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蛇神5-10-4

时间: 2019-03-27    进入日语论坛
核心提示:     4「あの、実は、今日突然伺ったのは」 ややあって、美里は話題を替えるように言い出した。 日美香の子の足の「障害
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「あの、実は、今日突然伺ったのは……」
 ややあって、美里は話題を替えるように言い出した。
 日美香の子の足の「障害」については、東京に帰り次第、早々に夫と相談しようと思いながら。
 産まれる前から、ここでああだこうだと言ってみてもはじまらない。
 それよりも……。
 総理夫人という立場上、何かと多忙な身に鞭打《むちう》つようにして、こんな山奥までやって来たのは、そうせざるを得ない切実な理由があったからだ。
 その話を早く切り出さなければ。
「お腹の子の父親のことなのですが……」
 そう続けようとすると、
「その件なら、前にも電話で申し上げたように、わたしは一切お話しする気はありません」
 日美香は俄《にわか》に厳しい表情になって、鼻面で戸を閉ざすような素っ気なさで言った。
「で、でも……」
「前にも申し上げたように、わたしは日女《ひるめ》です。この村では、日女の子はすべて大神と呼ばれる蛇神の子とみなされます。人間の父親が誰かなどということは一切|詮索《せんさく》しないのです。それはどうでもいいことなんです。ですから、その話はもう……」
「でも、武が——」
 美里はそう言いかけて口ごもった。
「武? 武君がどうかしたんですか」
 日美香はやや心配そうに聞き返した。
「武があなたの妊娠のことを知って、もしかしたら自分の子かもしれないと言い出して。そのことで、先日、ニューヨークから電話してきたんです」
「……」
 武がこの四月に入学したばかりの大学を十日ほど通っただけで退学した後、突然、ギタリストになると言い残して日本を立ち、ニューヨークにいる友人のアパートに転がりこんで、その友人と共に音楽活動のようなことをしているらしいという噂は、日美香の耳にも届いていた。
 その友人というのが……。
「予定日が八月なら身におぼえがあると言うんです。それをあなたに確かめてくれと。それで、もし、自分の子なら、すぐ日本に帰ってそれなりの責任を取りたいからと」
「責任を取るとは……?」
 日美香は冷静な顔で聞き返した。
「詳しいことは電話では言いませんでしたが、当然、あなたと結婚するか、それが無理なら、子供だけ認知するとか、そういうことだと思いますけれど」
「そんな必要はありません。そう武君に伝えてください。こんなことで日本に慌てて帰ってくることはないと」
「あの……それは、武がお腹の子の父親ではないという意味ですか。それとも」
 美里はこわごわという顔つきで聞いた。
「この件に関して武君は全く無関係です。そうとしかわたしには言えません。とにかく、武君と結婚する気はありませんし、子供の認知も必要ないです。責任とかそんなことは一切考えなくていい。そう伝えてください」
「あなたはそれでよくても、武の親であるわたしたちはそれでは済まないのですよ」
 美里は不服そうに言った。
「息子の不始末を見て見ぬ振りをするわけにはいきませんし、もし、これがマスコミに嗅《か》ぎ付けられたら、また格好のスキャンダルとばかりに……」
「息子の不始末?」
 日美香は眉《まゆ》を寄せた。
「主人はそう申しておりました。わたしも……。実をいうと、あなたを武の家庭教師にすると聖二さんから伺ったときから、いつかこんな問題が起こるのではないかと心配していたんです。でも、あのとき、聖二さんは、そうなったら、武をあなたの婿にして神家に迎えれば一件落着だとおっしゃって。でも、その聖二さんがあんなことになってしまって、今となっては、武の尻拭《しりぬぐ》いができるのは、わたしども親だけになってしまったわけですから——」
 美里がさらにくどくどと言い募ろうとすると、日美香は遮るように言った。
「武君は何も不始末などしていません。だから、あなたがたが責任とか尻拭いとかいうのは全くお門違いです」
「……」
「武君が身におぼえがあると言ったのは、おそらく、ある神事にまつわることだと思います。よその方には詳しくは話せないのですが、この村には、毎年の大神祭で、ある特殊な神事を行うのです。去年は、武君にもその神事に協力して貰《もら》いました。本人はあまり気の進まない様子だったのを頼み込むようにして無理やり。この件で、誰か被害者がいるとしたら、それはむしろ武君です。だから、彼はこの件に関して、何の責任も負う必要はないと言ってるんです」
「……つまり、あなたのお腹の子は別の男性の子で、武とは全く関係がない。武にはそう伝えてよいということでしょうか」
 美里は業を煮やしたように言った。
 どうも日美香の言わんとすることが今いち理解できない。自分が知りたいのは、腹の子の父親が武なのかそうではないのかということだけだ。武もそれを知りたがっている。もし、違うなら、これ以上、この件に深入りするつもりもない。
 母親の情としては、できれば、成人前の息子に父親などという大役を押し付けたくはない。武の子でないなら、こんな有り難いことはない。
 それなのに、日美香はそのことはなぜか明確にせず、「無関係」とか「不始末ではない」とか、どこか奥歯にものがはさまったような言い方で答えようとする。
 それが美里の神経を苛立《いらだ》たせていた。
「はい。そう伝えてくれてかまいません。そのとき、こうも伝えてくれませんか。こう言えば、武君にはすべてが分かると思うので」
 短い沈黙の後、日美香は何かを思いついたような顔で言った。
「わたしはこの子をお養父《とう》さんの生まれ変わりだと信じている。だから、生まれてくる子は、お養父さんだと思って育てるつもりだと」
「聖二さんの?」
 美里は怪訝《けげん》そうに聞き返した。
「そうです。お養父さんがあんな不慮の……事故で亡くなって、その後に、この子が授かった。これは偶然とは思えません。なんだか、わたしには、この子がお養父さんの生まれ変わりのような気がするのです」
「……」
 美奈代はやや意外そうに日美香を見ていた。生まれ変わり云々《うんぬん》というのは、まさか本気で信じているわけではなく、言葉の綾《あや》にすぎないのだろうが、この娘がこんなことを口にするほど、養父である聖二を慕っていたとは知らなかった。
 葬儀の際も、列席者が号泣している中で、この娘一人が、涙ひとつ見せず、まるで赤の他人の葬儀にでも参列しているような恬淡《てんたん》とした態度だったのがかえって印象に残っていた。
 しかし、冷淡そうに見えたのは見かけだけで、内心では養父をそれほどまでに慕っていたのか……。
 そう見直す気持ちだった。
 
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