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蛇神4-8-7

时间: 2019-03-26    进入日语论坛
核心提示:    7「今日はこのくらいにしておきましょうか」 聖二は時計をちらと見ながら言った。時刻は零時を少しすぎたところだった
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「今日はこのくらいにしておきましょうか」
 聖二は時計をちらと見ながら言った。時刻は零時を少しすぎたところだった。
「はい」
 日美香は頷《うなず》くと、広げていた古い書物を閉じた。そして、うんと大きく伸びをした。
「……受験勉強の方はどうです? はかどってますか」
 聖二は世間話でもするような気楽な口調で訊《たず》ねた。
「ええ、すごく」
 日美香は手近にあったポットのお湯を急須に移しながら言った。
「おっしゃるとおりでした。あの子、一見、馬鹿っぽいけれど、知能はかなり高いですね。とても呑《の》み込みが早いし、集中力もあります。本当いうと、今から始めても間に合うかなって心配してたんですが、たった一週間でこれだけ成果があがるなら、来年の春までには、なんとかなりそうな気がしてきました」
「それに、最近なついてきたでしょう?」
 聖二は薄く笑いながら言った。
「ええ、まあ」
 出会ったときは、武の態度がどことなくそっけない感じがして、第一印象で嫌われたのかとも思っていたが、あれは、養父が言ったとおり、単に照れていただけだったようで、最近では、少しは慣れてきたのか、むこうから話しかけてくるし、冗談めいたことも口にするようになった。
 最初に見せたそっけなさやぎこちなさはすっかり影をひそめていた。
 好かれているかどうかは分からないが、少なくとも嫌われてはいないようだ。そんな感触はあった。
 そのことを言うと、
「あなたの方はどうです?」
 聖二は真顔になって、突然聞いた。
「どうって?」
「彼のことをどう思いますか?」
「どう思うっていわれても……。今いったように、生徒としては予想していたよりも優秀だとは思いますけど……」
 日美香は、養父の質問の意味を消化しきれず、そう答えた。
「一人の男としては?」
「男……?」
 日美香は養父の顔を見つめた。
 どうして、急にこんなことを聞くのだろう。
「そんなこと聞かれても困ります。はじめから彼を『男』としてなんか見てないですから。だって、あの子はわたしの……」
 異母弟《おとうと》ではないか。
 いや、たとえ、異母弟と知らずに出会ったとしても、彼を「男」として見ることなどなかっただろう。
 武の外見は悪くない。並の感覚でいえば、かなり良い方かもしれない。でも、ルックスの良し悪しは日美香にとってはどうでもよかった。
 問題なのはその精神面だ。
 知能は思ったよりは高そうだったが、その精神レベルはまだまだ低いというか幼い。日美香の目には、武は、「男」というよりも、まだ「子供」にしか見えなかった。
 そんな未熟な相手に恋愛めいた感情などもてるはずもない。
 今の彼のどこにも、こちらが仰ぎ見るべきものは何もなかった。あったとしたら、それは、背丈くらいのものだ。
 もし、近親に恋してもいいというのなら、その相手は、あんな幼稚な少年よりも、むしろ、今目の前にいる叔父であり養父でもある男、底知れぬ精神性を備え、家伝書を読み解く上での師匠でもあり、それ以外にも様々な知識をもたらしてくれるこの男の方をためらうことなく選ぶだろう……。
「一週間やそこらで、こんなことを言うのは性急すぎるというのは、私とて、百も承知なのですが、しかし、もう時間がない。せめて、もう一カ月早く武の身体にお印が出ていたら、もっと時間をかけられたのに……」
 聖二はそんなことを呟いた。
 時間がない?
 何の時間がないというのだ。
「恋愛感情のようなものはまだ持てなくても、彼を嫌ってはいませんね? なんらかの愛情のようなものは感じるでしょう? 同じお印をもった相手として」
 聖二はさらにそう聞いた。
「はい、それは……」
 日美香は少し考えてから、そう答えた。
 はじめて会ったときから、母性愛にも似た奇妙な感情、尊敬や崇拝を含んだ恋愛感情とは全く違うが、どこかまだ完成していない大事なものを守ってやりたいという庇護《ひご》的な愛情のようなものは、武に対して自然に感じていた。
「姉」の愛情とでもいおうか。
 そして、その感情は、日ごとに強くなっている。武と一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど……。
 それがどういう類《たぐ》いの愛情であれ、彼に対して愛情があるかと問われれば、その答えはイエスだった。それは、まだ芽をふいたばかりの淡いものにすぎなかったが。
 でも、この芽が瞬くまに成長して、いつか、自分の心の中では収まりきれないような大木になるのではないかという、予感というか恐れは、既にこのとき、日美香の中に漠然とだが生じていた。
「それならば、やはり……」
 養父の顔に何か決心したような色が浮かんだかと思うと、きっぱりとこう言った。
「今度の大神祭での神迎えの神事の日女役はあなたに引き受けて戴《いただ》きたい」
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