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蛇神5-3-3

时间: 2019-03-27    进入日语论坛
核心提示:     3「郁馬のことなんですが」 そう切り出すと、それまで穏やかだった姉の表情が僅《わず》かに曇ったように見えた。「
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「郁馬のことなんですが」
 そう切り出すと、それまで穏やかだった姉の表情が僅《わず》かに曇ったように見えた。
「郁馬のこと?」
「ええ。最近、郁馬の様子が少しおかしいように思えるのですが、そのことで、何か気付かれたことはありませんか」
「……おかしいとは、例えばどのように?」
 そう問い返した耀子の顔には、何かを察したような緊張した色が浮かんでいた。
 やはり、姉は何か感づいているな……。
 聖二は、姉の顔色の僅かな変化も見逃さずにそう思った。
 今日こうして、姉の部屋を訪れたのは、妻の誕生祝いの件もあったが、むしろ、後から切り出したこちらの用件の方が聖二にとっては重要だった。
 最近の郁馬の様子が気にかかっていた。これまでは完全に膝下《しつか》に抑え込んでいると思っていたこの弟が、ここ数週間ほど、妙に反抗的な態度を見せるようになったような気がしてならない。
 何かにひどく苛立《いらだ》っているように見える。
 うっかり手綱を緩めようものなら、突然、乗り手を振り落とし、暴走しかねない危うさを感じていた。
 一見、優しげな女のような姿形にもかかわらず、気性の方はあまた居る弟たちの中で一番激しかった。その名の通り、悍馬《かんば》のようなところがある。
 小さい頃から、とにかく言うことをきかず、手をあげた数も一番多い。ただ、手を焼かせられた分だけ可愛いというか、いつしか、弟たちの中で一番信頼し、目をかける存在になっていた。
 郁馬の方も、暴れ馬ほど乗りこなした後は乗り手に柔順になるように、次第に、聖二を慕い尊敬し、自ら進んで服従するようになった。
 二十五歳も年が離れていると、その関係は兄弟というよりも、父子に近い。
 今では、手放すことのできない頼もしい片腕的存在となり、東京にいる他の兄弟や甥たちとのパイプ役でもあり、まさに聖二の手となり足となってくれていたのだが、それが最近になって、どうも様子がおかしい。
 何かに苛立って、ややもすると、兄の手綱を振り切ろうとするような不遜《ふそん》な態度を見せるようになった。
 一体、何にそんなに苛立っているのか。
 耀子に聞けば、その答えが解るのではないか……。
 戸籍の上では、長姉ということになっているが、耀子は、郁馬の実母である。これまでに日女として未婚のまま五人の子供を産んでおり、子供たちは皆、先代宮司の子として届けられ、法的には、耀子の「弟妹」ということになっている。郁馬はその四番目の子だった。
 しかし、これは公然の秘密というか、うちの者なら誰でも知っていることであり、むろん、郁馬も、物心ついた頃から、実母が「姉」と呼んでいる人であることは知っていた。
 しかも、今や、耀子は最年長の日女として、神家の「母」的存在になっている。
 戸籍上の母親である、先代宮司の妻の信江は存命ではあったが、齢八十を超え、老人性の痴呆《ちほう》症らしき症状を患い、今では、嫁たちの世話を受けながら、奥の隠居部屋に引き籠《こ》もる毎日を送っていた。
 風呂《ふろ》に入れたり食事を与えたりなどの、子供たちの実質的な世話や家事労働は、美奈代を筆頭に弟の妻たちがやっていたが、親に叱《しか》られた子供を慰めたり、悩み事や相談事を聞いてやったりなどの精神的な世話は、耀子が一身に引き受けていた。
 特に役割分担を決めたわけでもないのに、神家の女たちは、「日女」と「非日女」とによって、その役割が自然に分けられていたのである。
 いわば、耀子の存在は、子供たちの駆け込み寺であり、この家のオアシスといってもよかった。
 耀子に聞けば、神家の子供たちの誰が今どんな悩みを抱えているか、どんなことに興味をもっているか、将来にどんな夢を抱いているかといったことまで、たちどころに、家長である聖二の耳にも入る仕組みになっていた。しかも、これは、小さな子供たちに限ったことではなく、二十歳を超えた者でさえ、何か悩み事や相談事があるときは、いまだに真っ先に耀子のもとへ行く。
 当の聖二でさえ、誰かの精神的な支えやアドバイスが欲しいときは、つい、この姉の元に足を運んでしまう。母の信江や妻の美奈代をその相手として考えたことは一度もなかった。
 もし、郁馬が胸のうちに兄には語れないような不満や苛立ちを抱え込んでいるとしても、実母でもあり、神家の「母」的存在である姉には何か打ち明けているのではないか。
 そう思ったのである。
「何かにひどく苛立っているように見えるのです。それで、姉さんに伺えば、郁馬の苛立ちの原因がつかめるのではないかと」
 聖二は姉の質問にそう答えた。
「そういえば、おとといの夜遅く……」
 耀子は思い出したように言った。
「郁馬がわたしの部屋にふらりとやってきたんです」
 おとといといえば、離れの茶室に郁馬を呼び付けて密談した日だった。あのあと、この姉の元を訪れたのか。
「そのとき、何か言ってましたか」
「いえ、これといって特に。あの子は他の子供と違って、何か悩み事があっても、はっきり口に出して言わないのです。子供の頃からそうでした。わたしのところに来ても、何も言わずに、そばで、絵を描き散らしたり、玩具《おもちや》で遊んだりしているだけで。でも、態度がどこか拗《す》ねている感じなので、何かあったなと察してやるしかないんです。おとといの夜も、いきなり肩を揉《も》んでやるといって、しばらく肩を揉んでくれただけで……」
 耀子は憂い顔で言った。
「ただ、帰り際に、武さんの身体に出た蛇紋は本当にお印なのか、お印に似たただの痣《あざ》に過ぎないんじゃないかというようなことをチラリと言っていましたが」
「まだそんなことを? あれは、大日女様にもお見せして、お印に間違いないとされたことなのに」
「あんな風に突然、それも日女の子でもない武さんにお印が出たことがどうしても信じられないというか信じたくないという風でした」
「……」
「もしかしたら」
 耀子は窓の外を見ながら言った。
 中庭にいた子供たちは、おやつ代わりにと、美奈代が運んできた大皿に盛り上げた蒸し饅頭《まんじゆう》の山に群がっていた。
「郁馬の苛立ちの原因は……あの子かもしれません」
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