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蛇神5-8-4

时间: 2019-03-27    进入日语论坛
核心提示:     4「俺と無関係じゃない?」 武は怪訝《けげん》そうに聞き返した。「でも、俺、そいつのこと知らないよ。向こうがこ
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「俺と無関係じゃない?」
 武は怪訝《けげん》そうに聞き返した。
「でも、俺、そいつのこと知らないよ。向こうがこっちを知ってるとか?」
「いや、照屋の方もおまえのことは知らんだろう」
「だったら……」
「照屋には三歳年上の女子大生の姉貴がいるんだが、この姉貴が」
「俺のこと知ってるとか?」
「いや、そうでもない。その姉貴には幼なじみの親友というのがいて」
「その友達のまた友達の友達の友達のまた従兄弟《いとこ》の隣に住んでる奴が俺の知り合いだとか?」
「その親友というのが、おまえを刺したあの女なんだよ」
「え……」
 武の顔から茶化すような表情が消えた。
「確か、おまえを刺した犯人の女、知名とかいう沖縄出身の女子大生だったよな。事件当時は大学の方は退学してたみたいだが」
「……」
「照屋も沖縄の出身なんだよ。中学のときに両親なくして、姉貴と二人で、東京に出ていた叔母を頼って上京してきたんだ。で、この姉貴というのが、最初は叔母のマンションで一緒に暮らしていたんだが、あの事件の前に、幼なじみでもあり親友でもあった知名という女と少し広いマンションを借りて、ルームシェアみたいなことをしていたというんだ——」
「その姉貴って名前なんていうの?」
 武が芝浦の話を遮るようにして聞いた。
「照屋火呂。火の用心の火と書いて、口二つの呂で、火呂っていうんだ」
「ヒロ……」
 武は茫然《ぼうぜん》としたように口の中で呟《つぶや》いた。
「といっても、照屋の姉貴はあの事件とは全く関係なかったんだけどな。ルームメイトの女が自殺するまで何も知らなかったらしいし。豪からこの話を聞いたときは、飲んでた玉露を吹くというか、いやあ、世間は広いようで狭いとつくづく思ったよ……」
 話し続ける芝浦の声を遠いものに感じながら、武は思い出していた。
 四カ月ほど前のことなのに、なんだか酷《ひど》く遠い昔のことを思い出すような感じだった。
 あの夏の日……。
 ちょっと訳ありの元女教師に呼び出された喫茶店で、一人になったあと漫画を読みながら涼んでいると、馴れ馴れしく話しかけてきた見知らぬ若い女がいた。
 大きな紙袋をさげて、Tシャツにジーンズというラフな格好のわりには、顔には仮面を思わせる濃い化粧を施した、キャッチか何かにしては、最初からどこか異様な印象のあったあの女。名前を聞いたら、「ヒロ」と名乗ったあの女……。
 あの「ヒロ」という名前は咄嗟《とつさ》に思いついた嘘ではなくて、親友でもありルームメイトでもあった女の名前を騙《かた》ったものだったのか。
 騙ったのは名前だけじゃなかった。
 弟が一人いてボクシングをやっていると言っていた。最初はそう言っていたのに、途中から、弟は生まれつき重い心臓病で寝たきりだとか矛盾することを言い始めて……。
 あれは、ヒロという親友の身の上を騙って話していたのが、途中から自分自身のことを話しはじめて、それが混同して、弟は生まれつき歩くこともできないような重い心臓病なのに、ボクシングのような激しいスポーツをやっているなんて支離滅裂な話になって……。あのとき、あわやというところで、あの女が持っていたPHSが突然鳴った。
 それに出た女は、「ヒロ?」とか言っていた。そうだ。あれは名前を騙っていた当の相手がかけてきたんだ。心臓病だった弟が死んだという知らせみたいだった。
 あの突然かかってきた電話のおかげで俺は助かったんだ。女は、あの電話を受けたあと、態度がガラリと変わった。そして、あの女がやろうとしていた「儀式」を中断して、「弟の乗る船に乗らなければ」なんて訳の分からないことを口走ったかと思うと、いきなり、俺の見ている前で、十九階のマンションの窓から身を投げたんだ……。
 あのあと……。
 床に転がったままだった女のPHSまで何とか這《は》って行き、それを使って救急車を呼んだ。電話に出た相手にマンションの住所を伝えたところで、力尽きて、意識を失った。気が付いたら、病院のベッドの上だった。
 あのとき、もしあの電話がかかってこなければ、あの女は「儀式」と称して俺を殺していたに違いない。そして、他の被害者のように、持っていた電ノコで手足をバラバラにして、心臓をえぐり取って……。
 でも、あの電話がかかってきたことで、俺は助かった。もし、あの電話をかけてきたのが照屋火呂という女だとしたら……。
「先生、俺も行くよ」
 武はそう口走っていた。
「……え。そ、そうか。まあ、しかし、考えてみれば、あの事件は、おまえにとっては思い出したくもないような嫌な体験だっただろうから、今更、犯人の知り合いになんか会いたくもないって気持ちも分かるしなぁ。だから無理にとは言わないが……」
 それまで迷惑そうな顔をしていた武が急にうってかわって積極的になったので、芝浦は幾分面食らったように言った。
「俺、行くよ。行って、照屋豪の姉貴という人に会う。だって、その人は」
 そう言いかけたとき、ホーム内を揺るがせるようにして電車が入ってきた。
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