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蛇神4-7-3

时间: 2019-03-26    进入日语论坛
核心提示:    3「すると、達川という記者の死もいまだに自殺とも他殺ともつかぬまま曖昧《あいまい》にされているというわけですか」
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「……すると、達川という記者の死もいまだに自殺とも他殺ともつかぬまま曖昧《あいまい》にされているというわけですか」
 蛍子の話を聞き終わったあと、老マスターはそう言った。
 翌日の夜だった。
 蛍子は、「DAY AND NIGHT」のカウンターにいた。
「ええ。でも、平岡さんの話では、警察では自殺という線で片付けたようだとか。事件の性格こそ違いますけれど、なんとなく、伊達さんのときと状況が似ているような気がしてならないんです。この二つの事件はどこかでつながっているような気がします。日の本村というキーワードで」
「それで、その鏑木とかいうカメラマンには会えたんですか」
 マスターが聞いた。
「それがようやく連絡が取れて、これから会うことになっているんです。ここで」
「ここで?」
「ええ。電話で少し話した感じでは、独身の若い男性で一人暮らしのようなんです。だから、名刺にあった自宅に直接訪ねて行くのもどうかなと思って。それに、マスターにも話を聞いてもらったほうがいいような気がして、ここで会うことにしたんです。もうそろそろ来る頃だと思いますけど……」
 蛍子は腕時計を見ながら言った。
 時刻は午後九時を少し回ったところだった。
 そのとき、噂《うわさ》をすればのたとえ通り、扉が勢いよく開いて、二十代後半の、洗いざらしのブルージーンズの上下を着た中背《ちゆうぜい》の男が入ってきた。
 肌の浅黒い、そろそろ床屋の世話になった方がよさそうなぼさぼさ頭に濃い眉《まゆ》をした精悍《せいかん》な顔立ちの男だった。
「喜屋武さん……ですか」
 その男はカウンターにいた蛍子を見ると、やや眩《まぶ》しげな顔つきでそう話しかけてきた。
 蛍子は頷き、バッグから自分の名刺を出すと、男に渡した。
「鏑木です」
 男は渡された名刺をちらと見ると、そう言って軽く頭をさげた。
「突然お呼びたてして」
 蛍子が言うと、鏑木浩一は、「いえ」というように片手をあげ、蛍子の隣に座ると、ビールを注文した。
 そして、出されたおしぼりで手を拭《ふ》きながら、あたりをきょろきょろ見回し、
「いい店ですね。俺《おれ》、ジャズ好きなんですよ」
 と言った。
「やっぱり……」
 蛍子は思わず呟《つぶや》いた。
「あれ、分かります?」
「あ、いえ、電話をしたときに、スイング風の曲が聞こえていたから、もしかしたらと思って」
 蛍子は慌てて言った。
 この店を会う場所に指定したのは、マスターに話したような理由もあったが、この鏑木という男も、伊達浩一同様、ジャズが好きなのではないかとふと思ったからだ。
 外見こそ伊達とは似ても似つかなかったが———外見は、いわゆる縄文人顔とでもいうか、二重瞼《ふたえまぶた》のぎょろとした大きな目といい、地肌が黒いせいか、殊更に白さが目立つ丈夫そうな歯といい、どことなく甥《おい》の豪に似ているようにも思えた———元恋人と同じ名前をもち、同じ好みをもつその男に、初対面にもかかわらず、前にも会ったことがあるような懐かしさのようなものを感じていた。
「……さっそくですが、平岡さんの話では、鏑木さんは達川さんの死に疑問をもっておられたとか。それは一体どうして?」
 蛍子は、突然自分を支配した感傷にも近い感情を振り払うように、殊更に事務的な声で話を切り出した。
「それは……」
 鏑木は出されたビールを一口飲むと、口についた泡を手の甲で拭《ぬぐ》いながら言った。
「達川さんから妙な話を聞いていたんですよ。彼がああなる前に」
「妙な話というのは?」
「大蔵大臣の新庄貴明に関するネタです。彼が若い頃、かかわったという或《あ》る殺人事件についての……」
「それは、昭和五十二年に新橋で起きた、『くらはし』という蕎麦《そば》店主一家が住み込みの店員の少年に殺されたという事件のことですか。確か、その犯人の少年を紹介したのが、当時、『くらはし』の常連だった新庄貴明だったという……」
 蛍子がそう言うと、鏑木は大きく頷《うなず》いた。
「そうです。それです。解雇をめぐっての衝動殺人として片付けられた事件が、実は、新庄も一枚からんだ計画殺人だったのではないかと達川さんは疑っていたんです。それを行きつけの飲み屋の席で聞かされて……」
