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蛇神5-9-6

时间: 2019-03-27    进入日语论坛
核心提示:     6 いつから。 いつから、ああして日美香は夫の部屋に忍んで行くようになったのか。 パジャマ姿の日美香が聖二の部
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 いつから……。
 いつから、ああして日美香は夫の部屋に忍んで行くようになったのか……。
 パジャマ姿の日美香が聖二の部屋に消えた後で、すぐにそれまで点いていた部屋の明かりがすべて消えた。
 これはもう疑う余地がなかった。
 地震の直後、二人が抱き合っていたのは、まだ別の解釈の成り立つ余地があった。でも、今見た一連の光景にどんな別の解釈が成り立つというのだろう。
 解釈は一つしかない。
 あの二人はいつの間にか養父娘という一線を越える関係になっていたということだ。家伝書を読むなどというのも、忌まわしい秘密の関係をカムフラージュする言い訳にすぎなかったということだ。
 そう考えれば、なぜ、こんな何もない山奥の村に、日美香のような若く美しい女が、学業や都会での一切の楽しみをなげうってまで住み着こうとするのか。
 最近になって、なぜ、妻に対する夫の態度が妙に優しく寛大になったのか。
 その不可解な謎がすべて解けるではないか。この指環にしても……。
 美奈代の視線が窓の外から指に光る石につと移った。
 若い女にうつつを抜かすようになった夫の妻への無意識的な贖罪《しよくざい》の現れだったのかもしれない。
 一体いつから二人は……。
 毎夜ああして……?
 たまたま地震の騒動で寝付けなくなってしまったが、午前二時過ぎといえば、いつもはとっくに夢の中にいる頃だった。
 養女にした女に夫を寝取られているとも知らず、妻である自分はこうして独り寝の夢の中にいた頃……。
 美奈代は暗い窓ガラスに映った顔を見た。慄然《りつぜん》とした。
 そこに映っていたのは鏡で見慣れた自分の顔ではなかった。
 夜叉《やしや》のような形相《ぎようそう》をした見知らぬ女の顔だった。
 でも……。
 一つだけ言えることがある。
 いつからあの二人が秘密の関係を結ぶようになったか知らないが、そのきっかけを作ったのは、夫の方ではないということだ。それは断言できる。あの夫に限ってそれだけはない。養父という立場を利用して、若い娘を自分の自由にするということはありえない。聖二の妻になって、二十年というもの、何かと口には言えない苦労をしてきたが、それでも、一つだけ幸運なことがあった。それは、夫の女性問題で悩んだことが一度もないということだった。
 東京での学生時代のことは全く知らない。また、山奥に引っ込んだといっても、月に一、二度の割合で、定期的に上京しており、たいていは二、三日、長いときでも一週間ほど滞在して帰ってくることがあったが、その間、向こうで何をしているのかはさっぱり分からない。
 だから、夫の行動のすべてを知っているわけではなかったが、少なくとも、この村では女の影など微塵《みじん》もなかった。
 それに、夫は若い頃から、あれだけの容姿に恵まれながら、女嫌いかと思うほど禁欲的なところがあった。生まれついての神官と言ってもよい。そのへんの格好だけの生臭坊主、生臭神主とはわけが違う。
 そんな夫が、いくら若く美しいからといって、養女である娘に自分から手を出したとはとても考えられない。
 日美香に誘惑されたのだ。
 そうに決まっている。
 いかにも清らかそうな顔をして、あれはそういう女だ。わたしには分かっていた。五月の半ば、長野駅からあの女と同じバスに乗り合わせたときから……。
 あれは魔性だ。魔女だ。聖女のような気高く清らかな仮面の下に淫《みだ》らで忌まわしい魔女の素顔を隠し持っている。
 最近、郁馬の様子が目に見えておかしくなったのもあの女のせいだ。耀子がふと漏らしていた。郁馬が日美香に恋患いのようなものをしているようだと。それだって、きっと、あの女の方が誘惑したのだ。
 来年の正月までいる予定だった武がまるで何かから逃げるように突然村を去ったのも、あの女が原因ではないか。武は、あの女が魔性であることに感づいたのかもしれない。だから逃げ出したのだ。
 郁馬も武もあの女にちょっかいを出され惑わされた。相手が独身の若い男ならまだいい。しかし、よりにもよって、この家の当主であり、血の繋《つな》がった伯父であり養父でもある夫にまで毒手を延ばすとは……。
 許せない。
 もう許せない。
 美奈代はぎりぎりと音をたてるほど歯軋《はぎし》りした。鋭い犬歯で噛《か》み締めた唇が切れて口の中に血の味が広がるまで……。
 そして、窓ガラスにぺたとついた両手の片方の指に光るトパーズをじっと見た。
 黄金のトパーズが声なき声で命じていた。
 あれは人間の女ではない。
 魔性の蛇だ。
 蛇は無垢《むく》なものを誘惑し滅ぼす邪悪な生き物だ。
 聖書にもそう書いてある。
 あれは魔女だ。悪い魔女は殺せ。魔女を殺して、踏みにじられた妻の誇りを取り戻せ。
 夫を取り戻せ。
 火だ。
 火をつかえ。
 魔女は焼き殺してしまえ。切ったり突いたりしたくらいでは生き返ってくる。生きたまま焼き殺してしまえ。灰も残らぬほどに焼き尽くしてしまえ。昔、西洋では魔女と見なされた性悪女はそうやって皆殺しにされたのだ。
 火……?
 そうだ。
 この手で焼き殺してしまおう。
 魔女にふさわしく、生きたまま……。
 今までの自分だったら、たとえ夫と養女の秘密の関係を知ったとしても、あの夫に逆らうのが恐ろしくて、日美香のような若く美しい女に太刀打ちできるはずもないとすぐにあきらめてしまって、二人の関係を知りながら見て見ぬ振りをしてしまっただろう。
 そして、人知れず悶々《もんもん》と悩み続けただけだろう。
 でも今は違う。
 わたしはこの石を得た。皇帝《インペリアル》のトパーズと呼ばれる黄金の石を。この石を身につけるにふさわしい女にならなければ。この石が今わたしに命じている。
 魔性の蛇を焼き殺せ、と。
 美奈代は走るような足取りで部屋を出た。もはや足音をたてるのもかまわず、廊下をどしどしと荒々しく歩いて、台所まで行くと、迷わず、台所の片隅に置いてあったストーブ用の灯油を入れた赤いポリタンクを手にした。前日、それは美奈代自らの手で満タンに補給したものだった。
 そして、古いガスコンロの傍らに置いてあったマッチを上着のポケットに入れ、灯油を詰めたポリタンクを片手にさげると、台所を出た。
 廊下にぽたぽたと灯油の滴をたらしながら、美奈代は目を光らせ、口元にはうっすらと笑いを浮かべ、うわ言のように何か呟《つぶや》きながら、夫の部屋に向かった。
 魔女は殺せ。魔女は殺せ。魔女は生きたまま焼き殺せ……。
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