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蛇神4-8-5

时间: 2019-03-26    进入日语论坛
核心提示:    5 その夜。 風呂からあがって、叔母が用意してくれた部屋に浴衣《ゆかた》姿で戻ってきた新庄信貴は、何げなく襖《ふ
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 その夜。
 風呂からあがって、叔母が用意してくれた部屋に浴衣《ゆかた》姿で戻ってきた新庄信貴は、何げなく襖《ふすま》を開けて、あっという顔をした。
 客室らしき広い和室には、布団が二つ並べて敷いてあり、その一つに武がパジャマ姿で寝転がって、携帯ゲームのようなものをやっていたからだった。
 風呂に行く前は、叔母が敷いてくれた布団は一つだけだった。
「おまえ、なんで、ここに……」
「今夜はここで寝ることにしたよ」
 武は寝転がったまま、「へへ」と照れくさそうに笑った。
「寝るって、おまえには自分の部屋があるだろうが」
「だって、明日の朝、帰っちゃうんだろ。なんか久しぶりに兄貴と話して、もっと話したくなってさ。こんなふうにまともに口きくの何年ぶりって感じじゃん」
「……」
「だめ?」
「だめってことはないが……」
「前に来たときも、一緒に寝たよな。この部屋だったかどうかは覚えてないけど」
「ここじゃない」
「それに、考えてみるとさ、兄貴が中学入るまで、こうして二人でいつも寝てたんだよな、子供部屋で。あの頃は二段ベッドだったけど」
「……」
「ずっと忘れてたよ、そのこと。今、思い出してたんだけど、俺たち、小さい頃はそんなに仲悪くなかったんだよなって。小学校の頃は、兄貴と一緒によく遊んだ記憶もあるし……」
「一緒に遊んだんじゃなくて、おまえがいつも金魚のなんとかみたいに、俺の後を勝手にくっついてきたんだよ」
「そうだった?」
「そうだよ。勝手にくっついてきて、勝手にはぐれて迷子になって、そのたびに死ぬほど心配させられたんだ」
「心配したの?」
「したよ! 当然だろ。弟なんだから」
「……」
「それに、七歳も年が離れていれば、もし、おまえに何かあったら、俺のせいにされるからな。必死で捜し回ったさ。すると、おまえときたら蝶々《ちようちよう》かなんかどこまでも追いかけて行って、とんでもない所で泣きべそかいてたりして……」
 信貴も思い出したように、少し懐かしそうに言うと、
「ちょっと待ってて」
 武は何を思ったのか、突然、携帯ゲームを放り出して立ち上がると、部屋を出て行った。
 しばらくして、一升瓶と二つのグラスを持って戻ってきた。
「飲みながら語ろうぜ」
 そう言って、布団の上にあぐらをかくと、一升瓶を豪快に傾けて、二つのグラスに中身を注ぎ分けた。
 ぷんと芳香がたった。
「飲みながらって。おい、これ、酒じゃないか」
 信貴は呆《あき》れたように弟を見た。
「ここで造ってる地酒だって。辛口で、けっこういけるよ。ねえ、知ってた? 神家のミワという名字には、蛇のとぐろを表す『三輪』の意味と、『神酒《さけ》』の意味があるんだって。ここで祭ってる蛇神の好物が酒ってことで、昔は酒造りとかもしてたんだってよ」
「おまえ……一応、未成年なんだからな、酒はまずいんじゃないのか」
「ここではいいんだよ」
 武はけろりとした顔で言った。
「え?」
「ここでは十八歳が成人とみなされてるから。十八歳になればおおっぴらに酒も飲めるんだ。誰も文句いわないよ」
「ここではそうかもしれないが、日本の法律では———」
「郷に入れば郷に従えとかいうじゃない。それに、これは俺にとっては必要な訓練でもあるわけだし」
「訓練? 飲酒が?」