 鏑木の話では、彼が達川と知り合ったのは、フリーとして引き受けた「週刊スクープ」の仕事を通じてだったが、そのときに、ひょんなことから、そこの記者だった達川正輝と同郷であることが分かり、その親近感から、その後も、共に飲みに行ったりするような付き合いが続いていたのだという。
「小樽の出身なんですよ。俺も達川さんも。それで、同郷のよしみで気が合ったというか、新宿に小樽出身の人がやってる居酒屋があるとかで、達川さんに連れて行ってもらったことがあるんです。それ以来、時々、その店で会って一緒に飲むことがあったんですが……」
 そんな折り、かなり酔いのまわった達川がロレツのまわらぬ舌で、新庄貴明に関する話をはじめたのだということだった。
「達川さんはもう出版社の方はやめていて、そのせいで荒れていたのか、飲み方もふつうじゃなかったし、かなり酔っていた上に、そのろくに回らない舌で聞かされた話というのが、とても常識では考えられないようなファンタスティックな話だったんで、そのときは、こっちも酔っ払いのたわごとに付き合うつもりで、適当に聞き流していたんですが……」
「そのファンタスティックな話というのは?」
 蛍子には大体の察しはついていたが、確かめるつもりで聞いてみると、
「長野県の日の本村という村に関する話なんですよ。新庄の生まれ故郷でもあるという。『くらはし』という蕎麦屋一家の事件も、実は、この日の本村に古くから伝わる奇習と奇祭に端を発していると達川さんは言うんです。なんでも、『くらはし』の若《わか》女将《おかみ》だった女性がこの村の生まれで、日女とかいう巫女《みこ》の血を引く人だそうで……」
 鏑木はそう言って、そのとき、達川から聞いた話というのをした。
「……あの蕎麦屋一家の事件が現大蔵大臣もからんだ計画殺人だったというだけでも、十分|荒唐無稽《こうとうむけい》なのに、その動機というのが、長野の山奥の村に千年以上も伝わる奇祭にあるっていうんですからね。おいおい、伝奇小説の粗筋かよって感じで、そんな話を信じろという方が無理ですよ……あ、そういえば、電話でもちょっと話した例の図書館の本のことですが」
 鏑木は思い出したように言った。
「平岡さんから借りたという?」
「そうです。あの本。あの中にこの日の本村の奇祭のことが書かれていたんですよ」
 電話では、平岡三恵子から借りた本は既に図書館に返してしまったという話だったのだが……。
「どういう内容の本だったんですか」
「かなり古い本です。まあ、一言でいえば、なんたらいう民俗学の権威が書いた、日本の祭りの古い形態についての研究書みたいですね。あ、でも、適当に読み飛ばしたんで、詳しい内容、聞かれても困ります。だって、昼寝用の枕《まくら》にしたくなるほど分厚い本だったんですから」
 鏑木はしかめっ面で、親指と人差し指で本の厚さを示しながら言った。
「おまけに表現が学者特有のもってまわったような小難しさで、読みづらいの何のって。あれを全部読めというのは拷問ですよ」
「それに日の本村のことが書かれていたんですか」
「といっても、同じ信州の諏訪大社の歴史を書くついでに、ちょこっと触れたという程度の扱いで、ほんの数行に過ぎないんですがね。苦労して読み進んできて、たったこれだけかよってガックリくるくらいの……」
 鏑木の話では、それは、日の本村の大神祭に触れたもので、祭りの最後を飾る「神迎えの神事」という神事が、今でこそ、巫女が大神の霊がおりた三人の若者を酒でもてなすだけの儀式になっているが、古くは、これは性交渉を伴う秘儀のようなものだったのではないかという筆者の推察が書かれていたという。
「……つまり、この祭りで、日女と呼ばれる巫女は、大神と呼ばれる蛇神の神妻だというんで、その蛇神の霊のおりた三人の若者と、いわば……その、『夫婦の契り』をするというわけですね。そういうことが神事として昔は堂々と行われていたらしいと。
 もっとも、こういう性がらみの祭りは、明治以降、近代化を推し進める新政府の政策にのっとって、『淫祠《いんし》』扱いされて、厳しく取り締まられたそうなんですが、それ以前は、各地で行われていた痕跡《こんせき》があるらしいんです。山の神の祭りなんて、殆《ほとん》ど乱行パーティのようだったとか……。
 ただ、そういうことがあったとしても、それは過去の話だということは、その本の著者である学者さんも書いているんですが、達川さんの話では、日の本村という村では、けっして明治以前の話ではなく、少なくとも二十年くらい前までそうした秘儀が人知れず続けられていたんじゃないかというんです。そして、この秘儀を続行するために、あの蕎麦屋一家の殺人事件が起きたのだと……」
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