ……。それに、後になって、この三人の男に関する目撃情報そのものがあまり信用できるものではないことが分かって、警察でも、この件に関しては積極的に捜査する気をなくしたみたいで」
「目撃情報が信用できないというのは?」
「エレベーターに乗っていたというサラリーマンなんですが、外で一杯やってきたらしくて、こちらもだいぶ酔っていたらしいんです。それで、最初は、エレベーターが止まったのは九階だと言っていたんですが、このときの記憶が確かなものではなかったらしくて、そのうち、もしかしたら、三人の男たちが乗り込もうとしたのは、九階ではなくて、八階だったかもしれないし、十階だったかもしれないなんて言い出したらしくて。
 それに、三人の男たちが止めたエレベーターに乗り込もうとしなかったのも、住人に顔を見られるのを恐れたというよりも、単に、下に行くつもりだったのが、エレベーターが上に行くのが分かって乗らなかったとも考えられるんです。結局、このサラリーマンの証言があやふやになったことで、三人の男たちが事件に関係しているかどうかさえ疑わしくなってきたという次第で……」
「ということは、いまだに達川さんの死は、自殺か他殺か確定はしていないということですか?」
 そう尋ねると、三恵子は頷《うなず》いた。
「そうなんです。誤って転落という事故の線だけはないと思うのですが。ただ、警察としては、面倒臭くなったのか、自殺ということで片付けたがっているように見えます。もうろくに捜査もしてないようですし、あれ以来、こちらには何の連絡もありませんから……」
 三恵子は少し悔しそうな表情を見せてそう言った。その表情から、離婚したあとも、死んだ男のことを、まだ完全に赤の他人と割り切れないでいる妻だった女の心情をちらりとかいま見たような気がした。
「あの、それで、達川さんが日の本村に興味をもって調べていた理由を何かお聞きになったことはありませんか」
 話題をかえて、そう聞いてみたが、三恵子は、「さあ」というように首をかしげ、
「もともと、仕事の話はうちではあまりしない人でしたし、別れたあとのことは……。あ、でも……何かお祭りのことに興味をもっていたのではないかと思います。その日の本村という所と直接関係あるかどうかは分かりませんが」
 と何かを思い出したような顔で言った。
「祭り?」
 蛍子ははっとして聞き返した。
 大神祭のことだろうか。
「というのも、遺品を整理していたら、本が一冊出てきたんです。達川が買った本ではなくて、図書館から借りたような本が。確か、タイトルは、『日本の祭りにおけるエロスとタナトス』とかいう、民俗学か何かの専門家が書いた研究書のような本です。だいぶ前に借りたものらしくて、遺品の中には、図書館からの返却催促状も混じっていたので、わたしが後で返しに行こうと思っていたのですが、つい忘れてしまって……」
「その本、まだお持ちでしたら、ちょっと見せてもらえないでしょうか」
 蛍子は身を乗り出すようにして言った。
「いえ、それが、今は、手元にはないんです。ある人に貸してしまって」
「貸した……?」
「実は、七月の末くらいでしたでしょうか、達川と親交があったという方が線香を上げさせてもらいたいと突然うちに見えて……。鏑木《かぶらぎ》さんというフリーカメラマンをしている人です。達川が『週刊スクープ』の記者をしていた頃に、仕事がらみで知り合ったとかで……」
 三恵子の話では、この鏑木というフリーカメラマンが、やはり達川の死に疑問をもっているように見えたという。
「このとき、日の本村というところの話になって、わたしがその本のことを思い出して口にしたら、それを貸してほしいとおっしゃったんです。図書館には鏑木さんの方から返しておくというので、お貸ししたんです」
 達川と仕事がらみで親交があり、しかも、達川の死に疑問をもっていた男がいた……。
 この男に会えば、何かもっと詳しい情報を得られるのではないか。
 ふとそんな気がした。
「鏑木という人の連絡先は分かりませんか」
「それなら、名刺をもらいましたから……ちょっとお待ちください」
 三恵子はそう言って、居間を出ていったが、しばらくして、一枚の名刺を持って戻ってきた。
「これです」
 渡された名刺には、「フォトジャーナリスト 鏑木浩一」と刷られていた。名前の下にはマンション風の住所と電話番号が刷られている。
 浩一……。
 蛍子はふいに胸を突かれる思いがした。
 奇しくも、伊達浩一と同じ名前を持つ男に、蛍子はそのとき、運命的とでもいうか、何か避けがたい因縁のようなものを感じた。
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