「大神祭にむけてのね。三人衆ってのは、酒飲めないとつとまらないらしいんだよ。大神の霊をおろされたあと、村中の家々を回って、そこで出されたコップ酒飲まなきゃならないから。飲むといっても、三々九度風にちょっと口をつけるだけでいいみたいだけど、それでも数こなすと、けっこう利いてくるらしい。弱いやつだと途中でぶったおれて、救急車の世話になりかねない。それで、この役に選ばれたら、前々から訓練して酒に慣れておく必要があるってわけ」
「ふーん。……まあ、そういうことならしかたないか」
 信貴は今ひとつ納得できないような複雑な顔つきで、並々と酒の注がれたグラスを口に運んだ。
「あのさ。昼間の話だけど……」
 武がふいに言った。
「なんだ。昼間の話って?」
「昼間……兄貴何か言いかけてただろ。おふくろがどうとか……。叔母《おば》さんが入ってきて中断しちゃったけど」
「ああ、あれか」
「何言おうとしてたの?」
「大したことじゃないよ」
「話してよ。途中でやめられるとかえって気になる」
「なんだ、気にしてたのか。今朝でがけに、おふくろが言ってたんだよ。聖二さんは、武を神家の婿養子にするつもりじゃないかって……」
「婿養子?」
 武は眉《まゆ》をひそめた。
「養子の話なら冗談半分でしてたけど。婿養子ってことはないだろ。だって、神家の娘は、全部生まれついての日女とかいう巫女《みこ》で、一生独身でいなけりゃならないという可哀想《かわいそう》な決まりがここにはあるらしいから。婿なんか必要ないんだよ」
「一人だけいるじゃないが。日女じゃない娘が。といっても、養女だが」
「……日美香さんのこと?」
 武がはっとしたように聞くと、信貴は頷《うなず》いた。
「おふくろが言うには、今回、叔父《おじ》さんが彼女をおまえの家庭教師としてここに滞在させたのも、将来、おまえたちを一緒にさせるつもりがあるからじゃないかって」
「まさか。あっちの方が年上じゃないか」
「年上ったって、たった二歳だろ? 俺だったら、相手があんな美人なら、年上だろうが婿養子だろうが、喜んで話に乗るけどなぁ」
「それにあの女《ひと》も日女だよ」
「そうなのか。でも、養女なんだろう?」
「養女といっても、神家とはもともと血の繋《つな》がりがあるんだ。彼女のお母さんというのが日女だったらしい。ここでは日女の血を引く女はみんな日女ってことになるから」
「てことは、彼女も一生結婚できないのか? そりゃ、もったいない話だな」
「だから、俺《おれ》が婿養子にってことはありえないよ」
「じゃ、あれは、おふくろの早とちりにすぎなかったのかな。昔から、叔父さんはおまえを息子みたいに可愛がってたし、おまえの方もなついていたから、おふくろも変に気を回したのかもな」
「ただ……」
 武は言った。
「彼女は日女は日女でも、特殊な日女みたいなんだけどね」
「特殊な日女?」
「俺と同じ神紋があるんだって。神家の家伝によれば、今まで一度も女の身体には出なかったという神紋が。だから、もしかしたら、ふつうの日女とは違うのかもしれない。それと」
 武は何かを思い出したように言った。
「兄貴は俺が双子だったってこと、知ってた? もう一人の方は生まれてすぐに死んだってこと」
「……叔父さんから聞いたのか」
 武は頷いた。
「本当なの?」
「まあな。でも、それはおまえの耳には入れるなって、うちじゃタブーになっていたんだよ」
「彼女もそうなんだって。昨日、叔父さんから聞かされた」
「彼女もそうって?」
「双子だったんだって。俺と同じように、生まれてすぐに妹にあたる方は死んだらしいけど」
「本当かよ。すごい偶然だな、おい」
 信貴ははずしたメガネを浴衣《ゆかた》の袖《そで》で拭《ふ》きながら言った。
「俺もそれ聞いたときは驚いたよ。同じ神紋があって、しかも、どっちも双子の片割れだったなんて。そんな偶然があるのかって。でも、叔父さんの話では、これは単なる偶然じゃないんだってさ」
「へえ?」
「叔父さんが言うには、この世は、目には見えない無数の縦糸と横糸で作られている壮大な織物のようなもので、この織物の上で、同じようなパターンが現れたとしても、それは偶然でもなんでもなくて、元からある設計図に基づいて、無数の糸が必然的に織り成した結果にすぎないとか……」
