ここ数年、元日は京都比叡山の山荘で迎えている。
京都の冬は寒さが厳しい。ことに、私の山荘は、すぐ目の前が杉林の谷になっていて、遥か下方の裾に大津の町並があり、その|背《うし》|後《ろ》に琵琶湖が拡がって一望に見える。
冬場は、晴れた日でも比叡山の尾根から舞う風花が散り、ときに湖から吹きあげる風が家の戸をふるわす。
元日に久しぶりに雲ひとつない御来迎を拝んだ。|暁闇《あかつきやみ》の湖面に薄く色がさすと、薄墨色の姿を見せている伊吹山あたりが、うっすらと茜色に染まって太陽がポッカリと顔を出す。日頃、信心のない私だが、このときだけは、お|天《てん》|道《と》さまに向かって手を合わせる。
亡父も信仰心の薄い人だったが、なぜか元旦には早く起きて太陽に向かい、|柏手《かしわで》を打っていた。言うなれば四方拝の略式のようなものだが、父の所作に無関心だった私が、元日に早起きして琵琶湖の背に昇るお陽さまを拝む。いつの間にか私もそんな|齢《とし》になってしまったのだろう。