東京で祝う雑煮は四角に切った切り餅だが、ここでは京風に丸餅を使う。
私は東京で育ったので、正月の雑煮はごく素朴なものである。かつお節と昆布で出し汁をとるが、わが家ではおふくろの味として、上等のかつお節を丁寧に削ったものをたっぷり使い、出し昆布はほんの補いほどに使うだけである。
昔は|雉《きじ》の肉や鴨を使ったこともあるが、戦後は|専《もっぱ》ら鶏肉のささ身を酒塩に浸してから軽く湯がいたものを使う。他に小松菜などの青菜だけである。味つけはこれも関東風に醤油味である。
切り餅と丸餅の境界は富士川が境だといわれているが、私は切り餅の雑煮を好む。
九州博多雑煮も悪くない。アゴ(とび魚)の素乾しと昆布で出しをとるが、さっぱりしていて私の口に合う。アゴの何本かを、カルキを抜いた水に出し昆布といっしょに漬け込み丸一日以上置いてから、出し汁を濁さぬように沸かして出し汁をとる。|鰤《ぶり》などの魚を入れたりするが、博多雑煮にかつお菜は欠かせない。
私は、秋の松茸の出盛りに錦小路の八百屋「川政」から開き松茸を送ってもらい、傘が汗をかくぐらいオーブントースターで|炙《あぶ》ってから、冷やしたものを汁ごとラップでしっかりと包み、冷凍庫に入れておく。正月にこれを取り出して、自然解凍してから薄く切っておく。
大振りの木の椀に、若狭の小鯛のささ漬か|鱚《きす》のささ漬(これは※[#「※」はたぶん○に海と思われ]印のものが最上である)を糸切りにして、松茸と一緒に置く。
そして、こればかりは上等の昆布出しでとった出し汁に、薄口醤油と塩と酒を入れて吸物出しを作り、軽く焼いた小振りの切り餅にささ漬、松茸をのせて、上からかけてやる。三つ葉などの青味をつけて、吸い口に橙の小片をのせる。
酒肴のあと口に評判のよい自慢の雑煮である。