「はぁ?」
 信貴は理解しかねるという顔をしていた。
「俺もよく解らないんだけど、昨日の講義ではそんなこと言ってたんだよ」
「講義って?」
「実をいうとさ、俺、ここに来てから、夜もお勉強させられてるんだよね。さっきまでそれやってたんだよ」
「勉強は午前中だけって言ってたじゃないか」
「受験勉強はね。夜、やらされてるのは別のお勉強。神家の家伝書を読むという……」
「家伝書?」
「千年以上も前からこの家に伝わる歴史書みたいなものらしい。代々の宮司とかが書いた。神家の神職につく者はあれを子供の頃から読まなければならないんだって。特に、お印の出た子はね。それで、毎晩、叔父さんの部屋に呼ばれて、日美香さんと一緒に勉強させられてるんだ」
「でも、古文書なんだろ。おまえ、そんなもの読めるのか」
「読めねえ。見せてもらったけど、暗号みたいでチンプンカンプン。本当だったら、叔父さんの手ほどきで古文書の読み方を習って、自力で読まなければならないんだ。日美香さんはこれをやっている。毎晩、遅くまで叔父さんの部屋に残ってるみたいだし。今もまだいるよ。彼女はすごい。ただの優等生じゃない。超優等生って感じだ。
 でも、俺は受験勉強もあるし、こっちの勉強までやったら大変だろうってんで免除されてるんだ。その代わりに、叔父さんの口から家伝書を要約したダイジェスト版みたいなのを講義されてるんだけど……。
 この家伝の序文に、『二匹の双頭の蛇』にまつわる予言めいたくだりがあるらしいんだよ。叔父さんが言うには、この二匹の双頭の蛇というのが、蛇紋をもって生まれた双子の片割れ、つまり、俺と彼女のことではないかと……」
 武はそこまで話しかけ、はっとしたように言った。
「あ、ごめん。これ以上話せないや。家伝の内容は、神家以外の人間には口外するなって叔父さんから言われてたんだ」
「まあ、いいけどな。そんなものを俺が知ったところでしょうがないし」
 信貴はやや鼻白んだようにそう言い、
「てことは、おまえと日美香さんの出会いは、そんな大昔に書かれた家伝とやらで既に予言されていたということなのか」
「そうらしい……といっても、はっきりと書いてあるわけじゃなくて、叔父さんの解釈ではってことらしいけどね」
「ノストラダムスの予言書みたいなものか。読む人間によって、どうとでも解釈できるという」
「そうかもね」
「でも、そういわれてみると、おまえら、どことなく似てるよな。今日、夕食の席で気が付いたんだが。おまえと日美香さん、並んで座ってただろ。まるで姉弟《きようだい》みたいに見えたぞ。顔形がどうってだけじゃなくて、なんか、似てるんだよ、おまえたち。まさに同じパターンって感じだ……」
 信貴がそう言いかけたとき、襖《ふすま》の外でがたっと物音がした。外に誰かいるようだ。
 さきほどから、なんとなく気配のようなものは感じていた。
 武は素早く立ち上がると、ものも言わず、がらっと襖を開けた。
 外に立っていたのは美奈代だった。
「叔母《おば》さん……」
「あ、あの、何かおつまみでもと思って、こんなものを作ってきたんですけれど」
 美奈代は、しどろもどろにそう言いながら、心なしか強《こわ》ばった顔に無理やり笑みのようなものを浮かべた。
 そういえば、台所に酒とグラスを取りに行ったとき、叔母が流しで洗い物をしていたのを武は思い出した。
 手にした盆には、三品ほどの簡単なつまみの皿が載っている。
「どうも……」
 そう言って盆を受け取ると、美奈代は逃げるように立ち去った。
 ひょっとしたら……。
 叔母はかなり前から外にいて、自分たちの話を聞いていたのではないか。
 武はふとそう思った。
 
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