四月の声を聞くと|筍《たけのこ》が出廻るようになる。近頃では、十二月に筍の天然のものが出ているが、本当の味は四月に入って白子筍が出るようになってからだ。その歯ざわりは、春から初夏の味である。
〈筍の刺し身〉
掘りたての新鮮で太ぶりな筍でつくると珍味である。これはゆでたての筍の先の柔らかいところを薄くそぎ身に切り、いち度びきの昆布出しで洗うように|濯《すす》いで冷蔵庫に入れ、よく冷やしておく。
梅干しの種を取り、すり鉢で当って大粒の梅干し一個にうすくち醤油をひとたらしに味醂少々を加え、昆布出し大さじ一杯ほどを足してゆるく溶き伸ばしてから、丁寧につくるなら裏ごしにかける。これに|山葵《わさび》をおろして混ぜ合わせて筍のうす切りを食べる。
簡単にするなら市販の梅びしおでよいが、手づくりの味には及ばない。