これは……日美香?
その写真を見て、郁馬はついそう口走りそうになった。
それほど、そこに写っていた若い女の顔は日美香に似ていた。
いや、違う。
髪形が全然違う。日美香は背中に届くくらいのストレートの長髪だが、この娘は、少年を思わせるショートカットだった。
それに、目鼻立ちはそっくりだったが、肌の色も違う。日美香は透き通るような色白の肌をしているが、こちらの方は、こんがりと日に焼けて小麦色をしている。
しかも、こちらの娘には化粧っ気が全くない。
非常に似てはいるが、別人であることは明らかだった。
これはどういうことだ……。
郁馬は、その写真を食い入るように見ながら、目まぐるしく頭を働かせた。
少なくとも、これは他人の空似などというものじゃない。それだけは確かだ。日美香と顔がそっくりで、年が同じで、しかも、同じように、片胸に蛇紋めいた痣があるなんて……。
ここまで似た赤の他人が存在するわけがない。
唯一、考えられるのは、この娘は……。
双子だ。一卵性双生児の片割れだ。
次兄の話では、日美香も、武同様、生まれたときは双生児だったが、妹にあたる方はすぐに死んだということだった。少なくとも、養母である女からそう聞かされて育ったと……。
しかし、そうではなかった。
妹は死んではいない。生まれてすぐに死んだというのは、養母がついた嘘だ。こうして生きている。なにゆえか、沖縄で育ち、成長して、日美香と同じ年になっている……。
「日美香様にそっくりでしょう? 僕もはじめて見たときは、カメラ取り落とすほどびっくりしたんです」
智成が言った。
「これは……たぶん、死んだと思われていた日美香様の双子の妹だ。それ以外に考えられない」
郁馬は呻《うめ》くように言った。
「僕もそう思いました。胸のお印の噂の報告を受けていなければ、世の中には似た人間もいるもんだなくらいにしか思わなかったでしょうが」
「ただ……一体どういう経緯で、この娘が沖縄で育つはめになったんだ? 日登美様が東京で出産されたあとすぐに亡くなって、そのとき同居人だった葛原八重という女に日美香様の方が引き取られたというのは分かるんだが、この娘の方は一体……」
郁馬は独り言のように言った。
もし、この娘が日美香の双子の妹だとしたら、当然、実母は倉橋日登美のはずで、この娘を沖縄で育てた女、つまり、喜屋武蛍子の姉という女性も養母にすぎなかったことになる……。
「そのへんの詳しい事情までは分からなかったんですが、報告書を読めば何か分かると思いますよ。照屋という一家の家族構成についても詳しく調べ上げてあるようですから」
智成が立ち上がりながら言った。
「そうか。じゃ、ゆっくり読んでみるよ。ご苦労だったな」
郁馬は弟をそう労《ねぎら》った。
「あ、それと、この件に関しては、こちらから兄さんには報告しておくから」
そう言うと、智成は、重荷をおろしたような顔になり、「ひとっ風呂浴びてくるかな」と言って、タオルを肩にかけ、部屋を出て行った。